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「さてと……」

刹希はポチが消えた事を確認して地面に降りた。
とりあえず、銀時たちは殺しても死なないだろうから放置しておくことにした。

「まずはてる彦くんね」

彼さえ見つかれば任務は完了だ。
最後になんだかんだで銀時たちの生死を確認できれば大丈夫だろう。

ポチと鉢合わせないように、刹希はてる彦を捜した。
正直、てる彦が走ってあのポチから逃げ切れるとは思えない。
だとすると、てる彦も刹希と同じように木の上でやり過ごしている可能性はある。

「あ、刹希さん!」
「あ、てる彦くん」

あっという間に見つけてしまった。
やはり木の上に居たらしい。
刹希は木の上にいるてる彦を見上げた。

「そんなところにいたんだ」
「あのデカい化け物が怖くて、ここにずっと避難してたんだ……」
「そう。一応この辺にはいないから、降りてきてくれる?」

刹希の言葉に従って、てる彦は木から降りてきた。
てる彦は降りてくると、刹希達のことを見ていたらしく、他のお姉さんたちは大丈夫なのかと聞いてきた。

「どこにいるか分かるの?」
「さっき、化け物がお姉さんたちを埋めてるのを見てたよ」
「……じゃあ、行くか」

面倒くさいけど、と思いながら、刹希は銀時たちの元へ向かった。
てる彦の案内で、やってきたのは屋敷の前。
そこに銀時と小太郎、少し離れた場所にハタ皇子とじいが頭だけ出して土に埋まっていた。

「不憫」
「そ、そんなこと言ってないで早く助けようよ!」
「いや、むしろ食われた方が家計が一人分浮くわね」
「こんな時まで家計の心配!?刹希さんどんだけこの人たちに恨みあんの!?」

そりゃ一生分あるわよと、刹希は笑顔で返した。
だが、怒りながらも泣き出しそうなてる彦に、冗談はやめようと考え直した。
さすがに大人げない。

「とりあえず起こそうか」

意識のない奴らを掘り起こすより、意識があってお互いに状況打破に努める方が早い。
刹希は言うや否や銀時と小太郎の頭を叩いた。

「おーいバカ二人起きろー」
「刹希さん……そんな起こし方でいいの?」
「いいのいいの、バカは死んでもバカだから」

ちょっとくらい脳細胞死んでも大丈夫。
刹希はそれはもう良い笑顔で言った。
よっぽど日常の不満が溜まっているんだろうかと、てる彦は幼心で悟ったのだった。

「「ん」」
「あ」

叩き続けてようやく二人は目を覚ました。

「……よォ元気だったか?坊主」
「まったく心配かけおって、ケガはないか?」
「そのセリフそのままバットで打ち返すよ」

そう言われて銀時と小太郎は顔を見合わせて、視線を首元へ移した。
ようやくそこで自分たちの置かれている状況を漠然と理解したらしい。

「……ヅラ、お前エライことになってるぞ。体どこやった?」
「お前も生首になってるぞ、ナムアミダブツ」
「新八ィィ神楽ァァ定春ゥゥさようならァァ!」
「落ち着いてよ二人とも埋められてるだけだって!」
「一々大袈裟ねェ」

埋められただけでしょうと言いたげに、刹希は銀時達を見る。
その視線に気が付いた銀時は、やっと刹希の存在を認識したようだった。
思いっきり声を上げて声を張り上げる。

「銀さん見捨てくとかないんじゃないのォォォ!?」
「見捨ててないし、銀時たちが勝手に走ってっただけだからさ」
「追いかけない時点でそれは世に言う見捨てたってことなんだよォ、御嬢さん」
「あらやだ、いくら私が若いからってお世辞で御嬢さんはないわァ、それで助けると思ったら大間違いだわァ」
「もうやだこの子!!」
「刹希、銀時はどうでも良いから俺を助けてくれ」

お前は欲望に従順か!
よく今の流れで言えたなと銀時は思うが、家計を圧迫しない小太郎を助けないという選択肢はない。
刹希は素直に小太郎を土の中から出してやろうとした。
銀時はそれをすごく不服そうに見ていたのだった。

「みんなご免、僕のせいでこんなことになっちゃって」

土を掘り返そうとしていると、ふいにてる彦が声を潜めて言った。
三人の視線がてる彦に向けられる。

「何やってんだろ僕……こんなたくさんの人に迷惑かけて、何が男の証拠を見せてやるだよ。こんなの男のすることじゃないよね」
「てる彦君」
「……でも、やっぱり父ちゃんのことバカにされるの悔しくて、父ちゃんはあんなだけど誰よりも男らしいの僕は知ってる。誰よりも心がキレイなのも僕は知ってる」

不器用なのだ。
お互いに気持ちが行き違って、心ではわかっているのにそれを上手く伝えられないし受け止められない。

「……でも、誰もそんなの見えないし、見ようともしない。くやしい、僕くやしいよ」
「……お前」
「私はちゃんと知ってるよ、君のお父さんが男らしくて心がキレイで素敵な人だって」

刹希はてる彦を見て微笑んだ。
西郷を誰も見てないわけじゃない、ちゃんと分かってる人は周りにいっぱいいる。
てる彦は、自分の父親に自信を持っていいのだと、刹希は伝えたかった。

「それに、てる彦君はまだ子供じゃない。今から空気呼んで大人しくしてるなんて男らしくないでしょ、子どもは我が儘なくらいが良いのよ?まぁ、ずっと我が儘だと目の前のアホみたいにロクな大人にならないけど」
「オイ、それどんな二次被害ィィ!?なんでいきなり俺に攻撃が向くわけェェェ!?」
「落ち着け銀時。これも刹希なりの照れ隠しだ、自分の言ったことが恥ずかしいからお前に落ちを付けただけ」
「小太郎はそのまま首落とされたいの?」
「申し訳ありませんでした!!」

ふっふっふと凄みのある笑顔でクナイをちらつかせるのだから、小太郎も委縮してしまう。
だが、ここに来てかなり時間を要してしまったようだ。
遠くから聞こえたポチの咆哮が急速に近づいてくる。
振り返るとノソノソとゆっくりな足取りでポチ木々の間から出てきた。

「オイオイ、こっち来てんぞ!もういい!俺達はいいからお前達だけでも逃げろ!」
「え?じゃぁお言葉に甘えて」
「刹希ちゃんはもうちょっと空気呼んで!」

助けられたいのか逃げてもらいたいのかどっちなんだ。
刹希は呆れかえりつつも、クナイを構えた。
これだけでは殺傷能力も低いが、どうにかなるだろう。どうにもならなかったらてる彦を連れて逃げればいいのだから。

「来るぞ!早く逃げんか!」
「テメーまでおっ死ぬぞ!オイきーてんのか!?」
「てる彦君!危ないから早く逃げて」
「うるさーい!僕は男だ!絶対に逃げない!」
「そんな事を言ってる場合か、早く……!!」

もうポチは目前だ。
刹希は狙いを定めてクナイを放ったが、ポチは一瞬うめき声を上げるも眼光鋭くこちらを睨み付けて走ってきた。
火に油を注いでしまったか、刹希は冷静にそんなことを考える。

「逃げろォォ!!」

咄嗟に刹希はてる彦に覆いかぶさり、守ろうとした。
あんなに長く鋭い爪と牙で襲われれば、てる彦が無事でいられるかは分からないが、ないよりはましだろう。
痛みに耐えるように目を閉じてその時を待ったが、痛みは訪れない。
刹希は目を開いた。

「……俺は男だって?」
「「しってるよ、んなこたァ」」

振り返れば、銀時と小太郎が土から腕を出してポチの頭に生えている角を掴んでいた。
本当に、馬鹿力なやつらだと、刹希は思わず笑ってしまいそうになる。

「オメーもオメーの父ちゃんも男だ。誰も見てくれねーって?バカいうな、見えてる奴には見えてるよ、んなもん」
「少なくとも、ここに三人いることだけは覚えておけ」
「お姉ちゃ……」
「フン、生意気いいやがって」

その声にはっとしたのもつかの間、ポチが後ろから投げ飛ばされた。
あの巨体を持ち上げ投げ飛ばすなど、どんな強力だろうか。
さすがの刹希も、彼の戦う姿など初めて見た。
これは噂になるわけだと、表情をこわばらせながら、西郷を見遣った。

「かっ……母ちゃん!!」

気にぶつかったポチはすぐに起き上り、ターゲットを刹希達から西郷に変えた。

「……思い出したぞ。白フンの西郷……天人襲来の折、白フン一丁で敵の戦艦に乗り込み白い褌が敵の血で真っ赤に染まるまで暴れ回った伝説の男」


突進してくるポチの口に、西郷は容赦なく腕を突っ込んだ。
骨が割れるような低音が聞こえると、ポチはそのまま地面に倒れ込んだ。

「鬼神、西郷特盛。俺達の大先輩にあたる人だ……」

どうやら外にいた悪ガキ共はちゃんと西郷を呼びに行ってくれたらしい。
なんていいタイミングなのだろう。
刹希はポチに食い殺されずに済んだことにほっと肩を撫で下ろした。
だが、てる彦は西郷の登場に悪戯がばれた子供のように狼狽えた。

「か……か……か、母ちゃん……ご、ご免、僕……」

弁解と謝罪を言おうとしたてる彦を、西郷は拳骨一つ食らわせた。
けっこうな力加減だったようで、てる彦はそのまま気絶して倒れてしまった。

「バカヤロー、父ちゃんと呼べェ」

そういうと、西郷はてる彦を肩に担ぐと帰り始めてしまう。
怒涛の展開だ。
とりあえず、てる彦は西郷を母親と父親呼び大変そうだとしか考えられなかった。
自分なら絶対グレてる気がする。

「オイ」

西郷は足を止めると、振り返らずに言いだした。

「テメーらはクビだ。いつまでたっても踊りは覚えねーし、ロクに役に立たねェ。今度私らを化け物なんて言ったら承知しねーからな。それから……なんかあったらいつでも店に遊びに来な、たっぷりサービスするわよ」

振り返った西郷は父よりもママの顔をしていた。
ハートを飛ばしそうなその口調に、刹希と銀時は呆然とする。

「……恐いよ〜」
「パパかママか決めてほしいわ……」
「どうやらいらぬ世話をやいたらしいな。奴らも侍と変わらんな、立派な求道者だよ」

きっと、二人は一層親子として絆が深まるのだろう。
そうなればいいのだが。

「……そうえば、もう一人で出られるわよね。私家帰って夕食の準備するから」
「ちょ、待って待って!刹希さんんん!!」
「これは馬鹿力であって、全然出れる気がしないぞ!」
「ちょ、さっきまでのツンデレどーした!?ちょ、マジで帰んないでェェ!」

帰って来たのは深夜だった。





2016.8.17




(あとがき)
刹希に身軽な設定なんてあったか覚えてないですが、身軽じゃなきゃこの世界じゃ生き残れそうにないですよね。


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