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最近は金槌を打つ音と何かを削る音、そして――。

「うがァァァァ!!」

人の鎮痛じみたうめき声が周辺の家々に響いていた。

「ねェ、銀さん」
「あ?」
「僕ら万事屋なおしに来たんですよね?指と家を破壊する音ばかり聞こえてくるんですけど」
「創造と破壊は表裏一体だよ、新八君」
「いつまでも創造がはじまらないんですけど」

新八の言いたいことは重々承知だ。
刹希もこめかみを押えて、この惨劇をなんとか受け止める。
年が明け、万事屋の修繕を日々行っているが全く進まない。
こうして全員で直しているというのに進まないのは、ひとえに神楽が工具の扱いに不慣れなためだ。
基本的に金槌で指を打ち付けた痛さを発散するために本能で半壊している家をさらに壊しているのである。
何のいじめだろう?なんて今では思う。もう怒る気力もなくなった。

「やっぱ無理だ。素人が大工なんてできるわけない」
「バカヤロー、お前、最近の大工なんて欠陥住宅とかつくってロクなもんじゃねーよ」
「欠陥人間がつくるよりマシだ、バカヤロー」

新八は毎回的を射た指摘をしてくれる。
刹希が自分でツッコまなくていいからだいぶ楽だなぁと、きっと疲れているのだろう、笑顔で一人うなずいていた。

「でも新八、最初に言ったでしょ。大工に全部修復してもらうほどこの家にお金はないんだから」
「そうだぞー、大体テメーらも万事屋のはしくれならこれぐらい器用にこなせバカヤ」

言った瞬間、銀時がのこぎりで親指を削った。
よそ見をしているからである。

「うがァァァァ!!」

痛さと怒りに任せて銀時も作業に使っていた木材を破壊する。

「ダメだこりゃ」
「ぴんぽーん」

新八と一緒に刹希も呆れていると、玄関口があった方向からなにやらピンポーンの声が聞こえてくる。

「ぴんぽーん。ぴんぽーん。すいませーん、お届け物です」

宅配業者のようだ。
玄関が壊れてチャイムが押せない為、わざわざ口で言ってくれたらしい。
なんかかわいいなコノヤローと思ってしまう。

「なんでしょうね?」
「ああ、このタイミングなら辰馬でしょ」

やっとこさ現金でも箱に詰めて送ってきたのだろうか。
業者の持ってきた箱は異様に大きくて、異様に重たかった。
業者の人に部屋の中央まで持ってきてもらい、改めて四人でその箱を囲む。
箱には手紙が添えられていて、代表して銀時が読むことになった。


――拝啓、金時君。
長らく連絡をとっていませんでしたがいかがお過ごしでしょうか。刹希さんはお元気でしょうか。僕の方は相変わらず宇宙を縦横無尽に飛び回っております。やっぱり宇宙(うみ)はいいです。
先日、地球に寄ることがあったので金時君に会いにいったのですが、どうにもすれ違いになり残念です。実は、今回筆をとったのは君に言いたいことがあったからです。
昔、君は『オイ、茨木またキャバクラいったらしいな。今回俺もつれてけ』と言っていましたが、彼はいばら“ぎ”じゃなくていばら“き”君です。
今更と思いましたが、やっぱり人の名前とか間違えるのは失礼だと思います。
それじゃ元気で金時君。   坂本辰馬

P.S.
家壊してゴメンネ(このP.S.って手紙書くと使いたくなるね(笑))――

「笑えるかァァァァァ(怒)本文とP.S.が逆、コレェェ!!」

銀時が勢いに任せて辰馬の手紙を破ってしまった。
まあ、そうしたくなる気持ちもわかるが……。辰馬も狙ってやってるのではないか?

「人の家壊しといてP.S.ですませやがったよ!自分も人の名前間違えるしよォォ!!よしんばP.S.が世界平和を願うという意味だとしても許せねーよコレは!!」
「類は友を呼ぶアル」
「友達じゃねーよこんなん!死んでくんねーかな、頼むから死んでくんねーかなスゴク苦しい死に方してほしい」
「落ち着きなよ銀時。辰馬が名前間違えるのなんて今に始まったわけじゃないでしょ」

まあ、そうなんだけど。と銀時は一瞬冷静になってうなずく。

「銀さん、手紙はあくまでオマケですよ。坂本さん、これを送りたかったんでしょ」

新八はそういって、ずっと置いてあるその大きな段ボールに触れる。
そうどう考えても本命はその段ボールだ。
手紙何て至極どうでもいいくらい。

「何アルか、この荷物?」
「きっとこっちにお詫びの品とか入ってんですよ」
「……そーいや、アイツって確かボンボンだったな」

……金!?と、三人は考えただろう。
刹希もそれは考え、催促もしたのだが、あのバカが素直に金を送ってくるとも考えられない。
ぜひとも現金であってほしいところだが、そこを違うもので返すのがあのバカである。
刹希もさすがに中身の正体にどきどきしていた。

「んだよ、それならそーと早く言えっつーのおちゃめさん!もうホントッ、あいつったら俺に勝るおちゃめっぷりだなホントッ!」

銀時は早口でしゃべりながら段ボールを閉じているガムテープをはがしていく。
そして蓋を開けると……。

「どーも、この度はデリバ……ぶごっ」

言い切る前に全力で蓋を閉めた。
どうにも段ボールの中に何かがいたような気がしたのだが、気のせいだろうか。
一度目をこすって首を傾ける刹希。

「あーコレ夢だな。支離滅裂だもん、ありえねーもん」
「ちっちゃいオッさん入ってたヨ。ちっちゃいオッさんがしきつめられてたネ」
「二人入ってたね」
「いやいや、今の人形でしょ?人形ですよ」
「今どきの人形ってしゃべるんだ、ハイテク〜」

自分の知らないところで文明はさらに発達していたのか、なんて現実逃避をしてみる。

「もっかい見てみましょうよ」
「夢だって!いい加減目を覚ませよ俺」

そう言いながら再度段ボールを開ける。
刹希も中を覗き込んで確かめようとした。

「どーも、この度はデリバ……」

言い終わる前に銀時が段ボールごと壁に蹴りつけた。
壁にたたきつけられた段ボールに、粉塵が舞っている。
うーん、中のあれは大丈夫なのだろうか。気にしたくはないが、気になる。

「ウソウソ、夢だ夢」
「ちっちゃオッさんの悪夢にさいなまれてるんですよ、僕ら」
「じゃあ解散……目ェ覚ましたらもっかいミーティングな」
「うース」
「待たんかィィィ!!」

破壊された段ボールからちっさいオッさんが這い出てきた。
2人は勇ましい表情を崩すことなく、こちらを見据えてくる。

「てめーら人の話は最後まで聞けェェバカヤロォォ!!」
「この度はデリバリー大工をご利用頂きありがとうございますって言ってんだよコノヤロォ!」
「デリバリー大工?しらねーよそんなもん。この度はそんなもんしらねーから帰れ」
「なんだァァその言い草はァァ!!」
「遠い星からわざわざ家直しに来てやったんだぞ!!」

どうやらこのちっさいオジサンたちは万事屋を直すために来たようだ。
辰馬は現金ではなく大工を寄こしてきたというわけである。

「そうだよ!俺たちは依頼があれば星をもまたいで家を建てに行く、ウンケイ!そして」
「カイケイ!」
「デリバリー大工なんだよ!!」
「チェンジで」
「いやそんなんないから」

速攻で切る銀時と拒否するウンケイ。
なんというか、ぐだぐだと話が進まなそうな気がして刹希は一つあくびを漏らした。
ただというなら大工に直させるのもいいかもしれない。
直らなかったときは再度辰馬に建て替え費を請求すればいい話だ。

「テメーらそんなナリで何ができるってんだよ。どーせシル○ニアファミリーの家しかつくれねーシ○バニア大工なんだろ」
「殴るぞお前」

ガタイは良さそうな彼らに殴られれば多少は痛そうである。

「聞いて驚くなよ。俺たちはなァ、江戸を国際都市へと変えた文明開化の象徴、あの天高くそびえるターミナルの中にある給湯室のお玉とか引っ掛けるアレ……アレつくったんだぞ」
「戸を閉めてもおたまとかガシャンとおちねーんだぞコルァ!!」

それは大工じゃなくてもいいと思う刹希。
アホらしいと思っていれば、身内にもアホがいたことを思い出す。

「甘ェーよ。俺なんか牛流パックで本棚作ったぞコルァ」
「地球に優しいぞコルァ」
「そういう話じゃないと思う」

まあどんぐりの背比べみたいなものだ。
話の次元が小さすぎる。

「なんだと、それ位の優しさで地球が救えると思ってるのか?」
「おたまでも地球は救えないからね」
「地球とかおたまっていうか金がねーんだよ」
「家計は厳しいんだヨ!」
「アンタら何の話してんのォォ!?」

いや全くもって新八の言うとおりである。
でも銀時の言い分ももっともだ。
かくなる上はやはり目の前の小さいオッサンに頼むしかなさそうだし、今はそれくらいしか打つ手はない!

「もういいじゃない。どうせ辰馬が金出してるんだからとりあえずやってもらえば」
「……こんな言葉を知ってるか?」

なんか銀時が言い出した。
床に転がっていた金槌を拾うと、オッサンに投げ寄こした。

「茂吉っていう偉い大工が言った言葉でよォ。よくしゃべる職人にロクなやつはいねーって。口で語る術を知らねェ奴を職人という、ゆえに職人は腕で語る」

ウンケイは金槌を受け取り銀時を見た。

「おめーらはどっちのクチだ?」

いや、そんなこと言わなくても仕事位するだろ。
アホなやり取りしてないと死んじゃうの? なんて刹希は呆れかえるしかなかった。



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