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寝間着から制服へと着替えた近藤は、松平の公用車に乗り込んで移動していた。
その車中で、今回の件について話を聞き、ようやく話の全体を理解できるところだった。

「え゛っ!? 天導衆!? 天導衆が関わってるヤマにウチが関わったっていうんですか?」
「白々しい、とぼけちゃってさ〜。撃っちゃおーかな〜、オジさん撃っちゃおうかな〜」
「あ……あいつら……俺のいない間に……」

どうりで、帰ってきてから全員態度が変だったはずだ。
朝の件もこれが原因で、土方と総悟は近藤の身を案じて赤いマフラーと褌を預けたという事か。
やっと合点がいき、同時に顔が真っ青になる。
大体、なんで早々に教えてくれないのだろう。教えてくれたっていいじゃない。

「……て、とっつァん。俺達にお呼びがかかったってことは……処罰されるのか?」
「俺達が目障りなのは間違いねーだろうが、そりゃねーだろ。公にそんな真似すりゃ、煉獄間と関わっていたことを自ら語るようなもんだ」

松平の言う通りだ。
それなら、今日生きて帰れるかもしれないと、近藤は少し緊張が和らいだ。
しかし、刹希は更に言葉を続ける。

「むしろ危険なのは今……城に来いとはただの名目で、俺達が2人揃ったところを隠れて“ズドン”なんてこともありえる……」

そんなことを言うもんだから、近藤は今朝のブラック星座占いを思い出してしまう。
結野アナが可愛い声で死を通告してくる。
近藤は耐え切れずにドアを開けて外に出ようとしたが、松平がなんとか体を掴んで止めた。

「なっ……何やってんだてめェェェ!!」
「いやだァァ!! こんなオッさんと死ぬのは嫌だーー! 死ぬならお妙さんの膝元で死ぬぅぅ……!!」
「バカヤロー、武士とは死ぬことと見つけなさいよォ!! いや、二人で力を合わせれば生きて城までたどりつけるかもしれん、そうなりゃ俺達の勝ちだ!!」
「……とっつァん……とっつァんて、何座?」
「あん? 乙女座だけど」
「最悪だァァァ!! 純度100%で死にむかってる!! もうダメだァ!!」
「おちつけェェ!! 人は皆いずれ死ぬ! 大事なのはどう生きるかだァ!!」

真っ当な事を言っているような、いないような。
だが結局、運命はオッさんと共にあるのだから、運命なんてロクなもんじゃない。

「うるせーよ、大体なんでアンタが乙女座なんだよォ!! 全然似合ってねーよ! ヤク座じゃん! もしくは……ヤク座じゃん!」
「オメーに言われたくねーんだよ! 今ここで星にしてやろーかァ!? 毅然と輝くゴリラ座にしてやろーかァ!!」

二人が不毛な言い合いをしていた直後、車は何かにぶつかった衝撃で停まった。
見れば、前の霊柩車にぶつかったらしく、近藤らの車のフロントは大破と言っていいくらいの壊れようだ。

「オイオイオイオイ! ちょっとどこ見て走ってんのォ!? 勘弁してよ〜」

霊柩車を運転していた長谷川が、窓から顔を出して後方車両に文句を言う。
しかし、車から降りた松平は遠慮なく長谷川に銃を突きつけた。

「え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」
「てめー殺し屋だろ。殺し屋だよな? 殺し屋と言ってみろ、ぜってー殺し屋だよ」
「なな何言ってんのアンタ!? 俺は……」

続きを言おうとする長谷川の言葉を冴えきるように、松平は霊柩車を撃った。
次の瞬間、霊柩車は爆発を起こし、松平は車に戻ってくる。
そんな様子を見て、近藤はやっぱり今日死ぬんじゃないかと思った。

「田代、運転代われ。こっからは戦争だ、お前は帰れ」
「とっつァァん! 何やってんのォ!! アレどー見ても一般人だろ!」
「バカヤロー。おめーアイツ、グラサンかけてたろ、殺し屋だ。グラサンかけてる奴はほとんどが殺し屋だ」
「オメーもかけてんだろーが!!」

運転手の田代を車から降ろすと、松平はすぐさま発車させる。

「お前コレ絶対言うなよ。“歌っていいとも”のタモさんいるじゃん、アレも殺し屋だ……言うなよ」
「言えるかァァそんなオッさんのバカな発想!!」
「あの〜すいません」

車内に突然現れた声に、近藤は隣の座席へと視線を向けた。
なぜかそこには先ほどまでいなかった忍者風の格好をした長髪の女性が座っていた。

「遅れちゃいました。ちょっとそこで眼鏡壊しちゃって、眼鏡が壊れちゃうともうなんにも見えない明日も見えない」
「誰ェェェアンタ!?」

自然な様子で隣にいる女性を、近藤は全く気が付かなかった。
もしかしてこの女性は只者ではないのではないか、という考えが掠めるが。

「まっ、運転士さんのペットですか? 何ゴリラ、ゴリラ何? ゴリラ・マークUですか?」
「いちおう人間なんですが……」

遠慮なく頭を撫でてくる女性は、本当に近藤をゴリラか何かだとでも思っているようだった。
美人な女性に頭を撫でられるのも悪くはないと、近藤は照れつつもゴリラを否定しておくが、女性は「よーしよーしウッホホー」と言って構わずゴリラ扱いしてくる。
頭を撫でていないで眼鏡を掛けたらどうだろう。

「安心しろ、コイツは味方だ。ホラ、さっちゃん、お前もコイツ持っとけ」

松平は女性をさっちゃんと呼び、彼女に拳銃を渡した。

「昔のなじみでな、始末屋さっちゃんだ。今はフリーの殺し屋だが元お庭番衆のエリートよ。殺し屋には殺し屋ってわけさ」
「松平様、なんスかコレ? よく見えない」

眼鏡をしていないせいでさっちゃんは渡されたものが拳銃だと認識できていないようだった。
銃口を自分に向けて睨むように観察しているのに、隣の近藤もひやひやものだ。

「オイ、危ない危ない!」
「あっ、仁丹入れ? 眠気も防げるし口臭も防げるしいいですよね」
「いや息がなおるどころか止まっちゃうから!」
「変わってますね〜。ココ押したら仁丹が出るんですか?」
「ぎゃああああ!!」

さっちゃんは近藤の言葉など聞かず引き金を引いた。
暴発音と銃弾が天井を貫いて行くことに、近藤は生きた心地がしない。
やっぱり今日死ぬかもしれない。

「止めろォォォ! 仁丹よりいいものあげるから」
「止めてェェ! さわらないで、私には心に決めた人がいるんだから!!」
「近藤耐えろ。もうすぐ城だ」
「何しに来たのこの人ォォ!!」

いない方がいいとさえ思う。
むしろいるからこそ状況が悪化している気さえする。
これが元お庭番衆のエリートだというのか? こんな目の悪いおバカ忍者いるわけないだろうと。
さっちゃんから拳銃を奪って一安心しようとした近藤だが、前方に何かが横断しようとしていた。

「あっ、あぶねェェェ!!」

スピードが出ているこの車がどう事故らないで済むのか一瞬考えるも、車は減速するどころか容赦なく横断する白い物体に体当たりした。
大きな躯体が宙を舞う姿を車は何事もなかったように走り去った。
立派なひき逃げである。

「とっつァァァァん! 今なんかひいたよ!! 今なんか飛んでったよ!!」
「ああ、アレも殺し屋だから」
「ウソつくんじゃねェ! 明らかに後づけだろ!!」
「人は皆何かの犠牲の上に生きる殺し屋よ」
「オメーは黙ってろ!!」

ホント何しに来たのこの人!
やっぱりこの状況でまともなのが自分しかいないことに絶望しか感じない。
ツッコミをするのも面倒くさい近藤。
早く城についてくれないかなどと考えていると、今度は隣の車線から追い上げてきたトラックの後ろに僧侶姿の男を見る。
なんだか見知ったような男だと脳裏をかすめる。

「俺のペットを傷つけおって無事では済まさんぞ」

さっきの白い物体は男のペットらしい。
どんなペットを飼ってるんだとかそれは置いておいて、男は袖から出した球体を近藤らの車に投げ入れて去って行った。
ああ、これよく見るヤツだわ、となぜか一瞬冷静になる。人間ちょっとは冷静になれたりするものだ。

「……うわァァァァ爆弾だァァァ!! 早く外へ投げてェェ!」

カウントダウンの数字がもうない。
慌てて近藤が叫ぶが、さっちゃんは動揺もせずに爆弾を持ち、膝に乗っけた。

「まァー大きな仁丹。これだけ大きければ口臭に悩む沢山の人を救えるわ」
「何ィィこの人仁丹の国から来た仁丹姫ェェ!? 爆弾だって! 早く投げろって」
「いやメガネが……メガネメガネ」
「いいからその前に投げてェェェ!!」

その前に自分が投げればいいのだろうが、近藤の頭にはその考えはないのだ。
パニックなのだ、彼は。

「いくわよ、みんな伏せてェェ!!」

ようやく眼鏡を装着したさっちゃんがそう言いながら爆弾を振りかぶったときだった。
さっちゃんの視界に見知った銀髪天パ男がスクーターに乗ってやってきたのである。
男の後ろに女もいるがさっちゃんの目には入っていない。

「ん、アレ? お前」
「あ、さっちゃん」

メガネをかけて視界良好になったのが裏目に出た。
愛しの銀時に会って、さっちゃんは思わず動きが止まってしまう。
銀時の後ろにいた刹希は、2話振りに会うのに半年ぐらい会ってない久しぶり感がありますねーなんて話しかけてみるがさっちゃんはフリーズしている。
スクーターが車を追い越したところで、さっちゃんの手から爆弾が落ち、爆発した。
派手に爆発し、車から煙が上がる様子を、銀時と刹希は振り返って見遣る。

「……え、何? 俺のハナクソか? 俺のハナクソが!?」
「いや、どんなハナクソなの? 絶対違うよ」

でも巻き込まれるのもいやだから行こう、と刹希は銀時に指示するのだった。


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