A
それから数日経った頃である。
店のカウンターで新聞紙を読んでいた店長が、暇そうにしていた刹希に喋りかける。

「大使館はまたテロに合ったらしいね。最近は多いからホント危ないねェ」
「過激派が動いてるらしいですからね。店長も巻き込まれないように気を付けてくださいね!」
「それをいうなら、刹希ちゃんが気を付けなくちゃダメだよ」

そう言われると返す言葉もない。
うぅ……と唸りながら、刹希は気を付けますと素直に返しておく。
別に好きで厄介事に巻き込まれているわけではないのだが、銀時とともに行動していると必然的に、というか流れで巻き込まれているのだ。
面倒と思うことも多々あるが、それは嫌というわけでもないのが本心だったりする。
それが根本にあるので余計面倒なのだ。

「まあ、真選組が頑張って取り締まってくれれば巻き込まれるなんてないと思いますけどね」

先日言っていた総悟の言葉を聞くに、真選組もこの件で忙しいようだ。
何か厄介なことが起こる前に彼らがどうにかしてさえくれればいいだけの話なのだ。

その時、外にいる人と店内にいる客からざわめきが起こる。
何事かと外を覗けば目の前には飛脚の男が倒れていたのだ。
荷台に入っていたのだろう、手紙が周囲に散乱している。

「おやおや、こりゃアンタ大丈夫かい!」

刹希の後ろから店長が現れて、倒れている男に駆け寄った。
男は店長に任せるとこにして、刹希は散乱している手紙をかき集めて倒れているバイクを起こす。
店には被害がないことだけが幸いだ。

「飛脚のオジサン、大丈夫ですか?」
「うっ……そ、その中に……一番デカい包みを」

そう言われた刹希はすぐさま荷台から手紙とは違う、一般的書籍くらいの大きさの包みを取り出して男に駆け寄った。

「これがどうしたんですか?」
「俺の代わりに……届けてください……お願い。……なんか大事な届け物らしくて」

刹希は眉をひそめて、店長と顔を見合わせる。

「届け損なったら俺……クビになっちゃうかも。お願いしまっ……」
「あ、ちょっと!」

言いたいとこだけ言って男は気を失ってしまった。
手に持った包みを見つめてから、刹希はため息をこぼした。

「刹希ちゃん、この人は私が見ておくから行って来てやってくれるかい」
「はい。さすがに放置できませんからね……すぐに帰ってきます」

苦笑いをこぼしながら、刹希は包みに書いてある住所へ向かったのだった。



   *



「アレ?」

住所を頼りに先を進んでいると、道の反対方向から見覚えのある三人を発見した。
遠目から見てもわかる銀髪とチャイナ服で番傘を差した少女と、地味男。
左手の塀奥を見ながら、なぜ彼らがこんな所にいるのだろうと疑問符を浮かべる。

「銀時、神楽、新八!」
「!よォ」
「刹希!」
「刹希さん、どうしたんですか?こんな所に」
「それはこっちの台詞だけど。三人で仲良く散歩?」

そう問いかけると、銀時は頭を掻きながら面倒くさそうに否定してくる。
見れば神楽の手には刹希と同じような包みが……。

「さっきお登勢さんの店に飛脚の人が突っ込んで事故起こしちゃったんですよ」
「そーしたら、コイツを届けてくれって言って気絶しやがってよォ」
「え、なんだ、私と同じだね」
「え?」

刹希の一言に銀時と新八は怪訝そうに顔を見合わせる。
刹希は自分の持っている包みを銀時達に見せて経緯を話した。

「私もさっき飛脚が店の前で事故ってね。届けてって言ったら気絶して仕方なく……」
「オイオイ、同じタイミングでこんな事ってあんのかよ」
「まさか、何かの陰謀アルか!?」
「そんなまさかァ……」

神楽は全く状況理解できてない、というか目をキラキラさせて楽しんでいるが、銀時、刹希、新八は冷汗しか出てこない。
しかも、自分たちがいるのは地球に最初にやってきて無理矢理開国を迫った天人、戌威星の大使館だ。
近頃の大使館のテロと真選組の動きを知っている刹希からすれば、確実に何かに巻き込まれているとしか思えなかった。

(店長、早速何かよからぬことに巻き込まれました……)

気を付けてと言われたばかりなのに、と肩を落とす刹希。
何かが起こる前に早くこの場から立ち去りたい気持ちでいっぱいだ。
今回のテロは桂が関わっていると総悟も言っていた。
自分の手にある包みと銀時たちの話を総合しても、確実にあの桂(バカ)が何かやらかそうとしているとしか思えない。
ああ、今すぐここから立ち去るべきか、そう思案していると刹希たちに声をかけてきた人物がいた。

「オイ、こんな所で何やってんだ、てめーら。食われてーのか、ああ?」

人物といっても人じゃなかった。頭上から聞こえてきた声に一同顔を上げる。
そこには、銀時よりもデカい二足歩行の犬が立っていた。戌威族だ。
その威圧感に新八が顔を青くさせながら事を伝える。

「いや……僕ら届け物頼まれただけで」
「そうなんです。これどうぞ」
「オラ、神楽も早く渡……」
「チッチッチッ、おいでワンちゃん。酢昆布あげるヨ」

刹希が戌威族に包みを差し出す横で、神楽は正に犬を相手にしているような態度を取っていた。
銀時がそんな神楽の頭を叩いて、神楽と刹希の包みを戌威族に再度差し出した。

「届け物がくるなんて話聞いてねーな。最近はただでさえ爆弾テロ警戒して厳重体制なんだ。帰れ」
「ドッグフードかもしんねーぞ。もらっとけって」
「そんなもん食うか」
「え、嘘!食べないの!?」
「お前俺たちをなんだと思ってんだ!?」

素で驚いている刹希に怒った戌威族は、銀時の持っていた包みを叩いた。
二つの包みは宙を舞い、大使館内の敷地に落ちる。
あ、と誰かが声を漏らして、二つの包みが地に落ちた……その瞬間、二つの包みが大爆発した。

「……オイオイ」

刹希が思わず声を漏らす。
門は爆風で歪み壊れ、がれきが飛んでくる。
新八と戌威族は驚愕の表情を浮かべていたが、銀時と刹希はちらりとお互いに視線を交わして爆弾に視線を映した。

「……なんか、よくわかんねーけど。するべきことはよくわかるよ……逃げろォォ!!」
「待てェェ、テロリストォォ!!」

銀時が叫ぶと万事屋一同は走り出した。
だがしかし戌威族がそう叫ぶと、いきなり刹希の左腕が引っ張られて、即座に前にいた神楽の腕を掴んだ。
ちらりと後ろを見れば、戌威族が新八の腕を掴み、新八が銀時の腕を掴み、銀時が刹希の腕を掴んでいる状況にあった。
計三人分の重みがかかる左腕は悲鳴を上げている。

「新八ィィィ!!てめっ、どーゆーつもりだ離しやがれっ」
「まず銀時(お前)が離せよ!!」
「嫌だ!!一人で捕まるのは!!」
「俺のことは構わず行け……とか言えねーのかお前」
「銀時はその薄汚い手を離せ!!腕がちぎれるからァ!!!」
「私に構わず逝って、三人とも」
「ふざけんな、お前らも道連れだ。あと俺の手はキレイです!ちゃんと手洗ってるから、刹希ちゃん!!」
「ぬわぁぁぁ!!ワン公一杯来たァァ!!」

爆発の騒ぎでついに大使館内から戌威族がわんさか出てきた。
真面目に新八でも銀時でもどっちでも良いから手を離せと訴える刹希。

「手間のかかる奴らだ」

大使館の塀に今の今まで腰を下ろしていた男の声が、騒がしい中でも刹希の耳にはしっかり聞こえていた。
思わずそちらを振り向けば、男は戌威族の頭を踏み台にしながらこちらに飛んできた。
新八の腕を掴んでいた戌威族の頭を踏みつけて地に着地した男は笠を取って刹希たちを見た。

「逃げるぞ、銀時、刹希」
「おまっ……ヅラ小太郎か!?」
「ヅラじゃない桂だァァ!!」
「ぶふォ!!」

素なのか素じゃないのかいまいち分からない銀時。
当の桂と名乗る男は銀時にツッコミと言う名のアッパーカットを食らわす。

「てっ……てめっ、久しぶりに会ったのにアッパーカットはないんじゃないの!?」
「そのニックネームで呼ぶのは止めろと何度も言ったはずだ!!」
「漫才は良いから早く逃げるよ!」

刹希は神楽と新八の背中を押しながら二人に訴える。

「刹希の言う通りだ!銀時、行くぞ!!」
「チッ、仕方ねェな」

銀時はきっと桂の登場によって事の次第を察したのだろう。
頭をガシガシと掻いて前にいた刹希を抱き上げて一緒に走り出した。

「ちょ、なんでこうなってるわけ!?」
「こっちのが早いだろーが」
「自分で走ったって早いよ!良いから下ろせ!」
「刹希良くないぞ!女子が全力疾走など!品がない!」
「あんたらといる時点で品がどうこう言ってる場合じゃないっての!」

アホか!と文句を垂れるも銀時は下してくれる気配ゼロだ。
しばらく下ろすように暴れてみるも無意味だとわかった刹希は諦めて落ちないように銀時の首に腕を回した。


prev next

bkm
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -