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新八と神楽が道信を見張っていた。
江戸から逃げようとした道信らを手伝ったところまでは良かったのだが、新八と神楽の目の届かないところで道信は殺されてしまったらしい。
雨の降る中、総悟が報告にやってきた。
なんだか室内もじめじめと重た苦しい空気が漂っている。

「あ〜嫌な雨だ。何もこんな日にそんな湿っぽい話持ち込んでこなくてもいいじゃねーか……」
「そいつァすまねェ。一応知らせとかねーとと思いましてね」

道信が江戸を発っていると思っていた分、総悟の知らせは嫌が応にも場の空気を沈ませた。
刹希も道信の死に少なからず思うところはある。
それは新八と神楽なら、一層だろう。

「ゴメン銀ちゃん」
「僕らが最後まで見とどけていれば……」
「オメーらのせいじゃねーよ。野郎も人斬りだ。自分でもロクな死に方できねーのくらい覚悟してたさ」
「ガキらはウチらの手で引きとり先探しまさァ。情けねェ話ですが、俺たちにはそれぐらいしかできねーんでね」

総悟はそういうとソファから立ち上がった。
もう帰るのかと、刹希も廊下に向かおうとした。

「旦那ァ、妙なモンに巻き込んじまってすいませんでした。この話はこれっきりにしやしょーや。これ以上関わってもロクなことなさそーですし」

刹希が廊下に続く障子を開けるよりも早く、扉は開いた。
そして廊下から入ってきた子供たちに、刹希は驚き、固まった。
道信のところにいた子供たちだった。

「! テメーら、ココには来るなって言ったろィ?」

刹希は入ってくる子供たちから離れ、銀時を見遣る。
ずっと窓から外を見ていた銀時が、子供たちに視線を向けた。

「……に、兄ちゃん。兄ちゃんに頼めば何でもしてくれるんだよね、何でもしてくれる万事屋なんだよね?」
「お願い! 先生の敵討ってよォ!」

泣き出す子供たちを見て、刹希は息がつまりそうだった。
昔もこんなことがあった。
あの時は刹希が敵の対象だった。
一瞬、脳裏で甦る子供の姿には、今でも受け入れられない物がある。
刹希は一人静かに深呼吸をして、子供たちから銀時に顔を向けた。

「コレ……僕の宝物なんだ」

幼子が銀時の前に子供向けのお菓子のシールを差し出した。
他の子供達も、テーブルの上に風呂敷から玩具を広げ出してくる。

「お金はないけど……みんなの宝物あげるから、だからお願い。お兄ちゃん」
「……いい加減にしろ、お前らもう帰りな」

総悟が諌めるように言うが、子供たちは泣きながらその場を動かなかった。

「……僕、知ってるよ。先生……僕たちの知らないところで悪いことやってたんだろ? だから死んじゃったんだよね。でもね、僕たちにとっては大好きな父ちゃん……立派な父ちゃんだったんだよ……」

子供たちの泣く声が室内に広がる。
こんなことをすれば、もう引き下がらないわけがない。
銀時がそのままにしておくわけがないのを、刹希は十二分に分かっていた。
すでに、総悟が道信の死を告げた時から、引き下がるとは思えなかったけれど、これで理由は十分できてしまった。

「オイガキ!」
「!」
「コレ、今はやりのドッキリマンシールじゃねーか?」
「そーだよ、レアモノだよ。何で兄ちゃん知ってるの?」
「何でってオメー、俺も集めてんだ……ドッキリマンシール。コイツのためなら何でもやるぜ。後で返せっつってもおせーからな」

銀時は立ち上がり、ドッキリマンシールを拾い上げ、懐にしまった。
早々に出て行こうとする銀時に、場はざわついた。

「ちょっ……旦那!」
「銀ちゃん本気アルか」
「酔狂な野郎だとは思っていたが、ここまでくるとバカだな」

いつの間に入ってきたのか、土方が扉の脇で銀時に言い放つ。

「小物が一人はむかったところで潰せる連中じゃねーと言ったはずだ……死ぬぜ」
「オイオイ何だ、どいつもこいつも人ん家にズカズカ入りやがって……テメーらにゃ迷惑かけねーよ、どけ」
「別にテメーが死のうが構わんが、ただ、げせねー。わざわざ死にに行くのか?」
「行かなくても俺ァ死ぬんだよ。俺にはなァ、心臓より大事な器官があるんだよ。そいつァ見えねーが確かに俺のどタマから股間をまっすぐブチ抜いて俺の中に存在する。そいつがあるから俺ァまっすぐ立っていられる、フラフラしてもまっすぐ歩いていける」

銀時は昔から、出会った頃からそうだった。
それが彼の生き方で、性分で、銀時たりうる部分なのだろう。

「ここで立ち止まったらそいつが折れちまうのさ。魂が、折れちまうんだよ」

刹希とて、バカだと思うけれど、そんなバカにいつだって付き合わされて、付き合おうとしてしまう。
自分も大概バカなのだ。

「心臓が止まるなんてことより、俺にしたらそっちの方が一大事でね。こいつァ、老いぼれて腰が曲がってもまっすぐじゃなきゃいけねー」
「……己の美学のために死ぬってか? ……とんだロマンティズムだ」
「なーに言ってんスか? 男はみんなロマンティストでしょ」
「いやいや、女だってそーヨ、新八」

ガチャガチャと玩具を漁り、好きな玩具を持って、新八と神楽が銀時の後を追う。
刹希はそんな二人に苦笑した。
あの二人も大概バカになったらしい。

「それじゃバランス悪すぎるでしょ? 男も女もバカになったらどーなるんだよ」
「それを今から試しに行くアルヨ」
「オッ……オイ、てめーら……っ!?」

家から出ていく新八と神楽に声をかける土方の脇では、総悟がすでに玩具に歩み寄っていた。

「……どいつもこいつも……何だってんだ?」
「全くバカな連中ですね。こんな物のために命かけるなんてバカそのものだ……」
「全くだ。俺には理解できねェ。ん? ……ってお前何してんだァ!? どこ行くつもりだァァ!!」

ハナメガネをつけた総悟が三人に続いて出ていく姿に、土方は声を張り上げた。
総悟までそんな事をするとは思わなかったらしい。

「すまねェ……土方さん。俺もまた、バカなもんでさァ」

そう言って総悟は万事屋を出ていった。
呆れたようにこちらを見てきた土方は、玩具をあさる刹希に更に呆れる。

「綾野、オメーは止めるんじゃねェのかよ」
「土方さん、知ってますか?」

刹希はひょっとこの面を付けて廊下に出る。

「銀時と一緒にいるとバカがうつるんですよ」

刹希はそういって笑った。
最後の砦も使い物にならないようで、土方は携帯を取り出して屯所に連絡を入れるしかなかった。


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