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「ほうほう、ではその子供がここに入ったきり戻ってこんと。おぬしらはそれを捜しに来たわけじゃな」

ようやく穴から生還した銀時。
目の前に現れたハタ皇子のために仕方なく状況を説明したのは良いが、なぜこの男がここにいるのか。
刹希は疑問に思ったが、過去のタコ騒ぎの一件もあることだし、口をつぐんだままいた。
バカにかかわるとロクなことにはならない。

「最近何やら子供達がこの庭に入ってイタズラしておったからの〜。あそこの離れに木が見えるじゃろう、あの木の実を持ち帰れば立派な侍の証とか……まァ子供らしいといえば子供らしいが」

見るからに馬鹿な子供っぽいお前にあの子供達も言われたくないだろう。
刹希は明後日の方向を見ながら内心考える。
結局、無人の屋敷に人がいるというのは、この馬鹿たちのことだったのだ。
なんと傍迷惑な。

「それでは、この庭は貴様のものなのか?ちっちゃいオッさん」
「誰に向かって口きいとんじゃワレェ!このちっちゃいオッさんがどなたと心得るワレェェ!!」
「よさんかじい」
「そうですよ、ちっちゃいオッさんじゃなくて、頭悪い子供ですよ」
「それは言い過ぎじゃろ」

あれ、おぬしどこかで会った?と聞かれた刹希は、速攻で持っていたカバンを顔の前にやり「気のせいっすね」と返した。
そしてなんやかんやでハタ皇子がてる彦を捜す手伝いをしようと提案してきた。
ハタ皇子とお付きのじじいが増えても効率がいいとは思えないのだが。
その時だ、今度は庭の奥から何か動物の様な鳴き声が聞こえてきた。

「何だ?今の鳴き声」

鳴き声が聞こえたと思ったら、ガサガサと草をかき分ける音が急速に近づいてくる。

「何か来る!今度こそ来る!」
「ギャオ〜ス」

刹希達は思わず現れたそれの姿に動揺した。
でっかい、犬だ。
いや、犬って言うか……犬なのだが、定春異常にデカい顔を持つ生物だ。
だが異様に顔が可愛い。

「オ〜ウ、ポチ、ラブミー。化け物とはコレのことか?ポチは化け物なんかじゃないぞよ」
「いや化け物でしょ、サイズが……」

刹希はぼそっと言った。
定春よりでかいとか化け物以外なんといえばよいのやら。

「ここは余のペット、ポチのために用意した庭でな。空き家だった武家屋敷を購入してポチの遊び場にしておる。心配せずともポチは子供に危害を加えたりせんわ、ね〜ポチ」

本当かよ。
刹希と銀時は渋い表情のまま視線を合わせて、再度ポチを見た。
だいたいポチって名前の動物じゃねェだろと言いたい。
ポチってのはもっと小さい、小型犬みたいなのを言うんじゃないの、と刹希は思った。
犬ならなんでもポチか。

「スミマセン、僕もちょっと触らせてもらっていいですか?」
「オイ止めとけ!」
「そうだよ、小太郎。やめといた方がいいって、可愛いけど」

ポチに近づく小太郎に、銀時と刹希は止めるよう言うが、小太郎は取り合わない。

「刹希も好きだろう、こういう可愛いの。一緒に触ったらどうだ?」
「いや、よしとくわ」
「何をおびえている?確かに図体はデカいが、よ〜しよ〜し、こんなに愛らしい動物が危害を加えるわけなかろう、天使だ天使……ん?」

あれ、と刹希は目を瞬いた。
小太郎の目の前には可愛らしいポチがいたはずだったが、今、この瞬間、今までなかった立派な牙が生えた口が出てきた。
出てきた?
いやいや、にゅっとポチの上から出てきたのだ。
いや、何言ってるのだろう、刹希は混乱した。

「ギャォォオス」

最初の可愛らしいギャオースではない、だみ声だ。
獰猛だ、小型犬ではない、目の前にいるのは猛獣である。

「オイぃぃぃぃぃぃぃぃ!天使とヤクザが同棲してるじゃねーかァァ!!天使とヤクザがチークダンスを踊ってるぃぃ!!」
「なんてダミーなのかしら……」
「ポチは辺境の星で発見した珍獣での〜」
「相変わらずこのバカ皇子珍獣好きだな!!」

刹希は思わず素でツッコんでしまった。
ハタ皇子が絡んでる時点でロクな事にはならないだろうなと薄々気が付いていたと叫んだ。

「下は擬態でコレに寄せつけられたエサを上の本体が食らうという大変よくできた生物なのじゃ」
「まさに今の俺達じゃねーか!!」
「そんな珍獣地球に入れてくんなし!!」
「大丈夫だって、サラミしか食べないもんな、ポチは」

そう言った瞬間、ポチがハタ皇子の触覚を食いちぎった。
ダラダラと取れた触覚部から血が流れてきている。

「いや、コレはアレだよ、じゃれてるだけだから、いやマジで」
「んなわけあるかァァ!!人体の一部が欠落してるじゃねーか!お前なにかァ、コイツに金でも借りてんのか!?」
「大丈夫だって、コレまた生えるから」

そう言う問題じゃない。

「ぎゃああああ!!」
「うおわァァ!ヤバイ、シャレにならん!」
「てる彦くん、ポチに食われたんじゃないの?」

言ってる場合か逃げろと銀時に急かされて、刹希は木の上に軽々と飛び移った。

「刹希てめェェェ!!こんな時だけ身軽設定活かしてんじゃねェぞ!」
「銀時知ってた?私この話のヒロインなの。さすがに生首晒して土に埋まるのは体裁が悪いわ」
「それネタバレぇぇぇ!!」

ポチは刹希に目もくれず、逃げる銀時達を追いかけた。
刹希はそっと両手を合わせて、天に召される彼らに念仏を唱えたのだった。


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bkm
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