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(※ヒロインほぼ未登場回)


「全国的にさわやかな秋晴れになるもようでございますが、女心と秋の空は移ろいやすいものでございますから、もし降ってきても私のせいにしないでくださいませ」

テレビ画面に映る女子アナウンサーが淑やかな笑顔でそういう。
近藤はそれを歯磨きをしながら見ていた。

「それでは結野アナのブラック星座占いでございます。今日一番ツイてない方は……乙女座のアナタです。今日は何をやってもうまくいきません」
「なんだよ〜、朝からテンションさがるな〜」

乙女座の近藤は占いに少し残念そうな声を出す。
占いを信じるわけではないが、やはり朝一番に運勢が悪いと言われると、なんだか損をした気分になる。
だが、これで終わらないのが結野アナのブラック星座占いだ。

「特に乙女座で顎鬚をたくわえ今歯を磨いてる方、今日死にます」
「え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」

唐突の死刑宣告。
近藤はブラックな占いに顔面蒼白でテレビ画面を睨みつける。

「幸運を切り開くラッキーカラーは赤。何か赤いもので血にまみれた身体を隠しましょう」
「どんなラッキーカラー!? 何にも切り開けてねーよ!!」
「それでは楽しい週末を〜」
「送れるかァァァ!!」

笑顔で手を振る結野アナの画面から別のアナウンサーの画面に切り替わる。
近藤もテレビを消した。

「なんちゅー不愉快な番組だ。こんなの見てる奴いるのか? バカらしい、こんなものあたるわけがない。世の中の乙女座が全て消えてみろ、世の中オッさんだらけになるぞ……な、総悟?」
「ハイコレ、俺がガキの頃使ってた赤褌。大丈夫、洗いやしたから」

総悟はいつの間に持ってきたのか、そう言って近藤に赤い褌を渡した。
そしてスタスタと無言で部屋から出ていった。

「大丈夫って……何が大丈夫なんだよ。総悟の奴め、意外と心配性な奴だな、なァ、トシ?」
「……コレ、俺が昔使ってた赤マフラー」

土方もいつ持ってきたのか分からないけれど、赤いマフラーを渡してくる。
そしてやっぱり無言で部屋から出ていった。

「ちょっ……やめてよ……何? 俺が出張中に何かあったんじゃないだろうな」

部下の気遣わしい行動に、近藤は顔を引きつらせた。
恨めしいことがあるのは確かなのだろう、だがそれを彼らはいうわけもないのである。
ただ、近藤の身を赤色のものを渡すことで一日無事に乗り切ってちょうだいと言っているのだ。

「この腐れゴリラァァァァァ!!」
「ぐわばっ!! まっ、松平のとっつァん!!」

廊下から騒々しくやってきて飛び蹴りをかましてきた男に、近藤は倒れ込んでびっくり顔をする。
やってきたのは松平片栗粉だ。彼は真選組の上司である。
サングラスをかけてタバコを吸い、髭を生やした眼光鋭い、見事に警察というよりヤクザと言ったほうがしっくりくるおじさんだ。

「……近藤立てコノヤロー、三秒以内に立たねーと頭ブチ抜く。ハイ、1」
“ドォン!”
「2と3はァァァ!!」

自分の体のすぐ脇に放たれた銃弾に近藤は青ざめ絶叫する。

「しらねーな、そんな数字。男はなァ、1だけ覚えとけば生きていけるんだよ」
「さっき自分で3秒って言ったじゃねーか!! なんなんだよ!! いくら警察のトップだからってやってイイことと悪いことがあるぞ!!」
「何言ってやがんでェ。お前のせいでなァ……オジさんは……オジさんは首が飛ぶかもしれねーんだよ」
「はァ!? 何の話!?」

いきなり飛ぶとか飛ばないとか、近藤にはさっぱり訳が分からない。
だが、そんな近藤など気にせず松平は続ける。

「路頭に迷うてめーらを拾ってやったのがアレ……何年前だっけ? あー、てめーらみてーのを支配下に置いたのが間違いだった。やり直してェ、ゼロからやり直してェ」

松平は感慨に耽った。
あの時選択をこっちじゃなくてあっちにしてたら、部下がもっと優秀だっただろうなとか、そんな事を考える。

「言ったはずだ、無茶はするなと。前からバカな連中とは思っていたが、まさか煉獄関に手ェ出すたーよ〜」
「は? 看護婦さん? 看護婦さんは好きだが、手を出した覚えはないぞ!!」
「看護婦さんじゃねーよ! 看護婦さんならオジさんだって大好きさ!!」

とんだ聞き間違いで話が若干逸れてしまう。
銃を尚も向けられながらも、近藤は立ち上がった。

「あーもう、まだマイホームのローンも残ってるってのによォォォォ!! 娘の留学も全部パーじゃねーか! どーしてくれんだァ!!!」
「ぎゃあああ!!」

容赦なく発砲されて近藤は本当に死ぬところだった。
早速占いが当たり掛けて、もう屯所から出たくない心地だったが、松平に無理やり外に出される羽目になったのだった。
今日は俺、生きて屯所に帰れるのかなと、近藤は黄昏るように晴天の空を見ていたとか。


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