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夜になった。
すでに斗夢により、信者に捕らえられた刹希、お妙、花子は最初の広場に十字架に縛られている状態だ。
ただの縄抜けなら苦労することはないが、木で繋がれていれば抜け出すのも難しい。

すでに広間には信者全員が集まっており、注目の的になっている。
やっぱりロクな事には関わらないべきだったなぁと思うけれど、後の祭りだ。

「みなさ〜ん、残念なお知らせがあります!私達の仲間から裏切り者が出ました!」

斗夢が声高に眼前の信者たちに呼びかける。
本当なら見つかったあの時に斗夢を一発殴れば終わっている話だったが、たまにはこんな回りくどい展開もありかもしれない。
というか、刹希は斗夢の神通力の正体が結局気になっているのだ。

「彼等は私の部屋に忍びこみ教団を運営していくために皆さんから寄付してもらったお布施を盗み出そうとしていました!これを許すことができますか!?」
「ふざけんなァァ!」
「死ねェェ!!」

信者たちは張り付けられた刹希たちに石を投げつけながら罵声を吐いてくる。
刹希は目を閉じてこの状況が過ぎ去るのを待つことにした。
さすがに貼り付けられていては抜け出すことも出来ない。

「私はこの者達に罰を与えたいと思う。だがどのような罰を与えるかは皆にゆだねたい!いだっ!?ドリームキャッチャーは願いをかなえる力!皆さんでこの者たちにどういった罰を与えたいか強く念じ……あだっ、ちょっ痛いって! さすれば私達が手を下さずともこの罪人達に相応しい罰が下るはず!! いだっー!!目いったー目!!」

傍に立っている斗夢にも石が当たっているらしい。
痛いという斗夢など気にもしていないらしい信者は勢いそのままに更に声高にのたまう。

「罰だと!?んなもん殺しちまえばいいんだ!」
「そうだ殺せ!殺せ!」

信仰に身を委ねると思考もまともに働かなくなるのだろうか。
それならやはり宗教などというものに無暗矢鱈身を投じる者ではないなと考えさせられる。
これなら無宗教で自滅する方がましだと、刹希はあの三人の登場を待ちながら考えていた。

「……決まったな。君達は死刑だ」
「やれるものならやって見なさいサギ師が……夢だ願いだとほえるだけほえて何もしない、全くめでたい人達だわ」
「お妙ちゃん……」
「あなた達の信じるイカサマ宗教が私達に通ずると思って?」
「フン、この期に及んで……その根拠のない自信はどこから来るのだね」
「私達はもっと確かなものを信じているからよ」
「確かなもの?なんだそれ……」

刹希はそっと目を開けた。
身動きの取れないこんな窮地でも、取り乱しもせずむしろ余裕を持っていられるのは確かなもののおかげだ。
なんだかんだ、頼りになるそれ。

「仲間よ」

お妙がそういうと、信者たちが何か見つけたようで、先ほどの罵声がどよめきに変わった。
「屋根の上に誰かいるぞ」という声が刹希達の元にまで聞こえてきて、思わず笑みがもれた。
来るのが遅いんだから。

「銀ちゃァァァん!そこねェェ!!」

屋根から頭を覗かせた神楽が屋根裏に向かって銃弾を撃ち込んだ。
刹希は神楽が撃ったその先に視線を向けた。
一瞬、暗がりの中、何かが動居たように見えた。
そして、銀時の声が聞こえたと思った次の瞬間、屋根裏からそいつは落ちてきた。

「あ、忍者だ」

黒い衣装で全身を包んだそいつは正に忍者というにふさわしいだろう。
なるほど、この忍者が一瞬で銀時の頭にカツラをつけて、神楽の頭にお椀を乗せたのか。
刹希の目でも見えなかったとなると、この忍者はかなりできる部類なのだろう。

「ちょっ、服部さんアンタ困るよ、しっかり隠れててもらわないと高い金払ってるのに!」
「も……もう無理。ケ……ケツに……おもっくそなんか刺さった」

どうやら大金をはたいてまで雇い、インチキ宗教を行っていたらしい。
忍者で大金を使っても釣りがくるほどには儲かっていたのか、と思うとなんだか羨ましいような、だがそんなインチキしてまで稼ぎたいかというと刹希は素直に首を横に振るだろう。

「てめェ、ふざけんじゃねーぞ!お庭番リストラされて路頭さまよってるところを拾ってやったのに、アンタがいないと俺ただのオッサンだぞ!」
「スイマセンもうやめますわ。ここのトイレ、ウォシュレットついてないし、もうたえられませんわ肛門が。じゃっ!!」
「おイイイ!!」

ウォシュレット無いだけで簡単に裏切られてしまった斗夢。
さっさと屋根伝いに逃げていく忍者を信者も見たらしく、やはり先ほどとは違うどよめきが起こった。
さあ、なんだか面白い展開になってきたかもしれないと、刹希は結末を見守る。
やってきた新八がマイクで信者に真相をぶっちゃけはじめた。

「これがドリームキャッチャーの正体ですよ。思い出して!この人の叶えてくれた夢って何か具体的な……ものがほしいとかそんなんばっかじゃん!」

確かに、刹希達が入った時も、銀時のストパーと神楽のごはんですよはすぐに実践できるものだった。
引換、お妙の道場復興や新八の眼がよくなりたいなんて夢はその場では実現できない物である。

「この人はねェ、入信時にあなた達の夢をあらかじめチェックし、叶えられそうな夢だけチョイスしてあの忍者を張りの上に忍ばせその目にも止まらぬ速さで奇跡を演出してただけなんですよ!あなた達は騙されていたんです!」
「バ……バカな!」
「そんなアホみたいな奇術に俺達がひっかかるわけねーだろ!」
「そうじゃ!!わしなんてハゲてたのこんなフッサフッサにしてもら……あー!これヅラじゃねーか!」
「ホントだ!ジジーなんで今まで気づかなかったんだ!?」
「いや、抜け毛を最小限にしようと出来るだけ触れんかったから!」

まあこんなインチキ宗教に引っかかるくらいなのだから、元々ここの信者たちはアホなのだろう。
アホというか、花子同様疑うという事をあまりしないのかもしれない。
新八がようやく縛られていた刹希達を解放してくれた。伸びをしながら、お妙と花子が斗夢の背後に近づくのを見守った。

「てめェェェ!!斗夢このヤローよくもだましやがったな!」
「あわわ」

自分の悪事がついにばれた斗夢は、顔を青くさせて後ろに下がり始めるも、背中に何かが当たり立ち止まる。
背後には花子とお妙。

「教祖様、何をしとんねん」
「こんな時こそドリームキャッチャーでしょ?」
「「助けてくれってホクロに願えや」」

見事な蹴りで斗夢が信者の元へ落ちていく。
なんだか、今回の件はこれで落着したようだ。
結局、神通力もイカサマだったし、最初のうきうき感なんてもうない。
いつもの刹希だ。

「……アイツも、ウチらと同じかもしれへんな。夢に溺れて何も見えへんようなってもうた哀しい男や」
「そうね、ただ違うのは溺れた時に助けてくれる誰かが、仲間がいるかどうかってことじゃない?だから、私が溺れた時はお願いね、花ちゃん」
「……当たり前や。今度は大阪の人情を見せたるで」

手なんて繋いで。なんだか若いっていいなぁと、傍から眺めながら苦笑する。
自分が溺れた時に助けてくれる人、そんな人が出来たら怖いものなんてないのだろうし、心強いのだろう。
自分にとっては誰だろうと考えると、銀時の顔が出てきた。

「……そう言えば銀時は?」

銀時で思い出した刹希は、神楽と新八に尋ねてみる。
確か、屋根の上にいたような。
だが、一向に戻ってくる気配はないが、何をしているんだろうか。

「……ドッ、ドリームキャッチャー、どうか僕をパチンコで大勝ちさせ……」
「何やってんスか、銀サン?」
「バカ……」

本当に何やってんだか。
屋根の上を覗いてみれば、銀時がドリームキャッチャーをしていて。
うん、銀時はやっぱりないな、と、刹希は再度認識するのだった。





2017.10.26




(あとがき)
後半ヒロイン空気でした。絡ませるのが難しかったな……。


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