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「んだよチキショー!!バカ姉貴がよォォ!!」

怒りを剣を振るうことによって鎮めようとする新八。

「父ちゃん父ちゃんってあのハゲが何してくれたってよ、たまにオセロやってくれたぐらいじゃねーか!!」
「父ちゃんハゲてたのか」
「いや、精神的にハゲて……」

そこでふとこの家では聞かないはずの声に耳を疑った。
そして、声のする方を見ればやはり……。

「って、アンタまだいたんですか!!しかも人んちで何本格的なクッキングに挑戦してんの!!」
「いや、定期的に甘いもの食わねーとダメなんだ俺」
「だったらもっとお手軽なものつくれや!!」
「今しかねーんだよ。刹希がいない今、大量に糖分摂取しとかねェと……」
「ていうか、アンタその刹希さん助けに行ったんじゃないのかよ!!」

確かにあの時、声すら聞き取れなかったが、あの雰囲気は助けに来てねと言っているようなものだった。
この二人がどういう間柄なのかは知らないが、きっと仕事仲間以上の関係なのではと、そう思ったのだ。

「行くよ?行かねーと、地獄の底まで這いずってでも呪いに行ってやるって言われたからね」
「え、何それ。あの時アンタらそんなこと話してたわけ?」
「俺はなァ、刹希のことだったら何考えてんのかちゃんと分かんだからな!刹希を一番好きなのはこの俺だァァ!!」
「誰と張り合ってんだよアンタはァ!」

ようやく言い合いが一区切りついたところで、完成したケーキを銀時は咀嚼していく。

「……ねーちゃん追わなくていいのか」

そちらさんは助けに行け的なことを言ったのにと小言をいう。

「……知らないっスよ。自分で決めて言ったんだから」

刹希さんは姉上の巻き添えでしょと言う新八に、一応わかっているんだなと銀時は思う。

「姉上もやっぱ父上の娘だなそっくりだ。父上も義理だの人情だの、そんな事ばっか言ってるお人好しで……そこをつけこまれて友人に借金しょいこまされてのたれ死んだ。どうして、あんなにみんな不器用かな。僕はキレイ事だけ並べてのたれ死ぬのだけは御免ですよ」

思いだすのは床に臥せていた父の言葉と先ほどのお妙の言葉だった。

「今の時代そんなものもってたって邪魔なだけだ。僕はもっと器用に生きのびてやる」
「そーかい……でも、俺にはとてもお前が器用になんて見えねーけどな」

俯いている新八の目には涙がたまっていた。
銀時は立ち上がると、涙を我慢している新八に言った。

「侍が動くのに理屈なんていらねーさ、そこに護りてェもんがあるなら剣を抜きゃいい……姉ちゃんは好きか?」

銀時の問いに新八は静かに頷いたのだった。



  *



いつもより少しだけスピードを上げながら、銀時と新八は海沿いの道を走っていた。
手に持っているチラシを見ると、どうやら空飛ぶ遊郭は午後四時に出航するようだ。

「ヤバい!!もう船が出ます!!もっとスピード出ないんですか!!」
「いや、こないだスピード違反で罰金とられたばっかだから」

刹希にもかなり怒られちゃったしと、新八の必死な訴えをどうしようもないよねと返す銀時。

「んな事言ってる場合じゃないんですって!!姉上と刹希さんがノーパンの危機なんスよ!!」
「ノーパンぐらいでやかましーんだよ!!世の中にはなァ新聞紙をパンツと呼んで暮らす侍もいんだよ!!あ、でも刹希のノーパンか……」

何を思ったか想像を膨らます銀時に、とりあえず新八は頭を叩いてやった。
そんなやり取りをしている二人に今度は警察が後方からやってきた。

「そこのノーヘル止まれコノヤロー!道路交通法違反だコノヤロー!!」
「大丈夫ですぅ、頭かたいから」
「そーゆー問題じゃねーんだよ!!規則だよ規則!!」
「うるせーな、かてーって言ってんだろ」

近づいてきた警察の一人に銀時は思いっきり頭突きをお見舞いしてやる。
ピンポイントで鼻とかに当たって鼻血も出てるしかなり痛そう。

だが、そんなこと言ってる場合ではない。
警察とは反対側を見れば、空を飛んでいく一隻の船が……。

「ノーパンしゃぶしゃぶ天国……出発しちゃった!!どーすんだァ!!あんなに高く……あ゛あ゛あ゛あ゛!!姉上がノーパンにぃ」
「なんだとォ!!ノーヘルのうえノーパンなのか貴様!!」

頭突きをお見舞いされてもめげずに追いかけてくる警察パトカーに、銀時は何か思いついたのか、キラーンと眼を多分輝かせた。



  *


一方空飛ぶの遊郭では……。

「お妙でございます。可愛がってくださいまし」

綺麗に着付けや化粧をされたお妙が接客指導を先ほどの天人からされていた。

「だから違うゆーとるやろ!!そこでもっと胸の谷間を強調じゃボケッ!!」
「胸の谷間なんて十八年生きてきて一回もできた事はないわよ」

容赦なく天人の顎骨を笑顔で掴むお妙。

「あ、スマン。やりたくてもでけへんかったんかイ……まあエエわ!次、お前やってみイ!」

天人はお妙の横にいたこれまた綺麗に着飾った刹希に命令する。
内心溜息をつきながら、仕方ないなあと同じようにやる。

「刹希でございます。可愛がってくださいまし(棒読み)」
「あんたは何最後に(棒読み)入れとんねん!ちゃんと感情そそぎィ!!」
「そそいでます、そそいでます。これが私の精一杯ですよ(棒読み)」
「来る途中、腹グロ発言しとったやないかイ!」

はてさて、何の話でしょうか?と知らぬふりをする刹希。ついでに、何を言ったのかは想像にお任せである。

「たくっ、本番はしっかりせーよ!次は、実技!!パンツを脱ぎ捨ていよいよシャブシャブじゃー!!」

ついに来たかとじと目をする刹希。
一方のお妙はやはり戸惑う様子を見せている。

「どないした!?はよ、脱がんかイ!!」

そういって、天人は刹希に襲いかかろうとしてきたので、すぐさま立ち上がって蹴りを食らわせた。

「私をノーパンにさせようなんて百億光年早いんだよ。死ね低俗が」
「ね、姉さんも早くせんかイ!!」

指を鳴らしながら鬼気としてそびえる刹希に怯えたのか、天人は標的を変えてお妙に向かう。

「今さら怖気づいたところで遅いゆーねん!!これも道場護るためや!我慢しーや!!」
「キャアアアア!!」
「何してんだ、このブサイクメガネェェ!!」

お妙に襲い倒そうとしているのを見て、今度は回し蹴りを天人の顔面目がけて放つ刹希。
天人は見事に反対側に倒れて行った。
今がチャンスとばかりに刹希はお妙を立ち上がらせた。

「大丈夫?」
「ええ。アナタのおかげで」
「もうめんどいからずらかろう」

そう言って刹希はお妙の手を引こうとしたが、遠くから嫌な騒音が聞こえてきて足を止めた。

「あんたらいい加減にせぇよ!!」
「あ、ブサイクメガネあれ」

天人が顔を押さえながら怒り爆発と言った感じで近寄ってくるが、逆に船の外を指差して刹希はニタリ顔を浮かべた。

「な、なんやァァァ!!」

そういったときにはそのパトカーはもう目の前に迫ってきていた。
確実に突っ込んでくるそれに備えて、刹希はお妙に覆いかぶさった。
次の瞬間、爆風やら突っ込んできた衝撃やらで船の中が騒然とする。

「社長ォォォ!!何事ですかァァ!!」
「船が……つっこんできよった!!」

騒ぎに駆け付けた部下にブサイクメガネこと社長は慌てる。

「アカンでコレパトカーやん!!役人が嗅ぎつけて来よったか!!」
「安心しなァ、コイツはただのレンタカーだ」
「!!」

聞いたことのあるその声にお妙や天人たちは吃驚する。
そこにいたのは、銀時と新八だった。

「どーも万事屋でーす」
「姉上ェ!!まだパンツはいてますか!!」
「……新ちゃん!!」
「刹希は俺の前だけで脱いでくれればいいか――」
「誰が脱ぐかァァァ!!」

そこら辺に落ちていた箸、しかも尖った方を銀時に向かって思いっきり投げつけた。
しかもものの見事に脳天命中した。
え、これ大丈夫?俺大丈夫? by銀時

「おのれら何さらしてくれとんじゃー!!」
「姉上返してもらいに来た」
「アホかァァ!!どいつもこいつももう遅いゆーのがわからんのかァ!新八お前こんな真似さらして道場タダですまんで!!」
「道場なんてしったこっちゃないね。俺は姉上がいつも笑ってる道場が好きなんだ。姉上の泣き顔見るくらいならあんな道場いらない」
「新ちゃん」
「いい事いうじゃない。新八くん」

刹希はふっと微笑して、銀時の隣に立った。

「ボケがァァ!!たった二人で何できるゆーねん!!いてもうたらァ!!」

社長の一声で銀時たちの周りには、同じ顔の天人がぞろぞろと取り囲んでくる。
そくもまあこの小さな船にそれだけの人数が乗っていたものだ、と刹希は感嘆した。
と同時に呆れたのだった。


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