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「うがァァァァ!!」

いきなり核の中をぶち破って出てきた神楽と銀時に、星海坊主以外の全員が巻き添えを食らった。
しかも1番近くにいた刹希がもろに銀時にぶつかって下敷きにされていた。
めちゃくちゃ重たくて変な声が出そうだ。

「神楽ァァ!!」
「重い! 邪魔!! 退けバカ!!!」
「バカはないんじゃないの!? 刹希ちゃん!?」
「アンタ体重いくつあると思ってんのよ!? 圧死するわ!」
「悪かったって!」

のしかかる大の男を殴るように退かす刹希は、立ち上がったついでにキレながら銀時の膝に蹴りを入れた。
痛くもないだろうに痛がる素振りをする銀時に、またイラッとする刹希なのだった。

「大体神楽をどう焚き付けたらあんな風になるのよ」

まるで獣のような声を上げながら暴れている神楽。
神楽を助け出すとは言っても、こんな形で核から出てくるとは思わなかったのだ。

「いや、食べ物の恨みは怖いって言うだろ。だから」

食べかけの酢昆布を袖から出して見せてくる銀時に、刹希はため息を付いた。
意識もほぼない状態で酢昆布を見せられた神楽が覚醒したということなのだろうが。
もう少し平穏な起こし方はなかったのだろうか。

「ったく、食い意地がはったガキだよ。親の顔が見てみてーな、オイ」
「……俺も見てみてーよ。お前のような無茶苦茶な男の親の顔を」
「男は下の毛が生えたらもう自分(てめー)を育てていくんだ」
「クク、ちげーねェ」

女の自分には一切分からん会話だ……と、刹希は遠巻きに眺めていた。
兎にも角にもそろそろ放射されそうなのだが。

「……さて、そろそろ」
「しまいにしようか」
「いくぜェェェ!! お父さん!」
「誰がお父さんだァァァァ!!」

取り込まれていた神楽が居なくなった為、やっとえいりあんの核を攻撃出来る。
2人は得物を構えて核に一撃を食らわせた。
大きな衝撃と共に核が船底から離れて宙ぶらりんな状態になっていた。
ダメージを与えられているようで、周りを蠢いていた触手の動きはかなり鈍くなっている。

「早く逃げろォ!! おっさん知らないからな! おっさんは一切責任はとりません!」

戦艦からそんな理不尽な声が聞こえてくる。
誰だこの責任者ふざけんなよ。
と殺意が湧くが、今はそんな事思ってる場合じゃなさそうだ。

「逃げろたってどこに逃げろっての!?」
「下は無理だ! 上だ上!!」
「遂に死ぬかもしれない……」
「メガネメガネメガネ」
「酢昆布返せェェ!!」
「ぐぉぶ!」

酢昆布を追い求める神楽の蹴りが銀時に直撃した。
登りかけてた銀時が蹴りのおかげで落下し、追い込むように神楽が馬乗りで殴りかかってる。
手の付けられない状態だ。

「神楽ァァ!! しっかりしろ! オイダメだって出血が!!」

明らかに意識のなさそうな神楽は、普段よりも力のタガが外れているように見える。
そんな神楽を星海坊主が掴んで止めようとするが、あの星海坊主であり父親を手こずらせるなんて、どんだけの力なのだろうか。
自分の役割にならなくてよかった……と安堵してしまう刹希。口が裂けても言えないけれど。

「いだだ! ちょ、アンタも手伝って……!」
「え、私もですか?」

すごい暴れる神楽をどう押さえつけるんだよ。
お父さんでさえ、ヘルメット取られて大変だってのに。
てかお父さんめっちゃバーコードお父さんだったんですね。
と、刹希はあまり見ないようにした。

「あー酢昆布だ」
「え?」

ブチン

容赦と躊躇の欠けらも無い音がその場に響いた。
一瞬平静のなったのかよく分からない神楽が、星海坊主の残っていた片側の髪を引っこ抜いた。
その場にいた全員がムンクの叫びのような表情になっていたはずだ。

「ぎゃああああああ何すんのォォォォ!! お父さんの大事な昆布がァァ!!」
「おいィィ何食ってんだ! 出せェェハゲるぞ! そんなもん食ったらハゲるぞ!」
「ハゲるかァ! お前ホント後で殺すからな!」
「銀時、ちゃんと残りの酢昆布、神楽に渡さないからそうなるんだよ?」
「え? 俺のせいなわけ?」

しかしそんなことしてる場合ではないのだ。
ゴゴゴゴ、と何か変な音が大きくなって聞こえてくる。
何だ? と思って振り返った時には、眩しいくらいの何かが眼前に迫ってきていた。
咄嗟に、そばに居た新八を引っ張って庇うように覆いかぶさっていた。

死ぬかもしれない、本当にそんな事を覚悟しながらその時を待っていた。
けれど、衝撃と爆風を感じるだけで自身の体は何も起こらなかった。
ぎゅっと閉ざしていた目を開けて艦隊のある方へ視線を向けると、そこには星海坊主が立っていた。

「ぼっ……坊主さん」

たった1本の傘であの砲撃を耐えきったなんて……。
ボロボロの傘と星海坊主が刹希達全員を守ったのだ。

「クク、俺も焼きがまわったようだ」
「いや、髪の毛も焼きがまわってるけど」
「他人を護ってくたばるなんざ」

そう言って星海坊主は倒れた。
呆然としていた刹希達はハッとしたように立ち上がり、星海坊主に駆け寄った。

「お……おい!」
「坊主さん!」
「ハゲッ! おいハゲ!」
「ハッ……じゃない坊主さん!!」
「ハゲェェ!!右側だけハゲェェェェェ!!」


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