B
刹希達が家に現われた巨大ゴキブリに苦戦している頃、世間でも巨大ゴキブリがキュースになっていた。
その巨大ゴキブリは宇宙からやってきたらしく、ニュースにはハタ皇子がそのゴキブリについて説明すべく呼ばれていた。
赤ん坊が攫われた、ペットが食べられた、などなどの被害報告も入っている。
万事屋に現われた巨大ゴキブリはまさにその宇宙ゴキブリという訳である。

「絶対に殺してはいかん。さっき言った通り大変な事になるぞ」

そうハタ皇子が警告するも、万事屋三人はニュースを見ていない。
血の気の多い三人が集まれば自動的にどうなるのかなど安易に想像できるだろう。

「うらアアアア!!」
「死ねェェコラァァ!!」

廊下に飛び出した銀時は客用のスリッパで、神楽は素手で巨大ゴキブリを殴り始めた。

「てめっ、一人で大きくなったよーな顔しやがってよォォ!!誰がここまで育ててやったと思ってんだァァァ!?」
「やっぱりゴミを掃除しない自分のおかげだと認める訳だ、銀時」
「……覚悟しやがれェェェ!!」

どうやら聞こえなかった振りをするらしい。
ボコ殴りに合うゴキブリを横目に、刹希は廊下の中を見回した。
玄関から今まではこの廊下しかなく、両側に台所と洗面所と物置、そして刹希の部屋が配置されている。
新八の姿は廊下にはなく、刹希は各部屋を見て回った。
洗面所、台所、風呂場、厠、物置部屋、そして自身の屋へをのぞき込んで新八の名を呼ぶも反応は一切無い。

「新八は?」

戻ってきた刹希が尋ねてくる。
動かなくなったゴキブリに一瞬視線を向けるも、その異様なでかさに思わず視線をそらす。

「隠れられそうな場所にはいなかったけど」
「銀ちゃん、刹希……新八まさかコイツに」
「バカ言っちゃイカンよ。たかだかデカイだけのゴキブリに……」

新八が食われるわけない、と誰だって考える。
刹希もさすがにそれはないだろうと思ったが、死んだかと思われたゴキブリが喉に詰まった何かをはき出すようにそれを床にはき散らかした。
それは先ほどまで見ていた新八の眼鏡だ。
いや、新八そのものと言って良いだろう。

「新八ィィィィ!!」
「出せェェェェェ!!てめっ、出せコラァァ!!」
「いやいや、さすがにないでしょ!一瞬で丸呑みはやばいよ」

刹希はゴキブリに跳び蹴りをかまし、居間に押し入れる。
そんな二人について行き刹希は慌てたようにツッコんだ。
ゴキブリに食われるなんて言う非現実的な状況を否定する理性と、もしかしたら有り得るのではと肯定したくなる感情に刹希は少しばかり混乱していたのだ。

「何味だった!?新八は何味だったコルァ!!コーンポタージュか!それともめんたい味なのかァ!!」
「銀ちゃん定春もいないヨ!キノコの回以来みてないヨ!」
「ここだと銀時の木刀の回からね」
「何味だったコルァ!たこやき味か!それともサラミ味なのかァ!!」

怒濤の攻撃にゴキブリは奇声を上げた。
それは家の外まで届いているのではないかと言うほど大きく、刹希は一瞬顔をしかめた。

「オヤオヤ、泣いちゃったよこのぼっちゃん」
「泣いてすむならポリスはいらねーんだよバカヤロー」
「兄貴ィ、マジこいつどーしてやりましょーか」
「神楽のそのキャラは何なの?」

ついに巨大ゴキブリをやっつけたことに相当気分が高まっているのだろう。

「とりあえず事務所にこい……」

銀時が死んでいるのか気絶しているのかよく分からないゴキブリに言っていると、居間の障子が豪快に倒れてきた。
なんだなんだ、と三人でそちらを向くと、大量の巨大ゴキブリが居間になだれ込んで来るではないか。
三人で声にならない叫びを上げた。

「えーくり返しお伝えします。ゴキブーリを見ても絶対に殺さないでください。仲間を呼ぶ恐れがあります。絶対に殺さないでください」

その頃、ニュースではそのような触れが拡散されていた。
特に銀時達のいる江戸のかぶき町が今1番の被害に合っているようで、もちろんこれはゴキブリを殺した銀時達のせいと言っても差し支えない。
しかし、こんな状況でも打破できるすべがあるとハタ皇子は言う。

「恐らくあそこに奴等の女王がいる。奴等は全て一匹の雌から生まれた兄弟。まず女王が星に巣食い、そこで大量の子を産む。女王がいる限り奴等は際限なく増え続けるぞ」
「それでは我々が助かる道はその女王を退治するほかないと……そーゆーことですか、バカ」
「皇子はつけよう!バカでもせめて皇子はつけよう!」

テレビで繰り広げられるアナウンサーとハタ皇子のやりとり。
脱線しつつも、アナウンサーは女王を判別する術はないのかと尋ねると、ハタ皇子は案外あっさりと言った。

「女王は普通のゴキブリの大きさと変わらん……いや待て、一つだけ他と違うものがあったな。背中に五郎って書いてある」
「なんですか?その五郎というのは」
「余がつけた名じゃ。五郎の奴め、あんなにかわいがってやったのにカゴから勝手に逃げおって」
「お前今なんつった?」
「え?なんか今マズイこと言った……あ」

墓穴を掘ったハタ皇子は置いておくとしても、結局は背中に五郎と書かれた普通サイズのゴキブリを退治できれば良いのである。
しかし、万事屋は相変らずテレビなど見ていないせいでそんな情報を知るよしもない。


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