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そして翌日。
一日で完全に直っているわけはないが、進捗状況を万事屋一行は見に来た。
だが、ウンケイとカイケイは刹希の予想を上回ってきた。

「ス……スゴイ。一日であの大穴が……」

塞がれていた。
いや、それどころではない。
外観は辰馬の船が突っ込まれる前の万事屋、そのままに直されている。
銀時たちはさっそく玄関へと向かい、綺麗に直った家の中に足を踏み入れた。

「見さらせ、中も完璧だ」
「これが宇宙一の大工の腕よ」

廊下で仁王立ちしながら待ち構えていたウンケイとカイケイは誇らしげに言ってきた。
確かに、一晩でここまで外観から内部まで元通りにする腕前はあっぱれだ。
辰馬にしては珍しくいい仕事をしたのではないだろうか。
珍しくとは流石に可哀そうかもしれない。彼はこういう時は気が利くのだ。
アホで人の名前を間違えて船酔いをするだけで。

「スゴイ、ホントにスゴ腕の大工だったんだ。銀さんやりましたね、これで営業再開できますよ」

新八が嬉しそうにこれからのことを話し始めるが、銀時は表情を一つも変えない。
というか、家に入ってから一言もしゃべっていない。

「……なんか違ーな」
「「あ?」」

また銀時が変なことを言い出した。

「万事屋ってよォ。こんなにさびしかったっけ?」
「オイ、妙ないちゃもんつけるなよ。元の形はいじってないぞ」
「いやいやいやいや、そーゆんじゃねーんだよ。なんか足んねーんだよ。えーとあっそうだ。なーんかさびしいと思ったらここにシャンデリアがねーんだよ」
「シャンデリアぁぁぁ!?」

銀時が完璧に室内が直っているせいで無茶ぶりをしてきた。

「シャンデリアって、この内装にシャンデリアっておかしくねっ!?」
「……っていうかそんなモノありましたっけ?」
「あったよ確か。ホラ、意外に天井って見ねーじゃん、忘れてんだよお前」
「そーいえばあった気がするネ」

ほら見ろ、銀時が真面目な顔でバカなことを言い出すから神楽も便乗してきたではないか。
うーん、どうするべきか、なんて柄にもなく悩む刹希。

「あと三階につながる階段はどーした?」
「三階!?そんなモノあったんスか!?きいてないよ!」
「あーお前らは知らないけどね。タンスの裏側にあったんだよ。三階はジャンプ倉庫なんだ」
「マジっスか!?」

マジなわけがない。
前から思っていたが新八って変なところで妙に騙されやすい少年だ。
木刀の話も信じてたし、はやり根っからまじめな性格は変わらないのだろう。
そういうところ、大人になっても変わらずいてほしい。

「あと私の部屋、コレおかしいネ。こんな狭くないネ。バカにすんなヨ、三十畳はあるはずネ」
「三十畳ォォ!?押し入れ三十畳ォ!?リビングより広いじゃん!!」
「神楽、ちょっと三十畳は無理があるんじゃないのか?」
「じゃあ二十畳に譲歩してやるネ」
「聞いたことねーよそんな傲慢な譲歩!!」

神楽まで無茶ぶりを始めてしまった。
どういら今回はこのノリで行くようだ。
はぁ、仕方ない。刹希は一つため息をこぼした。

「あと厠、確かウォシュレットついてたな」
「風呂場はガラス張りネ。もっとエロいカンジだったアル」
「お、なにそれ良いな。採用」
「何が採用だ、その首を胴体から切断するわよ?」
「スミマセン……」
「ほら、ガラス張りじゃなくてテレビ備え付けてあったでしょ確か」
「そうだった気がするネ」
「あっ、僕も思い出しました。確か居間にカラオケついてましたよ」
「待てェェい!そんな所いじってねーぞ!そのままのはずだ!」

まあ普通に考えたら嘘だとわかる。
信じるはずもないこと。
しかし、それをねじ伏せるのがバカでありアホであるこの男だ。

「こんな話を知ってるか?昔なァ、江戸に人気を二分する二人の大工がいた……一人は長者の息子で腕もいいが金回しもうまい五兵衛。もう一人はクギが打てりゃメシはいらねーと豪語する変人茂吉」

銀時の作り話が始まった。
こういうのは聞き流すに限る。

「茂吉は立身出世なんざ興味ナシだったが五兵衛は違った。なんとか茂吉を蹴落とし、江戸の人気を独占できねーかと日々模索してやがった。やがていつからか茂吉の評判が落ち始める。五兵衛の仕業よ。奴はその広い人脈を利用し、裏で根回しし茂吉にロクでもねェ仕事を回していた。無茶で難しい注文ばかり押し付けられ茂吉は仕事がどんづまっちまったのさ」

五兵衛の計画通り、茂吉の人気は落ちた。
そして江戸の人気は自分のものとなった。
しかし、そう思ったのは一瞬。数年後には茂吉の人気は五兵衛を抜き去った。
江戸の人気は茂吉へ集まり、頂点へと経ってしまったのだ。

「なんでか気になるだろ?当の五兵衛もそうさ。茂吉の元へ詰め寄った」

『貴様ァ、一体どんな汚い手を使った!?無茶な仕事を押し付けられどうにもならなくなっていたではないか!?』

五兵衛がそういうと、茂吉は言った。

『おうそれよ。難しい仕事だったが、おかげで腕がも一つ上がったよ。本当にありがてー話さ』

「……」
「茂吉カッケェェェェェェェェ!!」
「茂吉さんはきっと騙されたことにも気づいてませんね、ソレ。ただ大工をすることが楽しくて仕方なかったんだろーな」

このテンションを見るに、神楽と新八は今の話を信じているのだろうか。
はたまた銀時の話にノっているだけなのだろうか。
多分前者な気がする。

「職人ってよォ、そうゆうもんじゃね?」

どういうもんだ、どういう!
とてつもなくツッコんでやりたかったが、ウンケイたちがやる気になってしまったので口を噤むことにした。
彼らもかなり騙されやすいみたいだ。


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