B
善は急げだ。
一行は早速、花子の案内で夢幻教の総本山へ向かう事となった。
敵地に飛び込むなら仲間となって溶け込むのが一番だろう。
ということで、花子を紹介者として刹希たちは夢幻教に潜り込むことにした。

「みなさ〜〜ん、夢見てますかァ!!」
「見まくってまーす!!」
「夢にむかって走り続けてますかァ!!」
「走りまくってまーす!!」
「何これアホみたい」
「刹希、シッ」

アホみたいな信者と創始者のノリに刹希はこめかみを押さえたくなる。
神通力なんて非現実的なモノも大概だが、多少の興味はあれど、元来刹希は宗教関係に興味がないのだ。

「ハイみなさん。今日も夢一杯元気一杯で私も嬉しいです。その調子で夢を追いかければ明日あたり掴めんじゃないかな、うん」

そんなテキトーな事言うあたりが偽物臭半端ない。
そしてやはりというべきか、信者は花子と同様に毛の生えたホクロを体のどこかしらにつけているようだった。
ホクロ一つで叶うわけもないし、大枚はたいてホクロを付ける神経が理解できないところである。

「えーと今日はね、ダンサー志望の花子ちゃんが新しい夢追い人をつれてきてくれました。みんなに紹介します。ハイ!みなさ〜ん夢見てますかァァァ!!」
「見まくってまーす!」

刹希たちは拳を振り上げて信者と同じように声を上げた。
もちろん、刹希たちも毛の生えたホクロを装着済みである。

「志村妙さん、アナタの夢はなんですか?」
「父の道場を復興させることです」
「花子ちゃん、君の夢は言わずとしれたァ?」
「インチキ宗教団体から金をとりもど……」

スパンと左右から頭を叩かれた花子は置いておいて、まさか夢が何かを聞かれるとは思わなかった。
はてさて、何を言おうか。
考えている内に神楽が勝手にしゃべり始めた。

「私の夢はァ、ご飯一膳に「ごはんですよ」全部まるごとかけて食べるとこです!でもォ、夢は叶うとさびしいからずっと胸にしまっておこうと思います!!」
「ハイそーですか」

創始者の斗夢も呆れているじゃないか。
何よりもっと幸せな夢はいっぱいあると思うし、やろうと思えば今日明日にでも叶う夢である。
斗夢は神楽から新八に夢を聞こうとしたが。

「君は……眼がよくなりたいとかそんなんだろどうせ。いいや」
「オイちゃんときけやァァァ!!」

眼鏡かけてると損だなァとしか言えない。
それにしても、意外とそれぞれちゃんとした夢があるようだし、自分もそれなりの夢を言った方がいいのだろうか。
刹希がうんうんと悩んでいると斗夢と目が合ってしまった。

「君の夢は?」
「あ〜……そうですね、何事もない平和な暮らしがしたいですかね」
「はーい、刹希ちゃん?本音は?」
「家が一生火の車にならないくらいの金が欲しいです」

とりあえず宝くじ一等10枚欲しいですと満面の笑顔を見せてみる。
こんなドロドロな夢でも斗夢は「そうですか」と笑顔で流すのだから夢なら何でも良さそうだ。

「最後に、君の夢は?」
「夢?そんなもん遠い昔に落っことしてきちまったぜ」
「お前何しに来たんだァァァ!!」
「んなこと言われてもねーもんはねーんだって」
「なんかサラサラヘアーになりたいとかそんなんでいいんじゃないスか?」
「じゃサラサラヘアーで」
「帰れェェ!!」

やはり銀時は銀時だった。
というか、大人になってまで大層な夢などないし、そんなものだろう。
刹希とて金銭的にゆとりのある生活をしていれば特に夢なども思いつかないのだから。
だが、そんなちゃらんぽらんな夢は良くなかったようである。

「……君達、ロクな夢も持たずにここへ入信してくるとは。どーいうつもりだ、ホントに信者か?」
「半分くらいはまともな夢だった気がするけど?」

特にお妙は真面目だった気がする。
まあ、確かにあとの夢は酷かったけれど。

「信者になるかどうか、そいつァこれから決める。なんでもアンタ、夢を叶える神通力が使えるらしいじゃねーか。そいつをこの眼で一度おがんでみたくてなァ」
「銀さん!!ちょっと目的忘れてんじゃないスか」
「まァ待てよ。金とり返す前にコイツの化けの皮はがすのも一興だろ?」

新八は刹希に向かってそれでいいのかと言いたげな視線を向けてくる。
しかしそれに、刹希は笑顔で親指を立てた。

「私、神通力気になるからいいと思う」
「あ、今日はダメな方の刹希さんだ……」

最初のノリからしていつもの刹希と違う気がしていたが、やっとこさ自己解決できた新八だった。
これは彼女に頼ることはしない方がよさそうだ。
今回の目的が花子の金を取り返すことと斗夢のインチキを見破ることだとしても、銀時の言ったことは良いものとは思えない。
自分の信じていたものが疑念視され、馬鹿にされる風に言われては信者も黙ってはいられまい。
現に、集まっていた信者たちからは銀時達に対して批判の声が浴びせられ始める。

「ククク、面白い。私の力が見たいと、ここは夢を叶えるとこのできる理想郷。ここで修練をつめば君達も私のように夢を叶える力を得ることができることを教えてあげよう……ドッーリームキャッチャアー!!」

信者の消えろコールの中、斗夢は力士の押し出しをするポーズをしていきなり叫んだ。
「何やっての?」と銀時含めたその場の全員が困惑したのだが、斗夢は恥ずかしがることなく指を差してきた。

「君……ものっそいサラサラヘアーになりたいっていってたよね?頭をごらんよ」

斗夢の声に刹希たちは思わず銀時の頭を見た。
そして瞳に映ったそれに全員が息をのんだ。

「バッ……バカな、銀さんの天パが…………サラッサラッヘアーに……っていうか髪型変わってんじゃねーかァァ!!」

そう、つい先ほどまで天パだった銀時がおかっぱサラサラヘアーになっていたのだ。
これには誰しもがツッコみたくなる。刹希も絶句してしまうほどだ。

「……うっわァ……」
「ウソ?ウソでしょ?ちょっと……うおおおおおお!!」

お妙の手鏡で自分の頭を確認すると銀時はその変貌ぶりに声を上げた。

「サラッサラッじゃねーか!ベタつかないパサつかないじゃねーかァァ!!ヤッホーイ!これで雨の日もクリンクリンにならなくてすむぜ!」
「喜ぶ前にヘアースタイルを嘆け!!」

余程サラサラになれたことが嬉しかったのだろう。
新八のツッコミも耳には入ってきていないらしく、さらにはテンションが上がった状態で刹希にドヤ顔してくる始末だ。

「俺もついにサラサラヘアーだぜ刹希。カッコいいだろ?」
「……そうね……某死神漫画のおかっぱ関西弁野郎と同じ髪型なのにこんなにも不釣り合いってある意味才能?あっちは似合っててむしろイケメン感あるのになんで?」
「刹希ちゃん、銀さんは今すごく心臓をえぐられた……」
「というか他作品のキャラを出さないでくださいよ!いくら作者がおかっぱ関西弁野郎が好きだからって!」
「まあ、似合ってないのだけは本当だからいいじゃない?」
「良くない!!」

天パのせいでモテないと思っていた分、刹希に似合っていないと言われるのが悲しいらしい。
上辺だけでもいいからカッコいい下さいとせがむ辺りがかなり痛いのだが、本人は気が付いていないようだ。

「アッハッハッハッー!見たかいこれがドリームキャッチャーだ!!夢幻教を信じる者はこの力が手に入るんだよ!!みんな夢が叶うんだよ!!」
「……一体どーゆうこと、コレは?」
「なにか絶対種があるはず。ねェ銀さん」

と、新八が銀時に話を振るが、刹希の横にいた彼はいつの間にか斗夢の前に片膝をついて移動しているではないか。

「何か御用があればなんなりとお申しつけ下さい、ハム様」
「いやハムじゃないから、トムだから」
「おいィィィ!!」

完全に飼いならされた犬猫状態になってるじゃねーか。
アホらしい、と思いつつも、斗夢の行った神通力のネタが分からないのもまた事実だ。
一体、どうやって銀時の頭をあんなにもサラサラにしたのだろうか。

「あんな銀ちゃん私やーヨ、しっかりしてヨ銀ちゃん!」

神楽は銀時に駆け寄り斗夢を睨み付ける。

「お前元の銀ちゃんを返すネ!!」
「何言ってんだこれが本当の姿だよ。悪い坊主の呪いで醜い天パに変えられていたのさ」
「そんなこと言うなァ!自分に自信を持てェお前から天然パーマをとったら何が残るんだ!?」

散々な言われようである。
でも確かに銀時から天パを取ったらそれはもうただのグータラであり、いやグータラは前からだ。
本格的に何も残らなさそうだ。

「刹希もこんな銀ちゃん嫌アルヨネ!」
「嫌って……まぁ……」
「!」

刹希が銀時を見遣りながら濁すように喋る様子に、銀時は思わず上ずった声を出しそうになる。
もしかして天パの方が好みよ、はーと、と言ってくれるのかと期待が膨らんでしまう。

「そのコテコテのパッツンおかっぱがクソ似合わないとは思うけど。……別に天パが似合うとか言ってるわけじゃないから、勘違いは止めろ」

銀時の期待するような目に、刹希は眉間にしわを寄せながら吐く。
それでもツンデレだな刹希は、と無駄に元気に言うものだから、クナイの一つでもお見舞いしてやりたい気分だった。
さすがに目立ってしまう為できなかったが。

「お団子頭の御嬢さん、君の夢はご飯一膳にまるまるごはんですよだったね。オーケー!オーケー!ドリぃぃぃぃムキャッチャー!!」

斗夢が再び叫ぶと、一瞬のうちに神楽の頭のてっぺんにご飯が山のようによそわれたお茶碗が出現した。
一瞬、瞬きをした一秒にも満たない時間である。

「何か御用があればなんなりとお申しつけ下さい、ハムの人」
「何ハムの人って。トムって言ってんじゃん」
「やられたァァァ!!簡単にやられたァァ!!」
「あの二人単純だからしょうがないよ、新八」

トムに忠誠を誓う二人など放置だ。
それよりも、どうやって二人に望みのものを一瞬で与えたのかが問題である。
刹希も銀時と同じように、斗夢の神通力のネタを見破ろうとは思っていたものの、二度見てもはっきりとはしなかった。
もしかして本当に神通力?
それはそれで現実にそのようなことがあるのなら、刹希としては面白くていいのだが、何か引っかかるものは引っかかる。

「みなさァーん!歓迎しましょう、ここにまた我々の新しい仲間ができました!みんなで夢をつかんで幸せになりましょう!!」
「夢幻教万歳ぃぃ!!万歳ぃぃ!!」
「あ、そうか」

彼は自分が夢を与えられるのにそれをしないのだ。
そんな事に気が付けば何とも興ざめしてしまう。

刹希は一つため息をついて信者が移動する群れに、仲間らと共に歩きだした。


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