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「ムサイ野郎だけで商売やってける程、世の中甘いものじゃないわ。アダムにイブ、社長に美人秘書、林家ペーにパー子がよりそうように、何をするにもヒロインという存在は必要不可欠……ちょっと刹希さん!? さっきから銀さんにべったりしてどういう事!? やっぱり貴方銀さんの恋人!? そうなんでしょ! やっぱり騙してたのね!? 私を弄んでたのね銀さん!!」
「うるさいですよ、刹希さんが銀さんの恋人なわけないじゃないですか。刹希さんが可哀想です。刹希さん、そんなヒモの肩に寄りかかるくらいなら私に身を預けてちょうだい」

銀時に寄りかかっている刹希を、お妙は自分の方へぐいっと動かした。
それを拒んだのはもちろん銀時である。

「オイ! 良いだろこれくらい! 大体ヒモって何!? 銀さん一応働いてるんですけどォ!」
「刹希さんの収入で生き長らえてるならヒモですよ」
「ちょっと待て待て、いいじゃん、こういう時くらいしか刹希ちゃんは銀さんに甘えてくれないの。ほんと許して」

泣きそうな顔で言ってくるこの男もかなり酒が入っているようだった。
こんな時でしか幸せを感じられないほど、刹希からの態度が固いとなると一周まわって可哀想に見えてくるというものだ。

「ちょっと私の話はまだ終わったわけじゃないのよ!!」

あーだこーだ盛り上がっているところ、外野にされていたさっちゃんが口を挟んできた。
ここで半分酔いつぶれ気味の刹希の独壇場にされてたまるもんですか!! という心境だったらしい。

「そんなこと言ったって刹希さんは万事屋じゃないわ! ヒロイン不在の万事屋には紅一点は必要不可欠……だけどアルアル中華娘はもう古いし、猫耳年増女なんて問題外、ババアにいたっては男だか女だか分からない始末……」

「やっぱ刹希でいいだろ」「あら、刹希さんは万事屋じゃないでしょう?」「こいつなんで頑なに認めねーの!?」「刹希ちゃんはちゃんと自立してて偉いよねェ」と、さっちゃんの話を聞いているのかいないのか、銀時達はまた話し出してしまう。

「ちょっと聞きなさいよ!! これからはコレよ! これからはメガネっ娘くの一……アレ? くの一メガネ……ん? メガくの一、あっ、これでいこう。91メガの時代なのよ!! あぅ間違った!!」

もうグダグダである。
しかも誰もツッコんでくれなかったさっちゃん。
そんな中、刹希はお妙の持ってきた酒をどんどん胃に流し込んでいた。
さっちゃんの乱入のせいで誰も止めるものはいなかった。

「そうゆうことだから、あの……銀さん、私をあの、お嫁さんに……じゃねーや、万事屋に入れてく……」
「眼鏡は新八とかぶるからダメだ」

ヒック、と酔った銀時は間髪入れず言った。

「……は? 百歩、いえ、一万歩譲って、刹希さんと容姿がかぶるからなら分かるけどなんで眼鏡(そこ)!?」

容姿かぶりは自覚があったらしい。
抗議するさっちゃんに、銀時は人差し指をビシッと突き出した。

「いいか、チームは集団だからこそ個性が必要なんだよ。個性を出す一番いい方法はコレぶっちゃけ見た目なんだよね。それがかぶってるなんて言語道断でしょ。例えばそうだね、モヒカンにするとかデカイ武器を持ってるとか、シルエットだけで違いがわかるようにしてもう一回来てみて」

言われたさっちゃんは眼鏡をとると、なんの躊躇もなく握りつぶした。
砕けた眼鏡の破片で手は痛くないのだろうか。

「これなら文句ないでしょ。これで気がすんだ? そうやって私をなぶって楽しんでるんだろうけど、私Mだから、私も楽しんでるから。私はMであなたはSで他にはもう何もいらないじゃない」
「悪ィな、どっちかっつーと俺もMだ」

眼鏡をかけていないせいでまた周りが見えていないらしい。
それは銀時ではなく長谷川である。
銀時を探しているさっちゃんだったが、それまで静かだったキャサリンが動いた。
さっちゃんの髪を引っつかみ床へ押さえつけたのだ。

「いだだだだ!」
「コルァァァァ小娘ェェ! さっきから黙って聞いてりゃイキナリ出てきてヒロインヅラかァ!? ここはそんな甘い世界じゃねーんだよ!」
「あれ、キャサリンカタコトやめた〜?」
「さっきからコレだよ!!」

刹希が今更なことを聞くと案の定キャサリンはキレていた。
だが笑っていた刹希は、眠気に耐えられず近場の壁に体を預けていた。
もちろん銀時という名の壁だった。

「てめー何話から出てるかしらねけどな、アタイはてめーが登場するはるか前、四話からもう出てんだよォ!! この漫画のヒロインはあたいなんだよォォ!!」
「全く猫耳を役立ててないオバさんがだまりなさいよ。その耳がね、私についていれば、忍者・眼鏡・猫耳萌え三種の神器が揃うのよ」
「このギャップがいいんだろーが! 猫耳なのにオバさんっていう!」
「いい加減にしなさい二人とも! こんな所神楽ちゃんがもし見たらどんな気持ちになると思っているの!! ちなみに私は一話から出てるアルけどね!」

ちらちら、と寄りかかって寝息を立てている刹希に、銀時は気が気ではなかった。
くそーここがホテルかなんかなら良かったのに!
なんでこんなうっせー奴らがわんさか集まってんだ?
でも今日は無駄に酔ってるみたいだし、最高! ありがとう神様!
左肩に感じる温もりに銀時は大変幸せな気持ちになったらしい。

「なんなのアナタ達、たいして銀さんの事好きでもないくせに邪魔しないでくれるニンニン」
「好きよ……軍手の次にアルアルけど」
「それランク何位?! ニャンバサダァ!」
「私が好きなのは私だけよ。だから、誰にも負けたくないのよアルアル大事典」
「ちなみにあたいはあんなダメ男、好きでもなんでもないけどね! ちょっと出番増やしたいだけみたいなニャンバゼバァー!」
「お前ら帰れェェェメガネクラッシュ!!」

万事屋ヒロインの座をめぐって醜くろくでもないマウント合戦が加熱していた。
そんな三人の言い争いを止めたのは男どもだった。


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bkm
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