第三訓
「ただいまー」

珍しくバイトが長引いて夜に帰ってきた刹希。
玄関を開けると、新八の草履がまず目に入る。

あ、今日はまだいるんだ。

しかも、家の奥からはいい匂いがしてくる。
これは焼き肉の匂いだろうか。
あぁ、そういえばこの前仕事でお金入ったんだっけ、とぼんやりと思いだす刹希。
食事に金を使いたい気持ちもわかるが、家賃やツケは返したのかと言いたくなる。
そういう方向に考えが行くあたり、主婦と化している気がしなくもないが、刹希は頭を振って考えないようにする。

「おま、刹希帰ってきたじゃねェか!!」
「どどどどどどどうするんですか!!僕知りませんよ!!」
「俺だって知らねーよォォ!」

何をやらかしたのだろうか……。
廊下の奥の障子一枚隔てた向こう側から声が良く聞こえてくる。
あと新八はどもりすぎ。
私が帰って来ってくると都合が悪い事でもやらかしたのか、ひそかにため息ついてしまう。
が、その時。

「心配いらないアル。私にまかせるヨロシ」
「お前のその自信どっから出てくんだよ!!」

なんか……女の子の声が聞こえてきた。
ふと下を見れば、玄関には女の子ものの靴がそろえられていた。
嫌な予感しかしない。
とりあえず、考えるより確かめろだ。刹希は銀時たちがいる居間に向かった。

「ただいま。あの見慣れない可愛らしい靴誰の?」
「お帰りなさいませ刹希さまァァァ!!」
「き、今日はすき焼きですよ、刹希さん!」
「それたぶん私のアル」

各々喋ってくるが、刹希は最後の語尾がアルと言った子に顔を向けた。
そこにはチャイナ服姿の女の子。
白い肌がなんとも眩しい。脇には番傘が置いてあった。
しかも、なんか炊飯器のご飯めっさ食べてるんだけど……。

「えっと、あなた誰?」
「私、神楽いうネ。お前が刹希アルか?」

こてんと首をかしげてくるチャイナ娘、もとい神楽。
何この子、可愛い!でも、結構無遠慮な子だ!!と心の中で一喜一憂しながら、表面上は冷静に咳払いをして神楽に問いかけた。

「えーと、神楽ちゃん?なんでこんなところにいるの?ていうか、なんで人んちのご飯食べてるの?」
「私、星に帰る金ないネ。だから、今日からここでバイトする決めたヨ。銀ちゃんも良いよって言ってくれたアル」

大体その説明で状況は理解できた。
きっと自分がバイトをしている間に、いつも通り変なことに巻き込まれたのだろう。
そして自分が知らないうちにバイトとして雇う話に至ってしまったのだろう、銀時に視線を向けるが瞬時に逸らされた。

「……神楽ちゃんは住むところないのかな?」
「あるわけないネ」
「……そう。ていうか、あなた天人だよね」
「よく分かったアルな!!私、夜兎族だヨ」

しばらく質疑応答をしてから、刹希は「分かった。これからは一緒に暮らそうか」ということになった。
珍しく文句ひとつ言わずにすんなり受け入れる刹希に銀時は一瞬だけ安堵した。

「やったネ!!刹希はこいつらより理解あって嬉しいアル」
「ありがとう。それじゃ、神楽は一回廊下行っててくれるかな。私と銀時と新八はだーいじな話があるからさ」
「「ひっ」」

ニコニコした笑顔で言っているが、ついに矛先が自分たちに向けられて銀時と新八は顔面蒼白になる。
先ほどの安堵はどこへやらだ。
しかもこういう時に限って神楽は素直に廊下に出てしまう。
変なところで空気呼んでるんじゃねェェ!!と二人して思うが聞こえるはずもない。

「……さて。二人はそっちの部屋行こうか」

振り返った刹希は背後に般若でもいるのかと思わせる程黒い笑みを携えていた。
これに逆らう事なんて誰ができようか……いや、出来るわけない。
ということで、三人は銀時の部屋へ移動し、刹希は襖を閉めた。
もう何も言われずとも刹希の前で正座待機する銀時と新八。
新八も慣れたものである。

「さて……なんでこうなってるのかお二人の言い訳を聞いてあげる。どうしてこんなことになったわけ?」
「いやー、これにはふかーいわけがありまして」
「へー、それは是非教えてもらいたいなぁ」

銀時と新八は身振り手振りで必死に事情を説明、もとい弁解する。
あぁ、これでちょっとでも刹希の怒りのバロメーターが下がってくれればと思ったのだが、簡単にはいかない。

「あんな大食い娘住まわせてこの家の家計、火の車から大火事にするつもり!?」
「だから俺たちだって最初は帰れっつったんだよ!!」
「反対したら拳ひとつで壁にヒビ入れたんですよ……ちょっとアレは無理ですよ」
「最初なんて言い訳しなくていいのよ!たかが怪力なだけにひるまないでよ!それでも男か!」
「言い訳聞いてくれるって言ったの刹希だから!お前、あの怪力娘の恐ろしさを知らねェから言えんだよ!アレ食らったら銀さんでも死んじゃうよ!?」
「いっその事死んでくれたら食費が浮くわ!」
「ちょ、ちょっと!二人とも落ち着いてくださいよ!もう決まっちゃったことなんですし!」

ついつい声が大きくなってしまう刹希と銀時。
新八は言い争いがヒートアップしていく二人をなだめようとするが、もちろん二人には聞こえていない。

「住まわせるならならまともな子にしてよ!夜兎族って言ったら戦闘民族じゃない!!しかも、大食らいだし……」
「もう炊飯器二合目食べてます」

その新八の返しに思わず魂が抜けてしまいそうになる。
この家にある米ってあとどれくらいだったっけ。
もう考えたくもない話である。刹希は頭を抱えて深いため息をついた。

「……ホント……お人よし」
「おーい、大丈夫ですか?」
「もう……怒りを通り越して呆れしか出てこない」
「スミマセン、刹希さん」
「とりあえず、新八の給料は当分ないから」
「う、嘘だろォォォォ!!!」
「あと銀時はパチンコとかお菓子とかジャンプとか禁止だから」
「ちょ、刹希ちゃん!?それは鬼畜過ぎだってばァァ!!」
「うるさい、嫌だったら人並みに金稼いできてよ!……もー嫌、寝よう」

一気に疲れが出て来たのか、刹希は叱るだけ叱って、自分の部屋に引っ込んでしまった。
そんな彼女の後姿を見送った後、顔を見合わせる銀時と新八。

「……ぱっつぁん、こりゃ危機だぜ」
「ホントですよ。もとはと言えば、アンタが神楽ちゃん引かなければこんなことなってませんでしたよ」
「俺のせいかッ!?全部俺のせいだっていいてーのか!?」
「少なくとも原因の九割方はアンタのせいですよ!!」
「お前もあの小娘を星に帰そーなんて首突っ込むからだろーが!!」
「うるさいんだよさっきっから!!よちよち寝れもしないじゃない!!」
「「すいまっせんしたァァァァ!!!」」


そんなこんなで、万事屋には夜兎族、神楽が加わったのであった。





2013.7.29



(あとがき)
今回は原作3話のその後を。
話はヒロインのいないところで進んでいくんだよ、という感じのものですね、はい。

あとヒロインのため息つく回数が多すぎてヤバイ。


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