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「ねぇ、たった二人ってまさか銀時と新八君のこと?」
「まあそうだろうよ」
「ふーん、それはかなり心外かも」
「あれ?もしかして刹希ちゃん怒った?」

めっずらしー、と言ってくる銀時をひと睨みする。
ただ女だからと言って戦力外だと勝手に思われるのは癪だというだけの話だ。
刹希はざっと周囲を見回してから、着物の中に仕込んであった武器をいつでも取り出せるようにする。
その横で銀時は新八に話しかける。

「オイ、俺が引きつけといてやるからおめーは脱出ポッド探して逃げろ」
「あんたは!?」
「てめーは姉ちゃんを護ることだけ考えろや。俺は俺の護りてェもん護る」
「何をゴチャゴチャぬかしとんじゃ、死ねェェ!!」

社長は銃を取り出して銀時たちに向けるが、それよりも早く銀時が動いた。
迷いなく木刀を引き抜いて、目の前にいる天人たちを吹っ飛ばしていった。

「はイイイイ、次ィィィ!!」
「なっ……なんだコイツぅ!?」

周りにいる天人たちを次々と薙ぎ倒していくその姿に皆驚きを隠せない。

「でっ……でたらめだけど……強い!!」
「新一ぃぃぃ!!いけェェェ!!」
「新八だ、ボケェェ!!」

新八がお妙の手を引いて天人のいない通路を先に急ぐ。
刹希は二人に続いて行こうとしたが一度立ち止まり、暴れている銀時を見遣った。

「――刹希!あいつらのこと頼むわ!」
「はいはい、言われなくてもちゃんと護るよ」

刹希はすぐに新八たちが走って行った方向へ駆けて行った。




「新ちゃん、いいのあの人……いくらなんでも多過ぎよ。敵が。なんであそこまで、私たちのこと」

ちらりと後ろを走ってくる刹希を見ながら、お妙は新八に話しかけた。

「そんなのわかんないよ!でも、アイツは戻ってくる!!だってアイツの中にはある気がするんだ、父上が言っていたあの……」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

新八の声は最後まで聞けることはなく、後ろから変な叫び声が聞こえてくる。
見れば、小さく銀時の姿が見えた。そのさらに後ろには天人もたくさん追いかけてきている。

「ホントに戻ってきた!!キツかったんだ!!思ったよりキツかったんだ!!」
「チッ、根性が足りないなァ」
「刹希さん!?」

急に立ち止まった刹希は着物の袖から、クナイらしきものを二本取り出す。
両クナイの根元には鉄線のようなもので繋がっていた。
そして、二本を両側にある通気口の格子の隙間に投げ込み固定した。

「よし、これで時間は少し稼げる」

お妙の背中を押して早くその場から遠ざかる。
そのすぐ後方ではうめき声やら叫び声やらが聞こえてくる。
見れば、盛大に天人たちがこけていた。もちろん、銀時も一緒に。

「な、何やったんですか!?アンタ!!」
「いや、クナイに鉄糸をつけて、足に引っかかるようにしただけ」
「地味な攻撃だな!!」
「オイイイイ!!てめぇ刹希!!!!」

天人の下敷きになっていた銀時はなんとか這い出てきたようで、全速力で追いついてくる。

「ちょっと!!頼みますよ!刹希さんがくい止めてくれたとはいえ、アンタ実質八行しかもってないじゃないですか!!」
「バカヤロー!!小説家にとって八行はときとしてスゲー長いんだぞ!!てか、やるなら先言ってくれない!?刹希ちゃん!」
「だってそんな暇ないからさ。銀時なら大丈夫かと思って」
「そんな信頼いらないから!!」

そんな言い合いをしている内に、四人は開けた場所に出た。

「んだココ!?」
「動力室!?」
「いきどまりや。追いかけっこはしまいやでェ」

振り返れば、銃を向けてくる社長と部下が入口に立っていた。
なかなか早いご到着だ。

「哀れやの〜、昔は国を守護する剣だった侍が今では娘っ子一人護ることもでけへん鈍や。おたくらに護れるもんなんてもうないで、この国も……空もわしら天人のもんやさかい」
「国だ、空だァ?くれてやるよ、んなもん。こちとら目の前のもん護るのに手一杯だ。それでさえ護れきれずによォ、今まで幾つ取り零してきたかしれねェ」

いっぱい護れなかったものがあった。
それは刹希も同じで何度涙を流したことだろうか。

「俺にはもうなんもねーがよォ、せめて目の前で落ちるものがあるなら拾ってやりてェのさ」
「しみったれた武士道やの〜。もうお前はエエわ……去ねや」

社長は銃口を銀時たちに向けたが、それを部下が止めた。

「ちょっ、あきまへんて社長!!アレに弾あたったらどないするんですか!船もろともおっ死にますよ!!」
「ア……アカン忘れとった」
「よいしょ、よいしょ」
「って……登っちゃってるよアイツ!!おいィィ!!」

あっちが撃てないのを良い事に、銀時はパイプを伝って動力源までよじ登っていく。

「ちょっ待ちィィ!!アカンでそれ!!この船の心臓……」
「客の大事なもんは俺の大事なもんでもある、そいつを護るためなら俺ぁなんでもやるぜ!!」

振り上げた木刀をありったけの力を込めてそれに振り下ろした。

「きいやァァァァァ、ホンマにやりよったァァ!!」

どこをどうしたら動力源にヒビが入ってしまうのだろうか。
だがそのせいで、機能を停止した船は一気に地上へ急降下していく。

「何この浮遊感、気持ち悪っ!!」
「落ちてんのコレ!?落ちてんの!?」
「あぁ、なんて短い人生だったんだろう……」
「ギャアアアアアア!!」

落下した船は海に打ち付けられたのであった。



  *



辺りには警察のパトカーが数台集まっていて、社長含む部下の天人たちは警察に逮捕されていた。
新八とお妙は地平線に沈みゆく夕陽を見つめていた。

「幸い海の上だったからよかったものの、街に落ちてたらどーなってたことやら。あんな無茶苦茶な侍見たことない」
「でも結局助けられちゃったわね」

振り向けば船に突入する前に、銀時に頭突きを食らった役人のオヤジと銀時、刹希が何やら言い合っている。

「んだよォ!!江戸の風紀を乱す輩の逮捕に協力してやったんだぞ!!パトカー拝借したくらい水に流してくれてもいいだろうが!!」
「拝借ってお前、パトカーも俺もボロボロじゃねーか!!ただの強盗だボケ!!」
「銀時、今度はノーヘルで強盗してノーパンやらかしたって!? 一体いくら私に払わせれば気が済むのよ!!」
「ノーパンは違うからね!!誤解だから!」
「それ以外は本当だと」
「違う違う!このオヤジがいちゃもんつけんだよ」
「いちゃもんてなんだ!こっちは職務だよオイ!!」
「とりあえず、逮捕協力とオヤジさんの懐の深さとその二枚目な顔に免じてここはチャラってことで!」
「さり気に世辞が上手いけども駄目だからね!!君!」

なんでだよ!と揃いも揃って抗議する銀時と刹希を新八は見つめた。
この数時間の内に彼らと出会ったことで、新八はそれに惹きつけられていたのかもしれない。

「……姉上、俺……」
「行きなさい」

お妙は新八の言葉を最後まで聞くことなく、その言葉を投げかけた。

「あの人の中に何か見つけたんでしょ。行って見つけてくるといいわ、あなたの剣を。私は私の力で探すわ……大丈夫、もう無茶はしないわ。私だって新ちゃんの泣き顔なんて見たくないからね」
「……姉上」


――……例え剣を捨てる時が来ても、魂におさめた真っすぐな剣だけはなくすな。


父上の言葉を胸に刻みながら、新八は取っ組み合いにまで発展している銀時たちのもとまで走っていくのだった。





2013.7.24


(あとがき)
ヒロインは役人も嫌いだけどだからって天人が好きだよというわけでもないです。
憎むほどでもないけど普通に嫌い寄りです。


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bkm
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