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「はァ、インチキ宗教」

花子が第一声に発した言葉を神楽が復唱した。

「そやねん。エライもんにひっかかってしもて。私、江戸へは踊子になる夢つかむために来たんやけど、そのために溜めてた資金も全部巻き上げられてしもた」
「どうしてそんな?」
「だまされてん!!あいつら人の弱みにつけこんで!」

花子の話はこうだ。
ある日、見ず知らずの男女に声をかけられた花子は自分の身の上や夢を語っていた。
彼らは夢に対して立派だと言いながらも、志だけでは夢は掴めないという。
志は夢を追う力、夢を得るには夢を掴む力が必要であり、彼らはそれをドリームキャッチャーと呼んでいるらしい。

そこから雲行きが怪しくなるが、花子は気がつかずに話に聞き入っていた。

夢を掴んだ成功者には皆、一つの共通点があると言い出すのである。
かの家康公も豊臣秀吉も野球のイジローもそれを持ち、そして彼らは人工的にそれを作り出す事に成功した。

「これがそれなの!」

そういって花子が見せたのはおでこに一本の毛が生えた黒子であった。
刹希は思わず失笑してしまった。
だが人の事を笑うなど悪い事である。咳払いを一つして視線をお妙に向けた。

「なァに?それは」
「なんか夢叶えた人は身体のどっかに毛が生えたホクロあったゆーてな。高い金出してつけボクロ買うてん、やのになーんも起こらへん。ホンマだまされたわ」

典型的なだまされ型というか、人の言う事を疑わない人種と言えばいいのか。
刹希なら声をかけられた時点で追い払うところである。
純粋な子ってすごいなぁ、と逆に感心してしまう。
が、お妙にはそんな事は関係ない。よほどイライラしたのだろうか、迎にいた花子の頭部を掴むと容赦なく鍋に突っ込んだ。

「あづァづァづァづァづァづァづァ!!」
「おのれはバカかァァァ!!そんなちっさい黒豆で人生左右されてたまるかァ!!そんな汚らしいホクロを携えてダンス踊るつもりだったんかァ!!毛をそよがせながら踊るつもりだったんかァァ!!」
「まァまァまァまァお妙、花子さん死ぬから」
「オーカサァァ!!はいあがってこい!泥の中からはいあがってこい!」
「オーカサじゃなくて大阪だから!あと泥言ってるけどコレ神楽達が泥にした今日の昼食だから!」

なんだか久しぶりにツッコミをした気がする。
鍋から解放された花子と立ち上がって花子のバカッぷりに呆れるお妙。
刹希はとりあえず咳き込む花子にお茶を渡しておいた。

「それで……他には、他にはどんな被害にあったの?」
「よーしよーし、よくやったオーカサ、次は30秒いってみよう」
「神楽は昨日プロレス番組でも見てたの?」
「……それから、その夢幻教に入信させられてコツコツ貯めたお金全部お布施でもっていかれてもうた。あ、あと新聞の勧誘とか断りきれんで9紙ぐらいとっちゃったり、あとよーわからんけど消火器二十本くらい買わされたり」

後半の新聞と消火器は宗教とは何にも関係ないだろ。
よほど人が良くて物事にノーと言えない体質なのだろう。
大阪ではそれで住んでいたが、江戸ではその生き方では通用しなかったのである。
まあ、あちらでも周りがどうにかしていた可能性も高いけれど。

「もう江戸は恐いわァァ!!私こんなコンクリートジャングルで生きていかれへん!」
「おめーはナマケモノしかいないジャングルでも生きていけねーよ!!」
「いらないものはいならいって言わないとダメよ。花子さん」

お妙にすがりつく花子に若干同情しなくもないが、やはり自業自得なので慰めようとは思えない。

「大阪は人情の街や。勿論タチの悪いのもおるけどみんなどこか他人とは思えんあったかいモンもっとる。けど、江戸モンはみんな冷たいねん。他人は他人って一線引いとる。ウチ……もうここでやってく自信ないわ」
「死ぬ程苦しいなら地元に帰った方がいいんじゃない?踊りなんてどこでだって踊れるんだから。はなから人に頼りきって生きてる人はどこいったってうまくやっていけるとは思えないけど」
「……」

突き放すような言い方に、花子はまた江戸の人間は冷たいと思っているのだろうか。
だが、それで終わっては本当に非道な人間になってしまう。
お妙もそこまで冷たい人ではない。彼女は意外と思いやりのある女性だ。

「でも、まだ江戸に残って夢を追うって言うなら、私はいつでも力を貸すわよ。江戸には江戸の人情ってものがあるんだから。ねェ?銀さん」

お妙はそういうと縁側に座っていた銀時に視線を向ける。
そして、含めた視線を刹希にも寄こすのだ。
そんな彼女の視線を受けた刹希は、ほんの少しだけ顔を引きつらせた。

「俺ァやらねーよ。宗教だのなんだの面倒なのは御免だ」
「そーっスよ。姉上一人で何とかすればいいんだ」

銀時と新八のいう事は尤もであり、刹希とてこんなアホみたいな依頼を受けたくもないところだ。
ただ、横にいるお妙の綺麗な笑顔には妙な威圧感を覚えるのはなぜだろう。
自分は彼女にはこんなに弱かっただろうかと考えてしまう。

「夢幻教の創始者斗夢……奴はタチが悪いって有名なんですよ。夢を叶えるってうたい文句で最近急速に信者を増やしてるんですがね、その実態は胡散臭い神通力とやらをちらつかせて人心をまどわし、お布施を称して信者から金を巻きあげ私腹を肥やすただの詐欺師ですよ」
「え?神通力?何それ面白そう」

ファンタジックな単語に、刹希は思わず小さくつぶやいて反応する。
そんな刹希の呟きを銀時は聞き取り、縁側から室内にいる彼女を見遣った。
いつもの冷静な表情が、少し輝かせる瞳を携えている様はいつもより幼さを感じる。
これはまた変な癖が出始めたらしいと、銀時は内心溜息をつきたくなった。

「一度入ったらなかなか抜けられないらしくて、総本山に行ったきり戻ってこない人もたくさんいるとか……花子さんはまだ無事やめられただけでもマシですよ」
「……そーそー。神通力なんぞバカらしい。わかったらお前は大阪へ帰りなさい。通天閣の周りで踊り狂ってなさい」
「アラ、それは残念。夢見る乙女は結構貯めこんでるものなのよ。お金とり返したら報酬もはずんだろーに」
「なるほどな、道理で刹希は金が貯まらねーわけだ」
「オイ、腐れ天パ今なんつった?」
「何でもないデス……」

脳天に突き刺さるクナイに銀時は本日二度目の謝罪の言葉を発した。
クナイに繋がっている糸を引き寄せて、銀時の頭部に刺さるクナイを抜き引き寄せた刹希は笑顔で花子の肩に手を添えた。

「さ、花子さん。幾ら貯めこんでるか教えてやりなさい」

変な空気の中、花子が貯金額を言うと、銀時は予想外そうに声を漏らしていた。
結局首を突っ込む羽目になってしまったが、今回の刹希は若干乗り気である。


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