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銀時が核に取り込まれるのと入れ替わるように、刹希と星海坊主の背後から触手を破り出てきた者達がいた。

「刹希さん!?」
「お前……」
「新八!」

駆け寄ってくる新八に、刹希は立ち上がって向き合った。
新八の後ろには、定春に乗ったハタ皇子とお付のじいやも一緒だった。

「刹希さん、来てたんですね」

新八は刹希の今朝の様子から、まさかこんな所にいるとは思いもしなかったのだ。
しかし、薄情だなんだと銀時に乱暴な言葉を投げつけておきながら、本当は会いに来て欲しかった。
こんな危ない状況なら、テレビで報道されているかもしれない。だから、神楽を思って助けに来て欲しいと、そう思っていた。
嬉しいと思う反面、新八はその言葉を素直に口には出せなかった。

「新八、どうしてここにいるの? アンタ船の外にいたはずでしょ」

刹希は彼の言葉に応えず、思ったことを口にする。
ターミナルの梯子を上っていた新八がこの核のところまで来るのはおかしな話だ。
自分で来ようと思わなければここまで来れない。

「星海坊主さんを追って……神楽ちゃんを助けに来たんです」

やはりそうだった。
星海坊主へ視線を向けると、俺は止めたと言いたげな顔をしていた。
刹希も呆れてはいたが、こんな状況で小言を言っても状況は良くならない。
ハタ皇子達も連れて来てしまっているし尚のことだ。

「神楽は今この核の中に取り込まれてる。銀時が助けに行ってるから時間を稼がないといけないわ」
「えっ!? 神楽ちゃんと銀さんがこの中に!? 大丈夫なんですか!!?」
「銀時達の安否より、先にアレが発射したら皆終わりだよ」

驚いて核に手を付き、オロオロする新八。
そんな新八とは打って変わって、刹希は軍艦の一斉放射を指して言う。

「……なら僕達に任せてください!」
「何か案でもあるの?」
「一か八かですけど……」

そう言って新八は後ろにいたハタ皇子を見遣った。
ほんの少し考えて、どんな案か察しはついたが気乗りはしない全く。
下手を打てばえいりあん諸共死ぬし、そうならなくても刑務所行きになりかねない。

「本当にやるの……?」
「何をやる気だ?」
「あー……脅迫? ですかね……」

刹希と星海坊主は話し合う3人と1匹を見守るしかない。
進んで前に出た新八の横には、定春に咥えられているハタ皇子。じいやもハタ皇子の脇で立っている。
大丈夫だろうか。

「ッ、貴様らァァ! このオッサンが目に入らねーかァァ!!」
「今撃ったらもれなくこの央国星皇子ハタ様も爆死するぞォ!! もれなく国際問題だぞォ!!」
「わぁ……ほんとにやってるよ……」

ハタ皇子の触覚めちゃくちゃ齧ってる定春は大丈夫なのだろうか、と少し心配になる刹希だった。

「五分だァ! たった五分でいいから待てって言ってんだよォ!! コルァ!!」
「五分なんてスグじゃん!! 矢の如しじゃん! カップラーメンでも作って待ってろって言ってんだよォ!! コルァ殺すぞ!」
「てっ……てめーら、何故そこまで」
「チャイナ娘には世話になったんでな」
「撃たないよね? コレ撃たないよね? 大丈夫だよね」

めちゃくちゃ震えながらカッコつけるじいやと不安でいっぱいらしいハタ皇子だが、意外と度胸のあることをしてくれたものだ。
一応、皇子だし、時間が稼げれば御の字なのだが……どうなのだろうか。
最悪マジで死ぬかもしれないけど。

「銀時、早くしないとさすがにやばいよ」

刹希は銀時が吸収された核に手を付いてただ呼びかけることしか出来なかった。
自分も核の中へ取り込まれたとしても、役に立たないだろうと分かっていた。
信じて待つしか出来ないもどかしさがあった。

「……ったく、あの天然パーが、来るなら来るって最初から言えってんだよ。どうせ来ると思ってたけどね、天邪鬼が」

ほんの少し声が震えているように聞こえる新八を誰も気に止めはしていなかった。
どいつもこいつも天邪鬼で、困ったもんだよ、と新八は笑うしかできない。
普通の人間では到底するはずもない行動に、星海坊主は内心彼らの見方を変えていた。
逃げずに残り、信じて待ち、危ない地に追いかけてやってきた。
神楽が居たいという場所は、確かに他とは違うのではないかと。

「アレ? ちょっと待って……え?」
「……アレ、なんか……撃とうとしてない?」
「ウソ……ウソだろオイ。皇子だよ、仮にも皇子だよ」

戦艦の発射口にエネルギー源が集まっているのが見える。
あんな脅しでも通用するかと思えば、全く効果はなかったらしい。

「ハタ皇子、もうこの国では皇子と認識されてないみたいです。残念です本当に」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!! ヤバイってコレ! 早く逃げ……」
「それ私の酢昆布ネェェェ!!」
「ぐおぶ!」


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