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外から戻ってきたさっちゃんと銀時は他三名を交えつつ、居間でのんびりしていた。
だが、さっちゃんが腹部を抑えていきなり居間から出て行ったのを見た神楽が声を荒げ、それを察した新八も声を上げる。
そしてそれに動揺した銀時がついに意思を固めたようで、珍しく袴を履いて正装して出てきた。

「腹くくったよ、俺も男だ。こんな俺でよかったらもらって下さい」

さっちゃんは手に持っていた携帯を仕舞うと銀時の手を掴み引っ張った。

「じゃあ一緒に来て」

そういい、さっちゃんは銀時を連れて万事屋を出て行ったのだ。
それに動揺を隠しきれない新八だったが、刹希は気にも留めなかった。

そしてその晩、銀時は帰ってこなかった。

日の出の時刻からしばらく経った頃、刹希は目を覚ました。
居間に行き、銀時の部屋を覗いて見るがやはりそこに銀時はいない。
妙に目が冴えてしまい、刹希は誘われるように外へ出た。

「何やってんだろ」

まだ朝も早く人通りもあまりないかぶき町。
刹希はぽつりと呟いて、尚も歩いた。
町内一周したら帰ろうと決めて歩いていると、前方から一人男が歩いてくるのが見えた。
遠くからでもそれが銀時だと分かり、刹希の足は自然と早くなる。

「よォ」
「おはよ」

ぴたりと向かい合って立ち止まる。
銀時のおでこと両頬にはなぜかシップが貼ってあった。
そして、さっちゃんの姿は見えない。
彼女の用件は終わったらしいことを、刹希はなんとなく理解した。

「フラれたの?」
「ちげーよ、銀さんが振ったんですゥ」

銀時が歩き出すので、刹希も横に並んで万事屋へ向かって歩き出した。

「あの女やっぱり嘘ついてやがったんだよ。しかも俺に仕事の片棒担がせようとしやがるし、ちったぁ素直に依頼でもしろってんだよなァ」

ぺらぺらと銀時は喋った。
まるで誤解を解くように、銀時の舌は良く回った。
それをなんだか面白いものを見るように、刹希は内心笑っていた。

「まァ、だから結婚とかも全部ウソだから刹希も出て行かなくていいからな?」
「え?いや出てくけど」

躊躇いなく告げられる言葉に、銀時は顔が青ざめる。

「なんなの!?そんなに俺と一緒なのが嫌なの!?」
「いや、この際あんなに生活に困窮する家は嫌かなと」

それは至極真っ当な意見だ。
銀時も二の句が継げない。
だが、本当に出て行って欲しくないと、未練たらしくそう思う。
だって結婚なんて真っ赤な嘘だったのだから。
出て行く必要性がなくなったのだ。

「実は、昨日空き部屋見てたら良さそうなのがあったんだよね!」
「やること早くない?刹希さん」
「こういうのは早いほうがいいんだよ」

鼻歌でもしだしそうな刹希に、銀時はもやもやと心の中でわだかまっていくばかりだ。
本当にこれといったら突き進んでいく女である。
いつだってこうだと考えていると、銀時は昔を思い出す。
ああ、前もこんなことあったなと、似た状況があったのを思い出して憂鬱になった。
何より、以前よりも状況は悪い気がする。

あっという間に万事屋に帰ってきた刹希と銀時は、いつも通りのやりとりをしていつも通りの朝を迎える。
刹希は朝食を作り、銀時はいつもの服装に着替えた。
そして、新八がバイトにやってきて銀時を見ると、本当に帰ってきたのだと嬉しそうにしていた。
もちろん、それは神楽も同様だった。

「さ、今日は仕事入ってるんでしょ?だらけないで早く行きなさいよ、三人とも」

刹希はやっと朝食を食べ終えた銀時と神楽に声をかける。
片づけを新八に任せて、刹希自身もバイトへ向かう支度を始めた。
銀時は横目でそれを見ながら落ち着きなさげに、足を組み替えたり視線を彷徨わせたり頭をかいたり。
今までの経験から言って、このまま放置して仕事に行くのは危ない気がしたのだ。
帰ってきて説得でもしようとすれば、すでに部屋の契約まで済んでいた、なんてことがあるかもしれない。ないかもしれないが。
いや、あり得るからこそ、銀時はそわそわしていた。

「銀さん!早くいかないと時間間に合いませんよ!」

新八が神楽と共に廊下に出て呼んでくる。
銀時は廊下に出て、玄関口にいる二人を見てから猫を追いやる様に家の外に出した。
なんだ?と、怪訝そうにする子供二人。

「お前ら先行け。銀さんはちょっと用があるから」
「はい?」
「新八、疎いアルヨ。用って言ったら刹希に決まって」

神楽が言い終わるよりも前に銀時は玄関を閉めた。
新八と神楽を締め出して、銀時はすぐさま踵を返す。
なんて言いだそうか、銀時は刹希の元へ向かいながら考える。
いや、言いだし方より、むしろ何を言えばいいのやら、上手く言葉はまとまっていない。

「刹希」
「行ったんじゃなかったの?」

部屋から出てきた刹希は、一瞬目を丸くして玄関と銀時を一度ずつ見る。
忘れものか、サボりか、と刹希は銀時に対してロクでもないことを考える。日頃の行いのせいだ。
刹希としても時間がないため銀時を放置して家を出ようとした。

「刹希!!」
「!?」

いきなり大声で呼ばれて、さすがに刹希も驚いた。
飛び跳ねる心臓を抑えながら、刹希は恐る恐る振り返る。
銀時はと言えば、思わず大きな声が出たことに自身もびっくりして謝罪する始末だ。
けれど、いつもと雰囲気が違う銀時に、何か話があるのかもしれないと刹希は改めて向き合った。

「なに?」
「あー……あれだ、昨日言ってた、あの」

視線をそらしながら歯切れ悪くしゃべる様子に、これはまあ本格的に真面目な話かと認識する。
何より、昨日という単語から、家を出ていくかどうかの話かとすでに予想はついている。
刹希は急かさず、銀時が言うのを待った。

「ここに、いたらいいって言ってんだよ」
「はぁ、そう」

銀時の言葉に刹希は視線を床に移し、間延びした声で返した。
てっきり馬鹿にされるか暴言でも言われるのかと思っていたら、意外な反応だ。
前はこんなに適当じゃなかったのに、時間か、時間がそうさせるのか!と若干悲しくなる銀時。
終いには、どうせ私が居たらいつまで経っても彼女出来ないでしょとまで呆れたように言われてしまう。
思い通りに行かない事がもどかしくて、それでも感情的にならないように手で顔を隠す。
いっその事言ってしまえばなんて思うけれど、そんなこと出来たらとっくに伝えてると銀時は深いため息を吐く。

「……だから、出ていく必要なんかねぇって言ってんだろーがよ。何回言わせんだよ、これからもここにいりゃいいって言ってんだよ」

それに、神楽俺だけで面倒見るのは嫌だと、銀時は他人を引き合いに出して引き留めようとした。
我ながらなんてカッコ悪いのだろうと。これはさすがに刹希の顔も見れない。
そんな銀時を刹希はしばらく惚けて見ていたが、ふふと小さく笑った。

「そう、そうだった!思い出した」
「は?」

いきなり何の話だと、刹希の反応に混乱する。

「そういえば、あの時も同じようなこと言ってたなぁって」
「え、それいつの話?てか、何?」

本当に分かってなさそうな銀時の顔を見て、刹希はまた笑う。
自分で言ったのに忘れている。
あれは戦争が終わって銀時と再会した時に言われたのだ。

「あの時も、ここにいたら良いとかなんとか言ってたでしょ。変わってないなあ銀時」
「っ」

恥ずかしさと刹希の昔を懐かしむような笑みにどきりとした。
そして、やっぱり好きなんだと改めて実感する。
どこにもいかないように縛っておきたいし、年上ぶりたいが、きっと彼女にはそんなこと一生できないのだろう。

「わかったわかった。それじゃ、これからもお世話になろうかな」

と、しょうがなさそうに笑っていう刹希を抱きしめたくなるが、きっと鉄拳が飛んでくるのは目に見えている。
思いを伝えて、恋人とか結婚とかそんな妄想をしてしまう時もあるが、こういう時間が好きなのも否定はできない。
まあ、まだ先でいいか、と考える銀時なのであった。




2016.12.17


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