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「おまたせしました、あんみつです」

刹希はテーブルに頬杖をついている青年の前にあんみつを置いた。

「どーもでさァ」

青年は礼を言うと早速あんみつを食べ始める。
今は客も少ない時間、昼時に比べて全く忙しくない刹希は青年の向かい側に座った。

「最近、店来てなかったから新しいサボり場でも見つけたのかと思ったよ」
「俺ァ来てましたよ。刹希さんが丁度いなかっただけでさァ」
「あぁ、そうなんだ。仕事は相変わらずサボってるの?」

くすくす笑いながら聞くと、心外だとばかりに青年はスプーンを上下に動かしながら言う。

「そんな言い方されちゃ敵わねェや。ここ最近は土方さんが力入ってて忙しいんでさァ」
「へぇ、そうなんだ。何か大きな仕事でもあるの?」

興味本位で聞いてみた。
彼は意外と本当に重要なこと以外は、大抵話してくれるからだ。
そして、思った通り彼は話してくれた。

「まあ、そんなところです。なんでも桂のヤローが近々テロでも起こすんじゃねェかって言われてましてねェ」
「……ふーん。それにしてもあの桂もよくあなたたちから逃げ切ってるよね」

桂と言えば、逃げの小太郎という異名を持っている攘夷志士の革命家である。
また、彼ら攘夷志士を捕縛している部隊が、青年の働いている真選組なのだ。
ついでに、刹希がバイトをしているこの店には真選組隊士がよく来る。いわゆる、常連客というやつである。
青年も例外ではない。

「逃げ足の速さと運の良さだけはあるらしい。まぁ、今度こそ捕まえてやりますがねィ」
「そうだね、その意気で頑張れ」

そう言って、刹希は上っ面な笑みを浮かべて心にもないことを言う。
よく真選組が来るおかげで、店内には指名手配犯の手配書が貼ってあったりもする。
その中の見知った写真を見ながら、刹希はため息をついた。

「何やってんだか」
「ホントでさァ、土方さんもしっかりしてほしいもんでィ」

いや、そっちじゃないんだけどね。と、内心ツッコむ。
だが、口には出さずにそうだねと彼の言い分に同意しておく。
そのとき、青年と同じ隊服を着た男が窓ガラスの外にいるのが視界に入った。
しっかりとそちらを見れば思った通り見知った顔がいた。何やら道端でびっくりした顔をしている。

「ちょっと!沖田隊長、こんな所にいたんですかァ!!」
「いちゃ悪いのかよ、山崎のくせに」

店に入ってきた男山崎退は、青年沖田総悟に勘弁してくださいよと訴える。

「副長が怒ってますよ。これから会議もありますし、帰りますからね!」
「お前ェだけで帰れば?」
「それじゃ、意味ないだろォォ!!」

山崎は総悟の腕を掴んで立たせようとすると、汚ェ手で触んじゃねェ!と突き飛ばされる始末だ。
向かいのテーブル席にぶつかっていく山崎に店内にいた客数名は怪訝な目つきで見てくる。
これはさすがに止めなければならないだろう。

「総悟くん。その辺にして今日は仕事に戻りなさい」
「刹希さんもそんなこと言うですかィ。俺の仕事はサボることでさァ!」
「違うよ!!アンタの仕事警察だから!!」
「ていうか、店内で騒ぎ起こすなって言ってるの。出禁にするよ?」

黒い笑みを浮かべながら言ってくる刹希に山崎は総悟の分をと頭を下げてくる。
そんな山崎の横では、我がもの顔で眺めている総悟が……。

「総悟君の話してるんだからね、まったくもう」
「そーだったんですかィ」
「わざとらしいなァ」

ホラ立つ!と声をかけると、山崎と違って刹希の言うことは素直に言うことを聞く総悟。

「なんでだよ!!何なのこの差!」
「むしろなんで俺がお前ェの言うこと聞かなくちゃならねェんでィ。刹希さんと同格だとか思ってんの?」
「いや、思ってませんけど……どうせ俺が下なんでしょうけど!」

なんだか長引きそうだ。
刹希は肩をすくめてから、空になったあんみつの器を持って店の奥に引っ込んだ。

「なんか店の方騒がしいけど大丈夫?」
「あぁ、はい。いつも通り口げんかしてるだけですよ」

店長に器を渡しながら、気にしないでくださいと笑顔でいう刹希。
洗い終わった食器を棚に戻して、再び店内に顔を覗かせれば、何があったのかバズーカを山崎に向けている総悟の姿があった。

「そのバズーカどっから出したの!?」
「あ、お帰りなせェ。あとちょっとで終わるんで待っててくれますか」
「何が終わるの!俺の命か!!刹希さん、助けてくださいィィ!!」

涙目で訴えてくる山崎にため息をつく刹希。
全くもって、警察を職としている男が情けない。
ほっといてもいいのだが、総悟がバズーカをぶっ放さないという確証はない。というか、絶対高確率で打つ。
店が壊されたらたまったものではないので、総悟を止めに入ることにした。

「総悟くん、店内でバズーカの使用は禁止だよ」
「あれ、そーだったんですかィ?」
「いや、普通だから。むしろ、使ってもOKな店ってどんな店!?」
「刹希さんが言うなら仕方ねェや。良かったな山崎、死ななくて」

バズーカを床に置いた総悟は言うが、山崎は刹希の方を向いていた。

「ありがとうございます、刹希さん。命拾いしました!」
「どういたしましてー」
「オイ、無視か」
「さ!副長が待ってますよ!!」
「オイ山崎、後で覚えとけよ」
「あ、総悟くん。無銭飲食はダメだよ」

刹希の一言で総悟はあんみつ代をテーブルに置くと、先に店を出て行こうとしている山崎に向けてバズーカを再び向ける。

「テメェ山崎待ちやがれェェ!!」
「ぎゃぁああああ」

大通りで盛大にバズーカをぶっ放ちながら走っていく総悟と山崎に笑みを浮かべて見送った。


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