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「ここは遊び場じゃねェ、帰れ」

土方の第一声が室内に響いた。
総悟と刹希で、拝み屋ですと銀時たちを紹介した瞬間だった。

「別にこの人たちも遊びで来てるわけじゃないですし、そう怒んなくても」
「怒ってるっつーか、百歩譲ってこれが霊媒師なら俺は住職呼ぶわ」
「土方さん馬鹿にしてるんですか?これでもこの人たちはちゃんと霊が見えるんですからね!」

刹希さんそんなむちゃぶり設定いきなり付けんなよ!と新八が心の中で怒鳴っていることなど露知らず、刹希は話を盛っていった。

「どう見てもこんなんうさん臭い連中としか言いようがねぇだろーが!」
「あらっ、お兄さん背中に……」

銀時が変な事を喋り途中でやめるという嫌がらせに近いことを始めた。
刹希の幽霊見えるんですよ発言を実行してくれたようだ。
なんとも息の合う二人である。

「なんだよ……背中になんだよ」
「ププッ、ありゃもうダメだな」
「なにコイツら、斬ってイイ!?斬ってイイ!?」

銀時の態度にキレる土方を、刹希は内心笑ってみていた。
正直刹希自身、何がダメなのか全くよくわからないが。
そんな怒り心頭な土方をよそに、近藤はよほど霊が怖いのか、結構拝み屋の存在を信じているようだ。

「先生、なんとかなりませんかね。このままじゃ怖くて一人で厠にも行けんのですよ」
「任せるネ、ゴリラ」
「アレ、今ゴリラって言った?ゴリラって言ったよね」

トイレ行けないって小学生かアンタ、と思いながらも口には出さない。
とりあえず、霊が屯所内に居るのか居ないのかを確認することになった。
ぞろぞろと大所帯で屯所内を練り歩くという珍妙な光景が出来上がった。

「てかお前はもう帰れよ」
「やですね、土方さん。元々紹介したのは私ですよ?彼らが変なことしないか監視するのも私の義務じゃないですか」
「変なことってなんだ!?変なことするつもりなのかァァ!?」

余計な事を言ってしまったらしい。
違う意味で銀時たちを疑った目で見ているような、というか見てる。
正体がバレないうちに金もらってとっとと退散したい気分になってきた。

「すごい人数が倒れられてるんですね」

現在霊の仕業か病気が原因かどうかは別として、動けなくなった隊士が寝ている広間に来ていた。
皆一様に小さく呻き声を上げながら臥せっていた。

「皆さん早く元気になってまたあじさいに来てくださいね〜!待ってますから〜」
「「「綾野さんすぐ治していきます!!」」」
「こいつらホントは元気なんじゃないですか?お兄さん」
「ったく……こんの馬鹿共……」

やはり土方さんも苦労が絶えないようだなぁと、のんきに眺めていたが、背後から感じた気配に刹希は振り返った。
後ろは庭が広がっていて、誰もいない。

「どうしたアルか?」
「いや、何か、見られていたような……」
「えっ!?ま、まさか幽霊とかじゃないよね!?」
「近藤さんビビリすぎでさァ」

視線といえばいいのか、気配といえばいいのか、そういったものを感じた気がしたのだが、気のせいだったのだろうか。
刹希は眉を寄せながら首をかしげた。
本当に幽霊が出ているとでも言うのだろうか。

「さて、一応全体を見回っただけですけど、お三方どうでした?」

屯所をざっと見終わり、元いた場所へ戻ってきた刹希たち。
気をきかせて刹希が話を切り出すと銀時がうーんとあからさまな唸り声を出していった。

「こりゃ相当強力な霊の波動を感じますなゴリラ」
「あ、今確実にゴリラって言ったよね」

てかそのゴリラ引っ張るんだ、と呆れる。
あと霊の波動って何!?気を感じるとかじゃないのか!?と真面目なツッコミどころ満載だが刹希は黙って笑顔で流していた。

「まァとりあえず除霊してみますかね。こりゃ料金も相当高くなるゴリよ」
「オイオイ、なんか口ぐせみたいになってるぞ」
「して、霊はいかようなものゴリか?」
「うつった!!」

総悟も相変わらずノリのいい子である。
まあここで銀時が良いカンジに言ってあとはテキトーに除霊でもなんでもして金を巻き上げて逃げれば任務完了だ。
ちらりと銀時の方を見ていると、銀時の横に居た神楽が思いもよらない咄嗟の言葉を呟いた。

「えーと……工場長」

間髪構わず銀時が神楽の頭を叩く。
若干、刹希の腰も浮きかけたが、なんとか思いとどまって庭の方へ視線を移した。
とりあえず動揺していることだけは気取られないようにしなければ!

「えー、ベルトコンベアにはさまって死んだ工場長の霊です」
「あの〜、みんなが見たって言ってるのは女の霊なんですが」

設定くらいちゃんと覚えとけ馬鹿銀時!とめちゃくちゃツッコミたい心境だ。
近藤らに見えないように顔を俯かせて笑いを堪える刹希。

「間違えました。ベルトコンベアにはさまって死んだ工場長に似てるって言われて自殺した女の霊です」
「ねげーよ!工場長のくだりいるかァァ!?」
「な、何言ってるんですか、ふふ、女性の死んだ理由が分からなければ、ふふ、除霊するとき大変でしょう?ふふ」
「お前はなんでそんな笑ってんの?完全に今の霊の話信じてないだろ」

笑ってません、さっき変な物食べて変な症状出てるだけです。と真顔で言っているがもちろん通用するわけもない。
これは霊に関して話し込んでいるとボロが出かねないと考えた銀時は除霊作業を実行に移すことにした。

「とりあえず、お前、山崎とか言ったか……」
「え?」
「お前の身体に霊を降ろして除霊するから」
「え……ちょっ、除霊ってどーやるんですか?」
「お前ごとしばく」
「なんだァ!それ誰でもできるじゃねーか……ぐはっ!?」

身の危険を察知して逃げようとした山崎だったが、神楽に捕まって腹にもろ蹴りが入った。
この3人これを打合せなしでやってるんだからある意味で息ぴったりだと思う。

「ハイ!今コレ入りました。霊入りましたよ〜コレ」
「霊っつーかボディーブローが入ったように見えたんですけど」
「土方さん上手いこと言いますね、私の座布団いります?」
「笑点やってんじゃねーんだよ!誰が座布団なんざいるかァァ!」

場を和ませようとしているのにそんな怒らなくてもいいのに。
若干飽きてきた刹希は欠伸をして、面倒くさそうに除霊の模様を眺める。
付き添いとしてきている刹希からすればもう帰りたい心境だ。

「私入りました」

神楽は気絶した山崎の後ろに回り、腕を掴んで持ち上げて霊が喋っているように喋り始めた。
すげー雑な腹話術といっても良いかもしれない。
これで隠しきれる訳無いだろうが、刹希は我関せずである。

「えー、皆さん、今日でこの工場は潰れますが責任は全て私……」
「オイィィ!工場長じゃねーか!!」

もう、バカ……と刹希は頭を抱えたくなる。
というかこういう時は口が上手い銀時がやるべきであって、なぜ神楽にやらせるのか。
神楽がやりたがりなのもあるが、これは銀時の采配ミスだ。

「バカ、お前ベルトコンベアにはさまれて死んだ女だよ!」
「ベルトコンベアにはさまれる女なんているわけないでしょ、ベルトコンベアに……アレ?」

やばい、見るからに怪しい雰囲気になってきた。

「もういいから普通の女やれや!」
「無理ヨ!普通に生きるっていうのが簡単そーで一番難しいの!」
「誰もそんなリアリティー求めてねーんだよ!」
「うるさいミイラ男!お前の格好にリアリティがなさすぎネ!」
「なんだァ!?こんなんしてた方がミステリアスだろーが!」
「ああもうやめろやァ!!仕事中ですよ!!ちょっときいてんの二人とも!」

取っ組み合いを始める銀時と神楽の仲裁に新八が入るがダメそうだ。
最終的に神楽と銀時のかぶっていた帽子が落ちてついにどっかで見たことある顔が真選組連中にお披露目されてしまったのであった。



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