「いや〜、ぜひ刹希さんと一緒に来たかったんでさァ」
「うん、知ってたら来なかったけどね」
またまた〜、こういうの好きでしょうと、総悟が言ってくる。
いやいや、どこら辺を見たら好きだと思われるの?
刹希は総悟の横で足を組み、ため息を零した。
「大江戸女傑選手権大会ねぇ」
「女どもが女捨ててつかみ合ってるところなんて、最高じゃねェですかイ?」
「総悟君はね。私は興味ないかな」
目の前で今か今かと始まりを待つ観客の熱量が目に見えるようだ。
刹希は再度ため息を零して、なぜこうなったのか、思い返した。
あれは三日前のことだ。
バイト先に現れた総悟が、珍しく刹希の手を握ってきたのだ。
「えっと、どうしたの?」
珍しいなぁと思いながら、愛想笑いを浮かべて総悟を見た。
いつもの悪戯っぽい笑顔や仕事中の狂気じみた雰囲気ではない。
少年独特の真面目な表情と雰囲気に、少し圧倒された。
「刹希さん、今度の週末、俺と二人で遊びに行きやしょう」
「……は?」
思いがけないお誘いに、刹希は素っ頓狂な声を上げていた。
総悟の口からまさか遊びに行こうなんて言われるとは、出会ってから今までを思い出しても一度もなかったはずだ。
どういう風の吹き回しだろうと、勘ぐるのも無理はない。
けれど、彼は純粋に付き合ってほしいといって来た。もちろん、どこかへ行くという意味で。
「奢るんで」
「行きましょう」
奢ると言われるなら拒否する必要もない。
刹希はすぐさま首を縦に振った。
「刹希さん、始まりますぜ」
肩を叩いて知らせてくる総悟に苦笑しながら、刹希は特設設置されたリング中央でタイトルコールする司会者に視線を移した。
それにしても、こういうのに出る女性ってどういう境遇で出ることになってしまうのだろうか。
なんてことを漠然と考える。
「赤コーナー! 主婦業に嫌気がさし〜、結婚生活を捨て戦場に居場所を見つけた女〜鬼子母神春菜ァァ!!」
人生にはいろいろあるのだなぁと感慨深くなる前置きだった。
なんだか自分にも突き刺さりそうな内容だったし、思わず乾いた笑いがこぼれてしまう。
「青コーナー! 人気アイドルからスキャンダルを経て殴り屋に転身!『でも私! 歌うことは止めません!!』闘う歌姫! ダイナマイトお通ぅぅぅ!!」
「お通ちゃァァァん! いけェェェェェ!!」
うん、なんだか聞き知った声が聞こえた気がしたが無視しておこう。
ここは観戦に集中しよう。
いくらお通だからって、メガネ隊長がいるはずない。
幻聴かな、なんて思いこもうとして、リング上を見れば関係なさそうな子供が突然リングに上がってきている。
そしてなぜか司会者からマイクを奪っている。
「えー、夢とはいかなるものか。持っていても辛いし無くても悲しい。しかしそんな茨の道さえこの拳で切り開こうとするお前の姿……感動したぞォォ!!」
「おおーっとリング上に乱入者が! 何者だァァ!? このチャイナ娘どこの団体だァァ!?」
聞き知った声の次は見知った姿が……。
刹希は思わず頭を抱えてチャイナ娘もとい、神楽の名を漏らす。
絶対新八繋がりだ。
神楽がいるということは多分銀時もいるに違いない。
暴れ出す神楽を見て、とりあえず他人の振りをしておこうと、思ったのだが。
「何やってんだァァひっこめェェチャイナ娘ェ! 目ェつぶせ目ェつぶせ! 春菜ァァ! 何やってんだァ、何のために主婦やめたんだ、刺激が欲しかったんじゃないの!?」
「ちょ、総悟君目立つ……」
野次を飛ばす総悟。
近付いてくる銀時と新八。
観客席の端に座っていたのが仇となった。
きっと考えていることは同じだ。あちらさんも神楽の関係者だと気づかれたくなかったのだろう。
銀時と新八がコソコソ帰るところで目が合ってしまった。
「え、お前、何やってんの?」
「……格闘技観戦」
それもこれも、こんなよくわからない格闘技に総悟が誘ってくるからだ。
そうに違いない。