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ちょうど人数が六人だったため、二人一組でお化け屋敷に入ることになった。
マジ俺お化け屋敷とか興味ねーからと、散々大人ぶって駄々をこねた銀時も巻き添えにしてジャンケンは行われた。
結果、刹希と銀時、神楽と総悟、新八と近藤という、狙いに狙いすぎた組み分けがなされたのであった。

「絶対嫌アル!こいつと行くくらいなら一人で行ったほうがマシアル!!」
「神楽ちゃん、ジャンケンで決まったものは仕方ないよ」
「そーだぞ、大人ならそこは潔く嫌いな奴とでも行くんだよ」

この俺の潔さを見てみろ、と銀時は言うが、左手はしっかり刹希の肩を抱き込んでいた。
イチャイチャすんなやと傍から思われているが、刹希は無表情一択だ。
心の中では「肩めちゃくちゃ痛いんですけど……」と言いたかった。
何しろ、本気でおばけ屋敷が怖いのか銀時の肩を掴む力がハンパじゃないのだ。
ここでどんだけ怖いんだよと言ってもいいのだが、きっと神楽も新八も薄々分かっているのではないだろうか。
銀時のささやかなプライドのために口には出さないでおいた。

「さあさあ、わがまま言っても意味ないから最初は神楽と総悟君行ってらっしゃい」
「ほれ行くぜィ、チャイナ」
「お前に言われなくても今行くところだったアル!」

お互いに先を行こうとする様子を残っていた4人は見届けた。
あれでお化け屋敷の中は大丈夫なのだろうか、と考えるもなんとなく誰も口にはしなかった。
今更感がありすぎて言えなかったのだ。

「うるさいのは先に行ったけど、次はどっち先行きます?」
「僕はどっちでもいいですけど」
「じゃあ二人先行っていいぞ!俺たちはゆっくり行くからさ!」
「わかりました……それじゃ行くよ銀時」
「……珍しく銀さんが終始黙ってたなぁ」

肩にある腕を叩き落として腕を引っ張っていく刹希と黙ってついて行く銀時を見送った新八はそんなことを呟いた。

「いい加減怖いの慣れたらどうなの……銀時くん」
「べ、別にぃ?怖くないし〜?」
「10年来の知り合いにそれはないわァ、無理があるわァ」

失笑に近い笑いを浮かべながら、刹希は銀時の前を歩いて行く。
先の方から客の叫び声と何やら爆音が聞こえてくるような来ないような気がするが、あまり考えないようにした。
とにもかくにも、ここは銀時の気を紛らわすのが鉄則だろう。
お化け関係では全くの役立たずなのが銀時という男だ。

「ほら、そこお化けでそう」
「ウオォォなんだてめーやんのか……!?」

銀時は銀時で、自分が怖いの苦手だと周知にもかかわらずカッコつけたい気持ちもあったりするのだ。
そのせいで銀時のよくわからない威勢のいい声を耳元で聞かされる羽目になるのは刹希である。
モノホンでもないアトラクションになぜそこまで怖がるのか、刹希には理解しかねた。

「ちょっと!なんで止まるの!」
「やっぱもういいじゃん?ずいぶん楽しんだじゃん?そこに出口あるし出ようぜ」

そういって銀時が指差す先には淡く非常口の明かりがついた扉。
どんだけ怖いんだよ!と刹希は若干呆れて自分も扉を指さす。

「リタイア用の出口だけどね!!自分の威厳なくなっても良いならどうぞ途中退場してください!」
「そこはお前、刹希が出たいってことにしてくれてもいいだろーが!」
「私全然怖くないから嫌ですけど!?」

なぜそこまでして銀時のプライドを守らなければいけないのか。
そんな義理はさすがにない。自分で勝手に落ちていけ。

「もう一生そこで固まってろ」
「ちょ、刹希ちゃんんんん!?それはないんじゃないの!?」

さっさか先に行こうとする刹希のあとを銀時は顔面蒼白でついてくる。
もう半泣きなんじゃないかこいつ、と思いながら先を進んでいく。
と、いきなり脇にあった障子から勢いよく複数の手が飛び出してきた。
銀時にイライラしてたせいで刹希は一切驚く素振りもしなかった、銀時は野太く叫んで刹希に抱き着く始末だ。

「……ガチかよ面倒見る私の身にもなってよ」
「あれ?銀さん?……と、刹希さん?」

微動だにしない銀時に盛大な溜息をついていると、後ろから新八の声が聞こえてきた。
どうやら進むのが遅すぎて新八と近藤に追いつかれてしまったようだ。
こんな状況で勘弁してほしいと心底思う刹希。

「で、万事屋は何やってんだ?」
「イ……いやぁ〜、刹希がめっちゃ怖いって言ってくるからほら、抱きしめて怖いの和らげようと思ってさァ、うん、銀さん超優しいわぁ〜」
「せっかくですから一緒に行きましょうか」

障子から伸びている腕をバシッと障子の中に押し込んで、笑顔で先を促す刹希。
そんな彼女を見た男子三人は男よりイケメンかよ、と揃って思ったらしい。
抱きついている銀時を引き剥がして、刹希を先頭にして4人は進み始めた。
普通こういった場面だと女子は後ろを引っ付いてくるものなんじゃ……と新八は思うのだが、目の前の銀時を見ているとどうしようもないのかも、と悟らずにはいられない。
口には出さないが銀さんお化けとか苦手なのかな、なんてすでにバレているのだ。

「そういえば、神楽ちゃんと沖田さん大丈夫ですかね」

新八はお化けから一番最初におばけ屋敷に入ったあの二人を話題にあげた。
正直、花見の時と今回の様子を見ていると色々な意味で心配になってくる。

「前方のあの騒音を聞いて大丈夫だと思えるなら大したもんよ」
「もし壊れたってんなら、もちろん警察持ちだろ」
「まぁ!さすが近藤さん!お心が広くて助かります!!」
「え?俺!?俺が修繕費払うのォォ!?」

ずっとドンパチ聞こえてくるし、進むにつれてあからさまに建物が壊れ始めているのを見れば一目瞭然だ。
入る前から一触即発な二人がお化け屋敷を倒壊させようとしているにほぼ間違いないだろう。
金のない刹希と銀時は清々しいほどに近藤に事を押し付けようとしたのである。

「いやいや!君たちのチャイナさんも結構やってるよね!これは割り勘でしょ!!」
「なーに言ってんだよゴリラ、世間ではレディーファーストって言葉まであるんだぜ?そこは男が全額払ってやるのが粋ってもんだろ」
「それデートとかの話だよね!?これ全然話ちげーし!」
「何言ってるんですかゴリ……近藤さん」
「ゴリラって言おうとしたよね?刹希ちゃ」
「もしここで近藤さんあなたが堂々と修繕費を払うとなればきっとお妙も見直すでしょう!」
「おーおーそうだな、うん」
「ああ近藤さん、懐も深くて正義感にあふれて市民のために迷うことなく修繕費を払えるなんて素敵です!惚れ直しました、というかもしれませんよ!株が少しくらいはあがりますよ!」
「ほ、本当かな!?ど、どうしようかなァ〜」
「今ので考えるのかよォォォ!!」

お妙という単語を使っておけばなんとかなるだろう思考の刹希と、モロにその作戦に引っかかろうとする近藤。
チョロすぎかよ、と新八は突っ込まざるを得ない。
今なら三割増で良い話にしてお妙に報告しますよ、と悪徳商法の如く甘い言葉を更に囁く刹希である。

そうこうしている間に前方で取っ組み合いをしている神楽と総悟に追いついてしまった。
ついでに二人のそばには生身のお化けと係員が倒れていた。
どうやら止めようとして巻き添えを食らったらしい、4人はそろって合掌した。

「はいはい、二人とももうやめなさい!」

刹希がそう声をかけるが止まる気配はない。
ヒロインが男に鼻フックを決めるな、と思うが総悟もやり返しているのでなんかお互い様だな、と説教するもの諦める。

「近藤さん、総悟君の保護者なら止めてくださいよ。お妙に2割増カッコよく言っときますので」
「よォし!任せてくれ!!刹希ちゃん!」
「「すっこんでろゴリラ!!」」
「ゴッパァァァ」

瞬殺だった。
これでも真選組局長を張っている男なのだ、これでも。
犠牲者が増えてしまっただけに、刹希と銀時は顔を見合わせてお互い指をさしたり首を振ったり無言のやり取りを交わす。
最終的に刹希が拳を上げてリズミカルに上下させたことによりジャンケンが行われた。
負けたのは刹希である。
予感はした、まあ別にいいかと思いながら銀時の木刀を拝借した。

「新八、二人止めるまでに近藤さん叩き起しといて」
「あ、はい……って、刹希さんどうするつもりなんですか!?」
「何って、止めるんだけど」

さして重要なことではない、と言いたげに返すと刹希は両手で木刀を握り締め振り上げる。
神楽が総悟に掴みかかろうとした刹那、刹希は木刀を二人の間に勢いよく振り下ろした。
ギリギリで止まった神楽はゆっくり刹希の方に顔を向けた。

「気は済んだ?ふ・た・り・と・も?」
「ご、ゴメンナサイ」
「よろしい」

やっと冷静な思考を取り戻したのか、神楽は総悟から離れた。
刹希は木刀を銀時に返して手を叩いた。
そしてこれから降りかかるおばけ屋敷側から降りかかる説教と修理代に関して、刹希は自分と近藤だけが喋るからあとは無言を突き通せと命令した。
もちろん、真っ黒な笑顔の刹希に反論するものは誰もいなかった。

「刹希さん、やっぱり今度手合わせしてくだせェ」
「どうしてそうなっちゃうのかなぁ、総悟君」

事務所で金の話をしている近藤を置いて皆お化け屋敷から出ると、総悟がそんなことを言ってくる。
刹希としては総悟の相手など果てしなく面倒この上ない。
本気になどなれないし、どうすればいいのかもわからない。
どうしてこうも執着されるのかも全くわからない。

「近藤さんにでも稽古付き合ってもらいなよ」
「俺は刹希さんが良いんでさァ」
「お前生意気アル、お前みたいなちんちくりん刹希が相手にするはずないネ」
「ちんちくりんのお前に言われたかねェぜ」
「なんだとォォォ!?」
「ちょっと神楽ちゃんまた!やめなったら!」

流石にさっきの手前、殴り合いには発展していないが汚い言葉が飛び交っている。
それを眺めながら刹希はベンチに座っている銀時に歩み寄った。

「遊園地楽しかったね」
「散々はしゃぎまくったんだからそりゃ楽しいだろーよ」
「お化け屋敷入ったの根に持ってるの?」
「別に〜」
「その割にぐったりしてるけどね」

誰のせいだと思ってんだよ、と小さくごちる銀時に刹希は笑った。
昔も小太郎や晋助たちと一緒に肝試しなんかをやっていたが、あの頃から銀時は幽霊の類が苦手だ。
その異様な怖がり方と無駄な強がりにいつも笑わせられるのだ。

「また来たいね」
「え、お化け屋敷?」
「遊園地」
「おう」

あの二人共またいつかこんな風に遊べたりできるのだろうか。
そんなことを一瞬頭の中で考えるが、刹希は呆れるように笑ってその未来を振り切った。
空も赤赤としていて、一日がそろそろ終わりかけている。
刹希は銀時の腕を引っ張って立ち上がった。

「さぁ、そろそろ帰るよ!」




2013.8.25


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