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「いやー奇遇ですねィ」
「いや、ホント奇遇だよね、うん」
「ち、か、い!」

どんどん近付いてくる銀時の顔を、刹希は押し返した。
押し返されるも、銀時は刹希と総悟を何度か見て、目を細める。

「え、何?何でお二人さんはこんなところで一緒なわけ?え、まさかデー」
「デートと言っても差し支えないですぜ旦那。俺から誘ったんで」
「オイオイ、総一郎君。子供に刹希は早ェから、君はそこら辺の女子といちゃいちゃしてなさい。300円上げるから!!」
「銀さん必死すぎますよ」

なぜ勝手にデートという事になっているのだろうか。
確かに総悟から誘われたものの、デートだなどとは言われていない。
あっちにその気もないのだから、とんだ早とちりだ。

「デートじゃないでしょ。総悟君も嘘つかないの」
「はははー、旦那からかうの面白くてつい」

そういう刹希を見て、銀時は安堵する。
彼女に全くその気がないなら大丈夫だろう。
でも、総悟からすればデートのつもりだろうに、当人はその自覚がないのだ。
何て可哀相な少年だろうと、銀時は顔を残念がらせながら少年の肩を叩く。

「残念だったね、総一郎君」
「総悟でさァ、旦那。あと、旦那が考えてるようなことはないんで」
「何の話?」

何がないのやらと、刹希は飛んだ話の着地点に首を傾げた。
けれど、二人はなんでもないないと首を振ってくる。
なんだか釈然としない。

「しかし、旦那方も格闘技がお好きだったとは」

いや、彼らはただ単にお通を見に来ただけだ。
総悟君、新八の格好で気が付いても良いのだぞと、刹希は心の中でそっと語りかけた。

「俺ァとくに女子格闘技が好きでしてねィ。女どもが醜い表情で掴み合ってるトコなんて爆笑もんでさァ」
「なんちゅーサディスティックな楽しみ方してんの!?」
「一生懸命やってる人を笑うなんて最低アル。勝負の邪魔するよーな奴は格闘技を見る必要ないネ」
「明らかに試合の邪魔してた奴が言うんじゃねーよ」
「これからはああいう事しちゃダメよ、神楽」

銀時と刹希から注意を受けた神楽は焼き餅のように頬を膨らませた。
真っ当なことを言ったつもりなのに、なぜだか大人二人に注意されたことに納得できなかったのだろう。

「それよりも、暇なら旦那方もちょいと付き合いませんか? もっと面白ェ見せ物が見れるトコがあるんですがねィ」
「面白い見せ物?」

彼の言う面白い見せ物なんて、ロクでもない気がしてならないのだが。

「まァ、付いてくらァわかりまさァ」

流されるように刹希たちは総悟について行くことになってしまった。
前を歩く子供たちを見ながら、刹希は銀時の横に並び、様子を窺った。

「付いて来てよかったの?」
「まァ、暇だしな」

銀時は存外素っ気なく返してくる。
その様子が、なんだか機嫌の悪いように見えるけれど、気のせいだろうか。
考えている内に五人はどんどん表通りから離れた裏路地の更に奥へと進んでいく。
古びたビルとビルの隙間を進み、鉄階段を上がり下がり、怪しげ雰囲気が漂い出す。

「オイオイ、どこだよココ? 悪の組織のアジトじゃねェのか?」
「アジトじゃねェよ旦那。裏世界の住人たちの社交場でさァ」
「君こんなところによく来てるの?」
「よくって程じゃァないですぜィ」

道端には貧しそうな身なりをした住人が怪しげなものからガラクタに見えるものまで売っている。
一方でゴロツキが集まり、こちらに視線を向けてくる。
表の世界よりも天人の姿も多いようで、少し居心地が悪い場所だ。
こんな場所に総悟が顔を出すようだが、彼は大丈夫なのだろうか。

「ここでは表の連中は決して目にすることができねェ面白ェ見せ物が行われてんでさァ」

壁に囲まれた閉鎖的な階段を上がると、人々の雑多な歓声が耳に嫌というほど入ってきた。
暗い空間が一気に電気の眩しさに変わり、刹希は目を細めた。

「こいつァ……地下闘技場?」

開けた空間には満員と言っていいくらいに客が入っていた。
その客の多さに比例して、野次や歓声が煩く場内に轟いていた。

「煉獄関……ここで行われているのは正真正銘の殺し合いでさァ」
「勝者、鬼道丸!!」

丁度、試合の勝敗が決した。
血を流して倒れる剣士と、鬼の面をつけ、金棒を担ぐ勝者、鬼道丸。
確かに、ここは死をも恐れない場所らしい。

「賭け試合か……」
「こんな時代だ。侍は稼ぎ口を探すのも容易じゃねェ。命知らずの浪人どもが金ほしさに斬り合いを演じるわけでさァ」

戦争が起こり、天人に敗れた侍の末路とでも言えば良いのだろうか。
侍の昔の勢いも、今では面影もない。
改めてそれを見せつけられているようだった。

「真剣での切り合いなんざそう拝めるもんじゃねェ。そこに賭けまで絡むときちゃあ、そりゃみんな飛びつきますぜ」
「趣味のいい見せ物だなオイ」
「胸クソ悪いモン店やがって寝れなくなったらどーするつもりだコノヤロー!」

神楽が総悟に掴みかかり、刹希はため息を零して神楽の襟首を掴む。
なんとか神楽を引き剥がしながら、刹希は総悟を見遣った。
彼は元から自分をここに連れてくるつもりだったのだろうか。
そうだとしたら、なかなか良い神経をしている。

「明らかに違法じゃないですか。沖田さん、アンタそれでも役人ですか?」
「役人だから手がないんでしょう? 総悟君」
「ええ。ここで動く金は莫大だ。残念ながら人間の欲ってのは権力の大きさに比例するもんでさァ」
「幕府(おかみ)も絡んでるっていうのかよ」

普通ならこのような違法賭博場を国が放置するなどありえないことだ。
それがないという事は、少なからず上がここでお世話になっているという事だ。
幕府の人間でなくとも、天人が政府に圧力をかけている可能性もある。

「ヘタに動けば真選組(ウチ)も潰されかねないんでね。これだから組織ってのは面倒でいけねェ。自由なアンタらがうらやましーや」

それは暗に、銀時や自分にこれをどうにかしろといっているのだろうかと、刹希は試合が続けられているのを見ながら考える。
こんなことなら、やはり誘いに乗るべきではなかったのかもしれない。

「……言っとくがな、俺ァてめーらのために動くなんざ御免だぜ」
「おかしーな、アンタは俺と同種だと思ってやしたぜ。こういうモンは虫唾が走るほど嫌いなタチだと……」

総悟はそういうと、場内中央に仁王立ちしている鬼道丸を指差した。

「煉獄関最強の闘士、鬼道丸……今まで何人もの挑戦者をあの金棒で潰してきた無敵の帝王でさァ。まず奴をさぐりァ、何か出てくるかもしれませんぜ」

総悟の台詞に、思わず刹希は銀時と共にツッコミを入れた。
話が勝手に進んでいくが、全く乗った覚えはないのだがと、言いたい心境だ。

「心配いりませんよ。こいつァ、俺の個人的な頼みで真選組は関わっちゃいねー。ここの所在は俺しか知らねーんでさァ。だから、どーかこの事は近藤さんや土方さんには内密に……」

彼はそういうと、人差し指を口元に添えて笑みを浮かべた。
なんというあざとい野郎だろうか。
そしてまんまと乗せられてしまった銀時たちも銀時たちだった。
やはり人間、金には勝てない。


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bkm
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