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刹希は出前を片手に、かまっ娘倶楽部の裏口にやってきた。
気にならないわけじゃないが、のこのことやってきてしまうのもあからさまな気がする。

「……ま、いいか」

出前を渡してさっさと帰ればいいのだ。帰れば。
刹希は何度か自分に言い聞かせて扉を開けた。

「小料理屋のあざさいです。出前を届けに来ました」
「あら、わざわざありがとう。ママー来たわよー」

そばにいたオカマさんは笑顔でそう言うと西郷を呼んだ。
いや、受け取って金払って欲しいんだけど、と言うも、彼女たちは聞いていないのだ。
相変わらず彼女たちのノリにはついていけない。
そうこうしていると西郷が目の前にやってきた。

「悪いわね、わざわざ」
「いえ……仕事ですから」

出前始めたっていうからちょうどいいから頼んだのだと、西郷は言う。
料理を渡して金を受け取った刹希はそのまま帰ろうとしたが、西郷が肩を掴んできて止めた。

「亭主の顔でも見てきなよ」
「いや、亭主じゃねェよ!!」

どこをどう解釈したらそーなるんだよ!
刹希は前を歩く西郷に散々文句を言った。
この人は男気が溢れているが少し歳を食っているせいか、変に物事を解釈するんだ。
そうなんだ、全く、これだから年寄りはと、刹希は胸の中がモヤモヤした。

連れてこられたのは店のホールだった。
三味線の音が室内に響き渡っていて、ステージでは扇子を持ったオカマがダンスを踊っている。
パラパラいる客が酒を飲みながら、その光景を眺めていた。
刹希も西郷に促されるように席に座って、改めてマジマジと前方で踊る銀時を見た。

「パー子もなかなかなもんだわ」
「やだ、パー子なんて名前にしたんですか?」
「天然パーマのパー子よ」
「さすが、ネーミングセンスいいですね」

つけ毛をした銀時はツインテールで、妙なフィット感を生んでいた。
なんだか見てても違和感ないなぁとさえ感じてしまうほどだ。
今度パー子って呼んでみようかなとさえ思う。

けれど横で踊っている本当に女かと思うほどのオカマを見て、刹希は目を薄めた。

「てか、あの横のヅラはどうしたんですか?」
「ん?ヅラ子のこと?」

ヅラ子。
なんのひねりもない。
お前はそれでよかったのか桂小太郎。
刹希は大きくため息をついて、小太郎から銀時に視線を戻した。

「いや、もうあんだけ綺麗だと逆にイラッとする。西郷さんもう小太郎のことをよろしくお願いします」

イラッとするから本気でオカマになってしまえ、と心の底から思った。
女である自分が男である小太郎に負けた気分になるのが屈辱的というか、イラっとした。
素直にいらっとするのだ。

「オイオイ何やってんだよ!グダグダじゃねーかよ!」

あの状態で会ったらどう言ってやろう、どうバカにしようかと考えていた刹希は横から聞こえてきた野次に振り返った。
酔いの回ったオヤジがお猪口を片手に野次を飛ばしている。

「こっちはオメー、てめーらみてーなゲテモノわざわざ笑いに来てやってんだからよォ、もっとバカなことやってみろよ化け物どもよォ!!」
「何だとこのすだれジジイ。てめェ、その残り少ねェ希望を全て引き抜いてやろーか!?」
「止せ、パー子」

腕まくりをしてオヤジの暴言を吐く銀時を小太郎が止める。
けれど、刹希といたはずの西郷がすでに動いていた。
オヤジの後ろに立つと力強くその薄い頭部を掴んだ。

「お客様、舞台上の踊り子に触れたり汚いヤジを飛ばすのは禁止といいましたよね?オカマなめてんじゃねェェェ!!」

放り投げられたオヤジは他のテーブルにぶつかっていった。
それに銀時も小太郎も刹希も呆然と見ていた。


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bkm
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