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「洗濯も私がやりますから」

気を取り直したように、さっちゃんが洗面所へ勝手に行ってしまう。
それを横目に四人は居間でテーブルを囲んで話し合いを始めた。

「さっちゃんさん、本当にこのまま居座るんですかね?」
「さっちゃんの寝る場所どこにするアルか?もう空き部屋ないアル」
「オイ、そう言う問題じゃねェだろ」
「私の部屋でいいでしょ」

刹希の言葉に新八と銀時は固まった。
一体それはどういった意味の言葉なんだろうか。
二人で部屋を使うという事だろうか、狭いんじゃないかなあと思ったのも束の間だ。

「私出ていくし」
「……え、エエエエエエエエ!?刹希さん、出て行くんですか!?」
「待て刹希!よく考えろ!」

何をだと刹希は呆れる。
こんなにもあっさり出て行くと言うとは思わなかった。
新八はこの予想外の展開に焦った。
別に刹希がこの家からいなくなろうと新八には関係ないだろうに、それでも焦ったのだ。

「いいじゃない。さっちゃんと結婚するなら私も邪魔でしょう?良い機会ね」
「だから結婚しないつってんだろーがよ」
「むしろ、いい加減20代も後半なんだから結婚しなさいよ」

傍から見ると痴話喧嘩だ。
銀時がなぜこの流れでも告白なりなんなりしないのか、新八は不思議でたまらない。
彼は、茶化してよく好きだの結婚だのいうのに、決定的な場面でそれを真面目に言わないのだ。
それが、以前から不思議でならなかった。
この二人の妙な関係に、疑問がわかないはずがない。

「私、ちょっと様子見てくる」

ちゃんと洗濯できてるかも気になるようで、刹希は席を立ち居間から出て行った。
その後ろ姿が見えなくなると、銀時があからさまに項垂れる。
本当にダメダメな男である。

「銀ちゃん見込みゼロアルな」
「ふっざけんな、ガキに何が分かんだよ」
「そもそも、刹希さんがずっとここに居候してるのが不思議ですけどね」

銀時の生活を見ていると、とっくに家から出て行ってもいい。
それなのにいまだに彼女がこの家に居ることはなぜなのか。
銀時は、さぁなと適当に流してしまう。

「たく、あの女まじでなんなんだよ」

突如現れた女さっちゃんに、銀時は本当に頭を抱えた。



  *



一方で、刹希はさっちゃんのいる洗面所に向かった。
足音を立てず、開きっぱなしの入り口から中を覗き込むと、さっちゃんは洗濯機の前に立っていた。
刹希は懐からクナイを出すと、彼女に向けて放った。

「なっ!」

寸での所で、さっちゃんは気配に気が付いたのか、クナイを避けた。
壁に突き刺さったクナイをちらりと見てから笑顔で近付いてくる刹希を見遣る。

「あなた……いきなりどういうつもり?」
「見事な避け方ですね。ふふ、さっちゃんは本当に忍者なんですね?」
「ち、違うわよ」

図星をつかれてさっちゃんは視線を逸らした。
けれど、さっちゃんが忍者だろうが忍者じゃなかろうが、そこは大した問題ではない。
刹希にとってはどうでもいいことだ。

「嘘つかなくてもいいですよ。別に知ってどうこうと言う訳でもないですし」
「あなた何者?只者じゃないわね」

刹希も忍者なのだろうか、だが、こんな忍者今まで見たこともない。
さっちゃんは緊張を高めた。
警戒するも、刹希に反撃できるような隙はなかった。

「……忍者ではありませんね。でも、少しは近い存在かも知れない」
「それってどういう」
「それよりも」

さっちゃんの話を遮り、刹希は彼女を見据える。
声を潜める。

「あなたが銀時の本当の嫁にならないことは至極残念でなりません。いっそもらってくれた方がよかった」
「あなた、彼の何なの?」

先ほどと同じ質問だ。
だが、その意味合いは先ほどとは違う。
刹希もそれは分かっているため、一瞬間を置いて口を開いた。

「何てことのない、ただの恩人です」

ただ、腐れ縁のように長い付き合いになっているだけだ。
彼女はそう言った。
伏せられる瞳に、さっちゃんは見入った。
だが、それは一瞬で、次の瞬間には刹希はまた笑顔でこちらを見てくる。

「銀時のこと、あんまり振り回さないであげてくださいね。用事が終わったら返してあげてください」

何かを見透かしているような台詞に、さっちゃんは息を呑む。
目の前の女はどこまで理解しているのだろうか、自分と大差ない年に見える刹希に、何か得体のしれないものを感じた。

刹希はもう話すこともないらしく、さっちゃんから離れ、廊下に視線を向ける。

「出掛けるの?」
「あー、息抜きにな」

刹希に話しかけられて立ち止まる銀時は、どこかげんなりした様子だ。
さっちゃんはその様子を見ていたが、はっと自分の目的を思い出す。
すぐに笑顔で銀時の元にかけよると、自分もついて行くと調子よく行った。
来なくていいと銀時が言い、ついて行くとさっちゃんが言う。
それを繰り返しながら、二人は外へ行ってしまった。

玄関扉が閉まったところで、後ろから新八と神楽が刹希の横に並んだ。

「刹希さん、本当にいいんですか?銀さん、本当に結婚しちゃいますよ?」
「んー?いっそ身を固めて責任感でも感じてくれたら私はありがたいけどねェ」
「そうじゃなくて!もし結婚したら刹希さんはここにいれないってことじゃないですか!」
「いいんじゃない?一人の方が楽だし」

ぐーたら男と大食漢な娘を養わなくていいなら、願ったりかなったりだ。

「嫌アル!私、刹希と一緒に暮らせないの寂しいネ!!」
「……まぁ、大丈夫よ。どうせあいつ一人で帰ってくるから」
「え、どうしてそう思うんですか?」
「さっちゃんは、空から落ちてきたくノ一だから」

新八と神楽が天井の穴に気が付くのはもう少し先だ。


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