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それは戦争も終わり、銀時と刹希が再会してしばらく経った頃だった。

刹希が万事屋の手伝いをするようになって分かったことといえば、銀時はなんだかんだ変なことに首を突っ込んだり突っ込まれたりしているということだった。
そしてそれはそこそこの頻度で起こるということ。

基本的に口がよく回るくせに、手も出しやすいのせいなのか、最後は力技に出るのが銀時だった。
当時の銀時といえば、武器にごくごく普通の木刀を使っていた。
ついでに刹希は今と大して変わらない戦闘スタイルだ。

無茶をして木刀を何本かお釈迦にしていたし、刹希が来る前も含めるとよくやっているとある意味感心してしまうレベルである。
最初は使い物にならなくなった木刀を見て残念だとか、また買わなくちゃねだとか、銀時が無事でまあよかっただとか思っていた。
けれど、こうも回数がかさむと意味が分からないと思うようになった。
普通にしてたらこんなことになるわけないじゃないか、なんで木刀がこんなに破壊されるんだよ!と。

「ねぇ、いい加減変な事件に首つっ込むのやめたら?」


そして、木刀が何度折れたかしれないある日、万事屋では緊急会議が開かれた。
ソファーに向かい合って座った刹希は、机の上に置いてある木刀と銀時を交互に見た。
銀時は取り乱すこともなく、いつも通りの態度で浮気をさらっと否定するみたいに言う。

「別につっ込んじゃいねェだろ?アレだよ?事件が向こうからやってくるんだよなァ」
「そんな、そこにいたら殺人事件が起こっちゃうコ◯ンみたいな現象期待してないから」

そして巻き込まれる自分の身にもなってほしい。
刹希は大きくため息をついた。
銀時と再会してから、ため息をつく回数が増えた気がする。

「もっと物は大切に使うべきだと思うんだよね」
「これでも大切に使ってますよ」

ほら、今回は長かった気がするよと銀時は言う。
1か月、いや、半年?あ、1年だったっけ、いや5年?10年?
へらへら笑う銀時に刹希は瞬間、ドスの効いた声を出した。
銀時もびくっと肩を上下させた。

木刀なんて、真剣ではないからそりゃ値は安い。
だが、値が安いだけだ。
毎度毎度買いなおしていたらそれは相当の額になるわけで、そしてその金は誰が出すのか?

「私が出してるんですよ」
「……ハイ。さすが刹希様!懐が深くて銀さん涙出る!」
「懐が寂しくて泣くのは私なんだよッ!!」
「ギャァァァ!!」

持っていた銀時の折れた木刀を脳天目掛けて振り下ろし、見事に炸裂した。
ぶしゃーと血が噴き出して瀕死状態の銀時の胸倉を掴み、影を持った笑顔で刹希は迫る。

「で?どォすんのよ?」
「え〜……え〜と、ですねェ、アハハうーん、どうしようかなァ〜」

目の前で曖昧な音しか出さない銀時だが、脳内では必死に解決策を導き出そうとしていた。
何しろ自分の発言に、自分の生きるか死ぬかの運命がかかっているのだ。
刹希の気に触らない言葉を必死に探した。
と、その時だった。

「――樹齢一万年の木からつくられた代物でよオ!ものによっちゃ岩だろーが隕石だろーがオメーの筋肉だろーがブッ壊せるスゲー木刀なんだよ!」

つけっぱなしにしていたテレビから、そんな天の助けとも取れる声が聞こえてきた。
見るからにインチキくさそうだが、この際なんでも良かった。
銀時はあのあのと声を上げてテレビを指さした。

「あれとかどーですかね?」

そう言って刹希はテレビを見る。
もう一度外人の売り子が商品の説明をしているのをジッと見つめていたが、刹希は銀時を掴んでいた手を離した。

「……月払いテメーで払えよ」
「は、はいィィィィ!!」

銀時はダッシュで電話を取ると高速でダイヤルを回し、木刀を注文した。



刹希は通販番組を見ながらそんな事もあったなァと、しみじみと思い出していた。
あの時の自分は完全に疲れきっていたし、銀時のあの怯えようは思い出すと少しかわいそうな気もした。
自業自得だけれど。
でも、あの木刀はなんだかんだパチもんというわけでもなくて、よほどのことが起こらない限り確かに折れることはなかった。
木刀を買う頻度が少なくなったのはありがたかった。

「これでもうちょっと無茶も少なくなったら良いんだけど……」

まあそれこそ無理な話なんだろう。
それが現実になったことなんて今までなかったのだし。
刹希は深いため息をついて、まだまだ自分の苦労は尽きないと思ったのだった。





2016.6.3


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