「こんにちはー、小料理屋あじさいでーす」
刹希は開け放たれたままの玄関に向かって声をかけるが、返事はなかった。
ここに人が誰も居ないわけがないのだが、一体どうしたのだろうか?と思わず首をかしげる。
現在、刹希は真選組屯所に来ていた。
なぜかというと、この前から刹希のバイト先である小料理屋あじさいで宅配サービスを始めたのだ。
真選組からさっそく予約注文が入り、ドッサリ大量の料理を抱えて真選組屯所前にやってきたのである。
「何かあったのかな?」
「おめぇここで何してんだ?」
「あ、土方さん」
せっかく作った料理を持って帰るのも忍びないし、お金を受け取らずに置いて帰るなんて以ての外だった刹希は、土方の登場に目を輝かせた。
「先日真選組から注文を受けまして、お届けにあがりました。えー合計金額は15370円です」
「ああ、そういやあこの前予約してたか」
「ええ。……あの、人気が感じられませんけど、どうかしたんですか?」
タイミング悪いなと小声で漏らす土方に、刹希は尋ねた。
とりあえず料金を受け取った刹希は屯所の静けさに土方を問い詰めた。
「最近隊士が寝込んじまうことが多くてな」
「はぁ……それはお気の毒で……どうしてかわかってるんですか?」
変な感染症ですか、と聞くと土方は言葉を濁らせて喋ろうとしなかった。
よほど言いにくい事なのだろう、これは逆にすごく気になる。
ただの病じゃないとなると、一体何だというのだろう。
「幽霊にやられたんでさァ、刹希さん」
「ば、総悟お前なァ!!」
「幽霊?」
玄関口からひょっこり現れた総悟の言葉に、今度は視線を土方に戻す。
疲れきったように肩をすくませる土方の反応を見るに、どうやら図星らしい。
「祟られたとかそういう話ですか?」
「いやァ、それもよくわからんくて、ここ2日3日で18人も倒れちまったんでさァ」
「へ〜怨霊に祟られてるんじゃないですか?」
ほら、真選組って結構人を殺しちゃってるし、怨恨とかそういうの、よくありますからね、と笑って言う刹希に土方は顔を引きつらせて冗談言うな、と返した。
土方にすれば、その説は意外と馬鹿に出来ないのだろう自覚はあるらしい。
「……あ、私良い除霊師知ってますよ?紹介しましょうか!」
「そんな胡散くせぇもんに誰が頼るか!」
ただでさえお前の紹介ってだけでも怪しい、と余計な一言をのたまう土方に若干イラッとする刹希。
自分は土方の中で信用のない女なのだということがよくわかった。
「せっかく親切心で紹介しようと思ったのに」
「良いじゃないか!一回試してみたらどうだ〜トシ?」
「こ、近藤さん!」
「ほら、近藤さんはそう言ってますよ?」
「明日にでも頼むよ、刹希ちゃん」
「わかりました。話つけときますね」
土方のツッコミが入る前に刹希は速攻でその場から逃げた。
最近銀時たちが、夏だし幽霊の一つでも出るだろうし、それ系のやつやれば稼げるんじゃね?と言い出したのだ。
ツッコミどころ満載だが、本人たちは意外とノリノリなので、刹希も仕方なく、とりあえず、どうしようもなく、客を今回見つけてきたのだった。
バイトが終了し、家に帰って昼のことを3に入って聞かせた。
「というわけだから、明日はよろしく」
「ほォ〜、真選組が幽霊騒ぎたァいい笑いネタじゃねぇか」
「本当にやるんですか?絶対ボロしか出てこない気がするんですけど……」
「やる前から弱気だからダメなんだヨ!私達は世界に名を轟かせた除霊師アルヨ!」
「お、その粋だ神楽、新八も見習えよ〜」
「ちょっと、刹希さん悪い未来しか見えないんですけど僕!!いいんですか本当に!」
「だってあのバカ2人がやる気満々だから」
なんかもう止めるのも面倒だよね、と悟ったような表情で2人を見守る刹希。
あ、この人もダメだと新八も悟り、流れに身を任せる形となってしまったのだった。
そして翌日、なぜか刹希も3人に同行することになってしまった。
というか紹介した張本人が紹介してくれなきゃならんだろうと言われて、それもそうだねということになったのだ。
3人のような変な格好をせずに済んでそれはそれで助かったのだが。
「あ、総悟君ちょうど良い所に、昨日言ってた除霊師の拝み屋連れてきたよ」
「……刹希さんはどこでそれと知り合ったんですかィ?」
「え、……店?」
若干総悟に疑われた気がしなくもないが、気にせず近藤と土方のいる部屋まで案内してもらった。