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刹希たちの乗っているパトカーは前を走っているキャサリンにどんどん近づいて行く。
ハンドルを握っている神楽にその調子!と言っていると、横に座っていた新八が焦ったような顔をしている。

「ねェ!とりあえずおちつこうよ、三人とも!僕らの出る幕じゃないですってコレ。たかが原チャリやバックや傘でそんなにムキにならんでもいいでしょ!!」
「はァ?あのバックには今月の生活費が入ってるんだよ。新八は貴重な今月の金みすみす盗られて良いっていうの!?」
「いや、そんなこと言ってませんけど!」

確かにそれはどうでもよくないですけど!!と新八が言っていると、今度は銀時が喋り出す。

「新八、俺ァ原チャリなんてホントはどーでもいいんだ」
「!」
「そんなことよりなァ、シートに昨日借りたビデオ入れっぱなしなんだ。このままじゃ、延滞料金がとんでもない事になる。どうしよう」
「アンタの行く末がどうしようだよ!!」
「刹希も延滞料金かかんの御免だもんな」
「ていうか、金ないのにビデオ借りないでよ」

後部座席から銀時の髪を引っ張る刹希。
そんな彼らに神楽は平然とした顔で言った。

「延滞料金も今月の生活費も心配いらないネ。もうすぐ、レジの金がまるまる手に入るんだから」
「お前はそのキレイな瞳のどこに汚い心隠してんだ!!」
「なるほどね」
「ちょっと!何納得してるんです刹希さん!!」
「え、なんかおかしいこと言った?」
「おかしいのはアンタの頭だよ!!」
「誰の頭がバカだって!?」
「バカとは言ってないんだけど!」

すわった目で睨まれる新八。
胸ぐらをつかまれた新八は刹希を落ち着かせながら、ふと何かを思い出して神楽を見た。

「そもそも神楽ちゃん免許持ってんの!なんか普通に運転してるけど」
「人はねるのに免許なんて必要ないアル」
「オイぃぃぃ!!ぶつけるつもりかァァ!!」
「お前勘弁しろよ。ビデオ粉々になるだろーが」
「ぶつけるなら、確実に狙い定めて行ってね神楽」
「任せるネ」
「ビデオから頭離せ!!刹希さんは何アドバイスしてんだ!!任せらんねェよ!」

ようやくキャサリンのすぐ後ろまで追いついたパトカー。
だが、キャサリンは脇の狭い路地を左に曲がってしまう。
先回りしようかと頭の中で考えていると、神楽がハンドルを勢いよく左に切った。
それに合わせて、車体も急角度で左に曲がる。

「オイオイオイオイ」
「なんかもう、キャサリンより悪い事してんじゃないの僕ら!!」
「もう私知らないからァァ!!」

パトカーは両脇の家を破壊しながら止まることなく、むしろスピードを上げながら進んでいく。

「死ねェェェアル、キャサルィィィン!!」
「あれ?あれェェェェェ!!」

もうすぐで狭い路地から出ると思ったら、勢いがつきすぎてパトカーが宙に浮いてしまった。
目の前には川が広がっていて、そのまま水の中に突っこんでいく。
刹希はとっさに後ろを振り向くとキャサリンがバカにしたように笑っているのが見えた。

「銀時!」
「わかってらァ!!」

刹希は足元に置いてあった木刀を銀時に差し出す。
すぐさま、銀時が助手席の扉を開けようとしたのだが、なぜか手こずり中々開かない。

「あの……ドア、開かないんだけど」

どうやら、壁に当たっていた衝撃や先ほどの落ちた衝撃でドアが歪んだらしい。



  *



「残念だよ。あたしゃアンタのこと嫌いじゃなかったんだけどねェ」

キャサリンが橋の前にスクーターを進めると、そこには先回りしたお登勢が立っていた。

「でもありゃあ、偽りの姿だったんだねェ。家族のために働いてるっていうアレ。アレもウソかい?」
「……オ登勢サン……アナタ馬鹿ネ。世話好キ結構。デモ度ガ過ギル、私ノヨウナ奴ニツケコマレルネ」
「こいつはもう性分さね、もう直らんよ。でも、おかげで面白い連中とも会えたがねェ」

お登勢は歩を進めながら、そいつと会った時のことを思い出した。

「ありゃ、雪の降った寒い日だったねェ」



それはどれくらい前だっただろうか、お登勢が気まぐれに自身の旦那の墓参りに行った時の事だった。
お供えをして帰ろうとしたお登勢に、その墓は口をきいたのだ。

『オーイ、ババー。それまんじゅうか?食べていい?腹減って死にそうなんだ』
『こりゃ、私の旦那のもんだ。旦那に聞きな』

お登勢がそういうと、墓の後ろにいたそいつは間髪入れずにそのまんじゅうを食べ始めたのだ。

『なんつってた?私の旦那』



「そう聞いたら、そいつ何て答えたと思う。死人が口きくかって、だから一方的に約束してきたって言うんだ」

キャサリンはアクセルをかけ始める。
橋の中央に立っているお登勢は退く素振りすら見せずに話を続ける。

「この恩は忘れねェ、アンタのバーさん……老い先短い命だろうが」


この先は、あんたの代わりに俺が守ってやるってさ――。


パトカーから出てきた銀時は勢いよく土手を駆け上がって、キャサリンを木刀で殴ったのだった。



   *



手錠を掛けられたキャサリンは警察に引き取られた。
刹希はそんな彼女と警察のオヤジの元にいた。

「お嬢ちゃん、さすがにありゃないよ」

そう言って親指を立てたそれで指すのは、リアガラスが見事に割れているパトカー。
あのあと、面倒くさくなった刹希は無理やりガラスを銀時の木刀で割ったのだ。

「弁償代もらうからね」
「え、いやいや、そんな金ないですよ」
「それでももらうからね」
「だから、そんな金ないって言ってんでしょうが!」

バンとパトカーの車体を叩いて訴える。
それを見たキャサリンが、鼻で笑いながら一言言った。

「刹希サン、アナタ馬鹿デスネ」
「誰が馬鹿だって!?」
「ちょっと!警察の前で暴力振るうのやめてくんない!!」
「キャサリン、アンタ全然反省してないでしょう!」

人の話聞いてる!?とオヤジは言うが、もちろん聞いていない。

「アナタ綺麗ナンダカラ怒ッテバカリダト嫁ノ貰イ手イナクナルヨ。私ニハ敵ワナイケドナ」
「それ、褒めてんの?貶してんの?どっちなの?」

最後まで可愛くない奴、刹希は目くじらを立てながら警察に連れて行かれるキャサリンを見送った。





2013.8.7


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