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「油断も隙もありゃしねーな」
「ねーねー、やりすぎじゃないですか? 世話ですよ世話、抹殺じゃないですよ抹殺じゃ」
「心配なら早く池から救出してあげたら?新八」
「アンタは心配じゃねーのかよ!」

いや別に……と刹希は無表情で答える。
うわ、今日はノータッチの日だよ……と新八は心の中で頭を抱えた。
と思っていると池からお爺さんが飛び出してきた。

「あっ!! まだ諦めてませんよ!!」
「何!!」

本当に老人なのか?と聞きたくなるほどの跳躍力と脚力でもうダッシュしていくお爺さん。
万事屋全員で走るお爺さんを追いかけた。

「キャホゥゥゥ!!」
「わたァァァァ!!」
「ほァァちゃァ!」

どこから出してきたのかお爺さんがエスカルゴの殻をいくつも投げつけてきた。
前を走る銀時と神楽がそれを弾いていくが流れ弾が新八に直撃していた。
痛そ〜なんて思いながら、刹希はエスカルゴの殻を見事に避けていった。

「ちょっとオオオ!家メチャクチャになってますよ!」

弾いた殻が軒先や部屋にぶち当たっている。
これこっちが弁償するのかな、嫌だなぁと何か言い訳を考え始めるが、お爺さんのせいにする以外特にいい案は思いつかなかった。
逃げ回るお爺さんに向かって銀時が木刀を振りかぶっているのを見て止めようとしたが遅かった。
見事にお爺さん目掛けて投げられた木刀は直撃し、室内に向かってダイブするお爺さん。
続くように銀時と神楽も障子を蹴り倒して中に入ったのだが、依頼人の息子と母と思しき女性が寝ている部屋だった。

「終わった」

刹希は頭を抱えたくなった。

兎にも角にも、全員で障子を元に戻し布団を挟んで依頼人達と対になるようにお爺さんと万事屋は礼儀正しく正座して座ることになった。

「父さんいい加減にしてくれよ!母さんがこんな時に!やっていい事と悪い事があるよ!」
「すいません、僕らも悪ノリが過ぎました」
「まァまァ気にすんなよ、一生懸命やったよお前ら」
「お前が言うなやクソジジイ!!」

痴呆なせいか、全く悪びれる様子のないお爺さんに銀時が怒鳴り散らす。
こんなに口汚いのに文句一つ言わない依頼人達には感謝したいものだ。

「それから父さん、母さん入院することが決まったから。病状が悪化してもうウチじゃどうにもならなくなってきたから」

ちらとお爺さんを見れば、何も言わず静かに息子の言葉を聞いていた。
何故だかその姿は痴呆のようには見えなくて、刹希は妙にお爺さんから目が離せなかった。

「それじゃ、おじいさんとおばあさんは離れ離れに……」

お爺さんは立ち上がると万事屋の後ろを通り、先程直したばかりの障子から出ていこうとした。
そんな父親に息子が言葉をかける。

「父さん、なんか言いたいことないのかい?」
「……愛人に会ってくる」

お爺さんは振り返りもせずに部屋から出ていってしまった。

「……なんてこった。母さんのことまで忘れてしまったのか」

頭を抱える息子を横に、刹希は銀時に顔を向ける。
かち合うその視線を見て、銀時も何か思うところがあったようだと察する。
ため息混じりに立ち上がる銀時は言葉少なに部屋を出ようとした。

「ほっといてあげて」

そう引き止めたのは床に伏していたお婆さんだった。

「あの人をあんな風にしてしまったのは私だから、あの人から花火をうばったのは私だから、もう自由にしてあげて。あの人は十分私に尽くしてくれた、大好きな花火の仕事をやめて、一生懸命私の世話をしてくれて……でも、やりたいことを我慢して辛そうにしてるあの人はもう見たくないの。私のことは忘れてくれて構わないの、最初からあの人の頭の中は花火でいっぱいで、私の入る余地なんてなかったんだから、そういう人に私は惚れたんだから」
「……母さん」

お婆さんは花火職人だったお爺さんから花火を奪ってしまった罪悪感が強いようだ。
確かに、看病されなければ生きていけない身になって、旦那が仕事を放り出してずっと世話をしているのだから、前向きになるというのも難しいのかもしれない。
刹希は隣にいたはずの空間を見遣り考え込む。
どうやらあのお爺さんもただの痴呆という訳でもなさそうだ。
銀時が面倒を見るというのなら意外と大事にもならないかもしれない。
裕福な家だった為に気を張ったが、そこまで人を割く必要も無さそうだ。

「新八、神楽、今回は大丈夫そうだからあなた達は先に帰ってていいわよ」
「え、良いんですか?」
「銀ちゃんは置いてっていいアルか?」
「お爺さんは私と銀時だけで大丈夫よ。それより、万事屋に帰って他に依頼が来たら二人が対応してくれる?」

そういうと、神楽は意気揚々と立ち上がり「任せるネ!」と言って新八を引きずって出ていった。
持ち上げれば上手いこと行動してくれるから神楽は単純で助かる。


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bkm