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「ドッリぃぃぃム、キャッツァァ!!」

広場から移動した刹希は近くの道場に集められた。
そこではどういう意味があるのかは分からないが、ドリームキャッチャーの練習をさせられる羽目になってしまった。
現在進行形で銀時と神楽が先輩に指導されながらドリームキャッチャーと叫んでばかりいる。
本当に意味はあるのだろうか。

「だから違うって、君達さ〜発音にこだわってばっかで全然気持ちが入ってないんだよね〜」
「気持ちッスか。先輩わかりました、なんか今ならやれそうな気がします」
「死ねェェェブサイク!!」
「ぐはァ!ちょっ……気持ちってそれ殺意じゃん!何してくれんのォ!!」
「先輩への私の気持ちっス。受け取ってください」
「いらねーよ!」

神楽のおもちゃにされる先輩に多少同情しながらも、刹希たちはそれを止めることはしない。
銀時もノリノリでドリームキャッチャーの練習をしているし。

「目的忘れてすっかりはまっちゃってますけど」
「バカはほっておきましょ」
「元々金を取り返す頭脳戦で脳筋は人数に入ってないしね」
「辛辣ですね……」

強盗紛いに金を奪い返すならあの二人は頼りになるが、今回はそこまで派手に事を起こすつもりはない。
むしろここであのバカたちが信者の目を集めてくれていた方がこちらが動きやすくなるというものだ。

「でもこれだけの信者がいるのもわかった気がしますよ。あんなもの目の前で見せられたら……一体どうやったんですかね、アレ?」
「とりあえずあの鈍足そうなハムが何かできるとは思えないし、協力者がいるんでしょうよ」
「新ちゃん、刹希さん。私達は別にインチキを暴きにきたわけじゃないでしょ。目的を忘れて余計なことに気をとられるとあのバカ達のようになるわよ」
「そうですね。早くあのインチキ教祖から金をとり返して花子さん安心させてあげなきゃね」
「違うわよ、インチキ教祖から金を巻きあげてお父上の道場を復興させるのが私達の目的でしょ?」
「何それェ!しらないよそんな目標!いつ掲げたの!?」

お妙が真面目に他人のために動いていると思えば、勝手に金をとり返す目的が自分のためになっていたとは。
流石に刹希でもそこまでは考えていなかった。
依頼料ぼったくれればいいなぁくらいにしか考えていなかった。

「だまされた善良な市民のお金私欲に使うつもりですか!」
「礼金として少々頂いてもバチは当たらないでしょ。残ったお金はちゃんと貯金するわ」
「全部頂いてるじゃないスか!アンタはなからそのつもりでここに来たな!」
「見損なわないでちょうだい。花子ちゃんのお金はちゃんと返すつもりよ」
「そう言う問題?」

他の金も帰してやれよ、と刹希は顔を引きつらせながらお妙を見遣る。
いや、勝手に奪っていくなら、信者たちの金を勝手に返すのも問題が起こりそうだし、放置が一番かもしれない。

「あれ?そういえば、花子さんはどこに行ったの?」

先程から姿が見えないことにようやく気が付いて二人に声を問いかけていると、花子の声が聞こえてくる。
思わず三人でそちらに視線を向けると。

「ドッリームキャッチャァァァ!!」

なぜか信者と混じって普通にドリームキャッチャーの練習をしていた。
お妙にお灸をすえられたのは言うまでもない。

「まったく……一体あなたは何度だまされたら学習するの」

そうお妙は白目をむいた花子を引き吊りながら敷地内を歩く。
それに新八と刹希も続いた。
道場にいる銀時と神楽はとりあえず放置しているが、あれは放置していても自分たちでどうにかするだろう。
いざとなれば力技で連れかえせる。

「さァ、ジャムの部屋まで案内してちょうだい」
「姉上、トムです」
「違うで、ティムや……アレ?わからんよーなってもうた」
「そんなんでよく上京しようと思わったわね……」

ひょっとしなくても、この問題が解決しても彼女はいずれまた同じ被害に遭ってしまうんじゃないだろうか。
純粋すぎるのも良くない。
お妙の言うようにちゃんと学習してほしいところだ。

「それでお妙、これからどうするつもりなの?」

トムの部屋まで行くつもりだが、まさか。

「ここは長居する所じゃないわ。直接ティムロスの部屋の金庫を襲いましょう」
「ティムロスって誰ェ!?もう原型なくなってんじゃないですかァ!!」
「名前なんて何でもいいんだよ新八。とりあえず金庫をどうぶっ壊すかが問題」
「ぶっ壊す気ですか!?いや確かに持ち運べないかもしれませんけど」

神楽を連れてきた方が手っ取り早かったかもしれない。
けれど、神楽があれだけ目立っていた分、いなくなると信者が探し出す可能性があるし、自分たちで金を奪うしかないようだ。

「金庫襲うってまるで泥棒やん。のらへんわ〜」
「花子ちゃん、どこからもってきたの?その衣装?」

古典的な黒の忍者衣装に頭には黒のほっかむりをつけて、よくある鼠小僧の様な格好だ。
形から入るタイプなのだろうか?
でも先行き不安だ。

「でもしゃーない。夢のためならウチやったるでェェ!!」
「花子ちゃん、あまり目立たないようにしてね」

と言った途端、花子が瓦屋根をぶち抜いて体の半分屋根に埋まってしまった。
うん、どうやら屋根が腐っていたみたいだ。

「花子ちゃん、アナタもう大阪帰りなさい」

今まで言わなかった台詞をついにお妙が進言した瞬間である。
といっても、このまま花子を放置するわけにもいかず、三人は呆れつつも花子を屋根から引き吊り出すため慎重に屋根を下りる。

「こんな所信者の誰かに見られたらヤバい気がする」
「そうなる前に早く引きあげましょう」
「花子ちゃん大丈夫?」

とりあえず三人で花子の手を掴んで引っ張ってみるが、上手いこと屋根に引っかかっているらしく簡単に花子が引き上げられない。
むしろ力任せに引っ張るせいで花子が痛がる始末だ。

「痛い痛い!お妙ちゃん」
「わっ、ちょっと花子さん!そんなジタバタすると余計落ちますよ!!」
「やっぱり手首だからダメなんじゃない?花子さん、ちょっと失礼するわよ」

刹希は花子の両脇に手を入れるとそのまま持ち上げようとした。
さすがに成人間近の女性を持ち上げるのはかなりキツイ。

「ひゃひゃひゃっ!あははあは!ちょぉ、ひぃー、刹希さん!くすぐったい!ダメやでそれ!」
「ちょ、暴れんな……うわっ!?」

踏ん張ろうとしたその時だった。
刹希が空いた穴に足を間違って踏みしめたせいで一気にバランスを崩した。
二人分の体に、屋根は耐え切れず先ほどよりも広がって穴に全員が落下した。

「ぎゃあああああ!!」

地面に叩きつけられて、いたるところが痛い。
刹希はすぐに新八とお妙、花子のことを探し、一応無事であることを確認する。

「あいたたた」
「ちょっとォォ!花子サンがじたばた暴れるから」
「何してんの、君達?」

顔を上げれば、斗夢が引きつった表情で刹希たちを見ていた。
この状況には、さすがにお妙もやっちまった、と言わんばかりの表情を浮かべていた。
これは窮地というやつだろうか。

「えーっと……」
「トムぅぅぅ!ウチからだまし取った金返してもらうで!!」
「ちょっ」

花子が勢いで啖呵を切ると、斗夢は顔を一瞬青くさせて、声を上げた。

「く、曲者ォォォ!くせも……!」
「刹希さん!?」

刹希は思わず斗夢を押し倒して、その辺りに落ちていた木片を彼の口に突っ込んだ。
これ以上騒がれてはいけない。
だが、思ったよりも斗夢の声は聞こえていたようで、部屋の外からは複数の足音と声が迫ってくる。

「新八!!銀時に知らせにいきなさい!」
「で、でも刹希さんたちは!?」
「ちゃんと回収された武器持って助けに来てちょうだいよ」
「いきなさい、新ちゃん。ここは私たちに任せて」

刹希とお妙の力強い瞳に背中を押されるように、新八は走り出した。

「で、これからどうするんです?」
「ノープランよ。ここから先は銀時達を信じるしかないよ」

刹希は斗夢を解放しながら、笑顔を浮かべた。


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