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「おかわりヨロシ?」

口いっぱいにご飯を詰め込んだ神楽は、お登勢にお茶碗を差し出しておかわりをねだった。

「てめっ、何杯目だと思ってんだ。ウチは定食屋じゃねーんだっつーの」

眉間にしわを寄せてお登勢は神楽を見据えた。

今、刹希たちは一階にあるスマックお登勢にいる。
なぜこんなところにいるかって?単純明快である。
万事屋にはもう米がないからだ。というか食材と言うものが全くない。

「ちょっとォ!!銀時!!何だいこの娘!!もう五合も飯食べてるよ!!どこの娘だい!!」

お登勢は店の奥でパフェを食っている銀時に訴えてきた。
だが、その訴えに銀時と刹希、新八はげっそりした顔で空を見つめる。

「五合か……まだまだこれからですね」
「ここ来る前、あの子何升食べたっけ……」
「もうウチには砂糖と塩しかねーもんな」
「銀時は砂糖あれば生きてけるでしょ」
「お前……俺をなんだと思ってんだオイ」

刹希が稼いだ金で買った大量の米は、一晩にして神楽の胃袋へと消えて行った。
あのときばかりは本気で魂昇天したかと思った。
そして小さい子供に殺意が湧いた。

「って、オイぃぃぃ!!まだ食うんかいィィ!!ちょっと誰か止めてェェェ!!」

ふと目を離した隙に、万事屋でもやってのけた、炊飯器の中身丸ごと口に放り込む神楽にお登勢は叫んだ。
食事中の神楽を止められるとは思わなかったが、重い腰を上げて刹希は一応それを止めるのだった。



   *



「へェ〜じゃあ、あの娘も出稼ぎで地球に。金欠で故郷に帰れなくなったところをアンタが預かったってわけ……」

カウンターから銀時たちのいるテーブル席へ来たお登勢は、神楽がいる経緯を聞いてため息を漏らす。

「バカだねぇアンタも。テメーでロクに家賃も払えない身分のクセに、あんな大食いどうすんだい?刹希なんか燃え尽きてんじゃないか」
「お登勢さん、今月は家賃払えませんわ」
「アンタ大丈夫かい!目がイってるんだけど!!」

アハハハと笑い出す刹希にお登勢は声を大きくする。

「銀時、刹希にどれだけ苦労させれば気が済むんだい」
「オレだって好きで置いてる訳じゃねぇよ、あんな胃拡張娘」

そういうと、間髪入れず右側からグラスが飛んできて銀時に直撃した。
飛んできた方向を見れば神楽が。

「なんか言ったアルか?」
「「言ってません」」
「神楽、割った分の弁償代はちゃんと給料から引くから」
「ごめんアル、刹希。金は銀ちゃんにツケといてヨ」
「なんでそーなるわけ?」

グラスをぶつけられて倒れていた銀時は、頭を押さえながら起き上がる。
そんな彼に女の人が歩み寄ってきて、ハンカチを差し出した。

「アノ、大丈夫デスカ?コレデ頭冷ヤストイイデスヨ」
「あら?初めて見る顔だな、新入り?」
「あ、私この前店先で会った」
「今週カラ働カセテイタダイテマス。キャサリン言イマス」

おかっぱ頭に猫耳、とこう聞けば可愛いのだが、いかんせん、顔が残念だ。
その真っ黒な目に吸い込まれそうで気持ち悪い。

「キャサリンも出稼ぎで来たクチでねェ。実家に仕送りするため頑張ってんだ」
「たいしたもんだ。どっかの誰かなんて己の食欲を満たすためだけに……」

そこまで言うとまたグラスが飛んできて、銀時を直撃する。

「なんか言ったアルか?」
「「「言ってません」」」
「神楽、その弁償代も給料から引くからね」
「ごめんアル、刹希。新八の給料から引いといてヨ」
「なんでだよォォ!!僕だって給料あんまりもらってないのに!!」
「いつでも辞めていいからね」

刹希の満面の笑顔で言い放つ一言で再び新八がツッコミ、騒がしくなる。
その時、店に警察が入ってきた。
ドラマのワンシーンのように警察手帳を見せて、捜査に協力してほしいと言ってきた。

「このへんでさァ、店の売り上げ持ち逃げされる事件が多発しててね。なんでも、犯人は不法入国してきた天人らしいんだが、この辺はそーゆー労働者多いだろ、なんか知らない?」
「知ってますよ、犯人はコイツです」

起き上がった銀時はすぐさま神楽を指差す。
が、指差された本人は遠慮なくその指を明後日の方向へ、へし折った。

「おまっ……お前、何さらしてくれとんじゃァァ!!ちょ、刹希これどーしよ!!」
「下らない冗談嫌いネ」
「逆向きにもう一度折ったら?」
「刹希さんそれ止めさしちゃってます!」

新八のツッコみに聞く耳を持たず、仕方ないなァと刹希は立ち上がると、折れた指を掴んで思いっきり真っ直ぐに伸ばしてやった。
もちろん、その間に銀時は叫んでいたが無視する。

「ていうか神楽、故郷に帰りたいなら警察のお世話になったら良いんじゃないの?」
「そうだ、この際強制送還でもいいだろ!!」

思いだしたように言う刹希に銀時も同調するが、神楽はそんな不名誉な帰国は嫌らしい。

「いざとなれば船にしがみついて帰る。こっち来る時も成功した。なんとかなるネ」
「不名誉どころかお前、ただの犯罪者じゃねーか!!」
「それなら金稼ぐ意味ないんじゃないの!?てか、よく息もったな!」

素朴な疑問に思わず感心してしまう。
このままじゃ、万事屋は無一文になりかねないので正直帰ってくれるならそれはありがたい。
目の前でヒートアップしていく討論に、警察のオヤジとお登勢は呆れるばかりだ。

刹希はふと店の中を見渡すと一人足りないのに気が付いた。
あれ?と小首を傾げていると、店の外から何やらエンジン音が聞こえてくる。
そちらを向くとスクーターに跨っているキャサリンが後ろに荷物をいっぱい紐で括り付けて今にも走り出そうとしていた。
キャサリンはこちらに顔を向けて言った。

「アバヨ、腐レババア」
「キャ……キャサリン!!」

お登勢につられて刹希も入り口に出てキャサリンの後姿を見つめた。
ていうか……。

「お登勢さん、店の金レジごとなくなってますよ!!」
「あれ、俺の原チャリもねーじゃねーか」
「あ……そういえば、私の傘もないヨ」
「私のバックもない……」

揃いも揃って、どんどん小さくなっていくキャサリンの後姿を見つめる。
遠くなる声でバーカなんて言ってくる、キャサリン。というか、犯罪者。


・・・・・・・・・・・。


「あんのブス女ァァァァァ!!」
「今月分のなけなしの金ェェェ!!」
「血祭りじゃァァァァ!!」

完全に頭に血が上った三人は、各々パトカーに乗り込んでいく。

「ちょっ……何やってんの!?どこいくの!?」

今にも走り出そうとしているパトカーに新八も慌てて乗り込んだ。

「おいィィィ、ちょっと待ってェェ!!それ俺達の車なんですけど!!」
「オジサン、今はあの泥棒猫追いかける方が重要なんですよ!」

刹希がそういうと、パトカーは走り出した。

「いや、わかるけど、なんで俺達の車なわけェェ!?オイ、いっちゃったよォ!!どーすんの!?」


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