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あじさいの開店と同時にやってきた土方と総悟が、刹希に話があると言いだした。
この二人が揃って開店間際にやってくるなど、滅多にない。
客もまだ来ておらず、刹希は二人を奥のテーブルに案内した。

「土方さんにこの前のことバレちまいやした」

コーヒーを二杯、二人の前に置いた時、総悟が切り出した。
刹希はそのまま二人の真向かいに腰かけて、「そう」と相槌を打つ。
入ってきたときから、土方の目は鋭かった。
いつも以上に不機嫌さも備えており、良い話ではないのだろうと察しがついた。

「わざわざここにきて私に何の用ですか?」
「単刀直入に言う……この前のことは忘れろ、そしてこれ以上アレにちょっかい出すな」

こんな事だろうと思ったのだ。
刹希は盛大にため息をついて土方を見遣った。

「それを私に言われても困ります。彼の依頼を引き受けたのは銀時ですよ。言う相手が間違ってます」
「お前も万事屋だろうが。大体、あの野郎の動きとめられるのもお前だろ」
「旦那は刹希さんには甘いですからね」

二人の言っていることもあながち間違いではない。
武力行使して良いのなら、銀時の行いは大抵止められる。
しかし、依頼に関しては別だ。
あれは簡単に止まる男ではない。
それに、彼らは根本的に勘違いをしている。

「勘違いしているようだから訂正しておきますけど、私は万事屋じゃないですよ」
「は? 違うのか?」
「てっきり万事屋兼業だとばかり思ってやしたけど」

確かに、傍から見れば変わらないだろう。
きっと新八も神楽も、彼らとあまり大差ない考えでいるに違いない。
そうだとしても、刹希と銀時の中には、その境界が暗黙のように出来あがっている。

「……私はあいつがまともに仕事しないから手伝いと尻叩きしてるだけです。最終的に決めるのは銀時ですから」

どちらから言いだしたことでもない。いつの間にかそうするようにしていた。
銀時は言って聞かないから、彼が無茶をしないように自分がその無茶を半分くらいを担おうと思っただけだ。
そうしないと、あの男はいつ死ぬか分かったものじゃない。

「意外ですねィ。いつも刹希さんが全部決めてるもんだと思ってた」
「別にそうしても良いけど、あいつ聞かない時は聞かないもの。大体、私に主導権あったら新八を従業員にしないし、神楽の食生活の面倒見てないですよ」

確かにしっかり者の彼女が、いかにも手に余りそうなチャイナ娘を従業員にしていることの方が不思議ではあった。
日々、家計が火の車だと愚痴っていると言うのに、万事屋の従業員が二人もいることに土方はクビにでもすればいいのにと、思っていたくらいだ。
だが、あの何を考えているか分からない男が従業員にすると決めたら、何となく納得もできる。

「厄介すぎる話は私でも止められません。止めたいなら銀時に直談判してください。場は作りますよ?」

厄介な話をあの男に見せるからこうなるのだ。
きっと目の前の土方は、内心どうしたものかと考えを巡らせているのかもしれない。

「明日だ。綾野、オメーも同席してもらうぞ」
「わかりました」

重い息を吐き出すように、土方は刹希に場を作る様に頼んできた。
もちろん、それを断わるはずもなく、刹希も素直に首を縦に振った。
といっても、土方が銀時を言い包めて大人しくさせておくことなど、出来るはずもないのだが。


翌日、四人はファミレスにて顔を合わせた。
銀時は昨晩、刹希から総悟君から報告したいことがあるらしいという、曖昧な言葉を聞いてこのファミレスに来ていた。
来てみれば、総悟の隣には土方がいるではないか。
なんとなく、いや〜な予感がしたのは言うまでもない。

「まぁまぁ、遠慮せずに食べなさいよ」

煙草に火をつけて一服する土方は、銀時と刹希の前に運ばれてきた料理を差して言う。
刹希は土方の大好物である、丼ぶりにマヨネーズがこれでもかとかかっている土方スペシャルを一瞥してから、新しく料理を注文しようとメニュー表を広げた。

「……何コレ?」
「旦那すまねェ。全部バレちゃいやした」
「イヤイヤ、そうじゃなくて。何コレ? マヨネーズに恨みでもあんの?」
「カツ丼土方スペシャルだ」
「こんなスペシャル誰も必要としてねーんだよ。オイ姉ちゃんチョコレートパフェ1つ!」
「銀時は何ちゃっかりパフェ頼んでるのよ。お姉さんパフェ取り消しで白玉ぜんざい1つ!」

自分だって甘いもん食べるんじゃねェか! と、怒る銀時に刹希は笑みを深くした。
テーブルの下では、銀時の足がこれでもかと言うほど蹴られていて地味に痛い。
自分が糖尿病一歩手前の設定だったのを久しぶりに思い出した銀時であった。

「お前らは一生糖分とってろ。どうだ総悟、ウメーだろ?」
「スゲーや土方さん。カツ丼を犬のエサに昇華できるとは」
「何だコレ? おごってやったのにこの敗北感……」
「自分の好みを押し付けたらそうなりますよ……」

だが追加注文したデザートはきっちり土方のおごりである。

「……まぁいい。本筋の話をしよう」

土方は吸っていた煙草を灰皿に置いて、真面目な顔で銀時を見た。

「テメー、総悟にいろいろ吹きこまれたそうだが、アレ全部忘れてくれ」
「んだオイ、都合のいい話だな。その感じじゃテメーもあそこで何が行われてるのか知ってんじゃねーの? 大層な役人さんだよ。目の前で犯罪が起きてるってのにしらんぷりたァ」
「いずれ真選組(ウチ)が潰すさ。だが、まだ早ェ。腐った実は時が経てば自ら地に落ちるもんだ。……てゆーかテメー土方スペシャルに鼻クソ入れたろ、謝れコノヤロー」

刹希は運ばれてきた白玉ぜんざいを食べ始めた。
目の前の土方も、カツ丼土方スペシャルを食べ始めた。
銀時は物欲しそうに刹希のぜんざいを見てくるが、無視だ。

「大体、テメーら小物が数人はむかったところでどうこうなる連中じゃねェ。下手すりゃウチも潰されかねねーんだよ」
「土方さん、アンタひょっとして、もう全部つかんで……」
「……近藤さんには言うなよ。あの人に知れたらなりふり構わず無茶しかねねェ」

土方の言う通りだろう。
非人道的な行いがあると分かれば、近藤ならば煉獄関に乗り込みに行かないはずがない。
彼も彼で、とても危なっかしい男で、その男を止めるのが土方の役割なのだろう。
そう考えると、どこか親近感すら覚える。

「天導衆って奴ら知ってるか? 将軍を傀儡にし、この国をテメー勝手に作り変えてる。この国の実権を事実上にぎってる連中だ」

刹希もよく知っている名前だった。
今の生活をしている上では、出来る限り関わり合いにはなりたくない組織の一つである。
あれだけ大規模に裏で賭け事が行われていると分かった時、ロクな後ろ盾ではないだろうと思っていたが、これは想像以上だ。

「あの趣味の悪い闘技場は……あの天導衆の遊び場なんだよ」

政府の中でも、トップと違いない奴らが裏についていては、真選組が易々と動くことは出来ないはずだ。
頭の痛くなる話である。

「だからテメーら動くなってか」
「そうだ」
「……そりゃお前、こっちだって好きこのんでこんな仕事してる訳じゃねェし? めんどくせェことに関わらなくていいなら有難いぜ」

ペラペラと出てくる台詞に刹希は内心溜息をつく。
きっとあんなことを言っているが、彼は内心なんだかんだ理由を付けて関わる気満々なのだ。
挙句の果てには刹希に無用の意見を仰ぐのだから、いつも参ってしまう。
今も銀時が刹希を見遣って「なぁ?」と声をかけてくる。
銀時だって、刹希の返答がどういうものか分かっているのに、だ。

「……忠告はしたでしょ」
「ハイ……」

一瞬向ける刹希の冷やかな視線に、銀時は小さい声で頷くだけだった。
二人の間に流れる微妙な空気に、土方と総悟は首をかしげたくなるが、刹希たちは刹希たちなりに話し合っているのだろう。
小さくなる銀時を見て、やはり実権は刹希が握っているようにしか見えないのだが、本人は否定している。
なんとも変な間柄だと、思ってならなかった。

「この話は終わりだ、手間取らせて悪かったな」
「進展あったら報告するんで」
「しねェよ!! 勝手すんじゃねェ総悟!」

土方と総悟はいつものように言い合いをしながら帰って行った。
刹希はぜんざいを食べ終えて、銀時と共に店を出る。
きっと、新八や神楽を使って道信について周囲を調べたり何なりするつもりなのだろう。
けろりとした表情をしている銀時を見て、刹希はそんな事を考えていた。
そして、この話から数日後に、道信が死んだことが総悟から告げられた。


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