A
(途中アニメ展開有り)

「おはようございまーす、刹希さん」
「おはよう、新八」

勝手知ったる我が家のように、万事屋にやってきた新八と朝の挨拶を交わした。
銀さんと神楽ちゃん起こしてきますねという新八に、刹希はいつもの癖で宜しくと言った。
言って数秒経ってから、「あ゛」と銀時の部屋の現状を思い出したのだが、時すでに遅しだ。

「新八ー……」

居間に入ってみれば、新八が銀時の部屋の襖を静かに閉めているところに出くわしてしまった。
どうやら遅かったらしい。
けれど、新八は刹希に慌てたように何でもないですとか近付いちゃいけませんとか、かなり狼狽えていた。
彼は刹希がすでに部屋の様子を覗いていることを念頭に置けていないのである。

「何やってるか新八」
「来るなァァァ!!」

起きてきた神楽の問いかけに、新八はやはり異常な反応を示す。
まあ、神楽の年齢ならあまり見せて言い場面とは言い難いだろう。

「銀ちゃんに何かあったアルか?ストパーか!ストパーになってたアルか!!」
「止めろォォ!!あっちにはうす汚れた世界しかひろがってねーぞ!」
「新八マジチェリーボーイだね」
「そこ関係ないでしょーがァァ!!」

瞬間、神楽が襖を勢いよく開けてしまった。
刹希も子供達と一緒に室内を覗くと、騒がしさでようやく目を覚ました銀時が困惑したように目の前の女を見ていた。
刹希は朝ごはんの支度のために、彼らを放置して台所に再度戻る。
銀時の間抜けな叫び声が響いた。



  *



朝ごはんの用意が整い、全員で、なぜか女も一緒になって朝食をとることになった。
万事屋の今朝の朝食は、ご飯とみそ汁と漬物だ。
なぜか女は納豆を混ぜていた。どこから見つけてきたのだろう。

「……で、誰この人?」
「アンタが連れこんだんでしょーが」
「……昨日は……あ、ダメだ。飲みに行ったトコまでしか思い出せねェ」

そりゃそうだ、銀時が酒飲んで普通の状態で帰ってくるなんてそうそうない。
弱いくせにベロベロに酔っぱらっていつも帰って来るのだから。
酔っぱらって絡んでくる銀時の面倒くささったらない。
刹希はそれを思い出すと溜息しか出てこなかった。

「忍者のコスプレまでしてとぼけないでくださいよ。くの一か?くの一プレーか?」
「イイ加減にしいろよ!刹希一筋の俺がんな事するワケねーだろ!どっちかっていうとナースの方が良いし刹希にやってもらいたい!」
「死ねば良いと思う」

否定するどころか欲望が駄々漏れだ。
いつもならクナイでも投げているところだが、今日は暴言だけで抑えた。
刹希はちらりと女に視線をやるが、すぐにそらして銀時を見遣る。

「新八、男は若いうちに遊んでた方がいいのヨ。じゃないとイイ年こいてから若い女に騙されたり変な遊びにハマったりするってマミーが言ってたよ」
「お前のマミーも苦労したんだな」
「むしろあんたのパピーが大丈夫か心配よ」

いや、別に例えの男が神楽の父親とは必ずしも言えない。
夜兎って戦闘ばっかりであまり恋愛もしなさそうなイメージが先行しているだけなのだが。

「……あの……俺、何も覚えてないんスけど、何か変な事しましたか?」
「いえ何も」
「そーかそーか、よかった。俺ァてっきり酒の勢いで何か間違いを起こしたのかと」
「夫婦の間に間違いなんてないわ。どんなマニアックな要望にも私は応えるわ」

バキ。
(お、折りやがったァァ!!刹希さんまじかァ)

無意識下で割り箸を折っていた刹希は何食わぬ顔でゴミ箱に割り箸を捨て、新しい箸を持ってきた。
そんな刹希に、新八は内心驚いているのだが、この異様な空間ではあまり安易なツッコミもできない。
変な事を言えば刹希から制裁が下されかねない。

「さっ、アナタ。納豆がこんなにネバネバに練れましたよ、はいアーン」
「いだだだだ、そこ口じゃないから、そこ口じゃないよ。目には口程にものを言うけど口じゃないよ。え?何?夫婦って」
「責任とってくれるんでしょ、あんなことしたんだから」
「あんなことって何だよ!何もしてねーよ俺は!」
「何言ってるの、この納豆のように絡み合った仲じゃない」
「オイ、刹希に誤解を招くような言い方しないでくんない?」
「誤解も何も、銀時が誰と寝てようが何にも感情はわいてこないから」
「またまた〜、刹希ちゃんが嫉妬してるの銀さん御見通……いだだだだ!割り箸目に刺さるゥゥゥ!!」

また割り箸を折ると、今度は容赦なく銀時に投げつけた。
ムカッとしたから仕方ない。
その減らず口はどうやったら治るのだろうか。

「銀さん、やっちゃったもんは仕方ないよ、認知しよう」
「結婚はホレるよりなれアルヨ」
「大人は全ての事に責任を持たなくてはいけない生き物なのよ」
「オメーラまで何言ってんの!みんなの銀サンが納豆女にとられちゃうよ!」

別にとられても損害はないと、三人は顔を見合わせる。
ろくに仕事もしないし、起きる時間もニート並みに遅いし。
やはりいなくなっても損はない。

「冗談じゃねーよ、俺が何も覚えてねーのをイイことに騙そうとしてんだろ?な?大体僕らお互いの名前もしらないのにさ、結婚だなんて」

てか結婚なら刹希としたいわコノヤローと内心思う銀時。
ここで言えないのが銀時なのである。ヘタレなのである。

「とぼけた顔して……身体は知ってるくせにさァ」
「イヤなこと言うんじゃねーよ、それからソレ銀サンじゃねーぞ!」

銀時だと思って話しかけたのは定春だ。
見事に頭をすっぽり噛みつかれている。

「つか目悪いなら眼鏡かけなよ!落ちてましたよコレ!!」

ようやく眼鏡を装着した女は改まったように床に正座をして、手をつくとお辞儀をしてきた。

「というわけで、さっちゃんと申します。どうぞ末永く幸せにしてくださいね、旦那様」
「ああ、どうも。こちらこそよろしく」
「夕飯は肉より魚でお願いネ」
「神楽肉より魚派だったんだ、初知り」
「受け入れるの早!つーか銀さんこっちだから!」

相変わらず新八を銀時だと思って挨拶をしているらしい。
眼鏡してるのに間違えるって、度があってないんじゃないだろうか。
刹希は無言で女、さっちゃんの言動を見守ることにした。


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