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結局銀時は強制連行のような形で新八の家まで連れてこられていた。
刹希も銀時だけを置いて帰るわけにもいかず、新八家について行くことになった。


道場の真ん中でボロボロになりながら正座をさせられている銀時。
刹希も横で正座をしながら、銀時を見て痛々しいなと思う。
新八とお妙と向かい合わせで座り、沈黙が続いていたが、銀時がしどろもどろで謝罪をし始めた。

「いや、あのホント……スンマセンでした。俺もあの……原作的に初登場シーンだったんで……ちょっとはしゃいでたっていうか……」
「アンタの初登場もう三ページも前だけどな」

さらりとツッコんでくる新八。
本当に芸人目指せばいいのに。

「……調子に乗ってました。スミマセンでした」
「ゴメンですんだらこの世に切腹なんて存在しないわ。アナタのおかげでウチの道場は存続すら危ういのよ」

そう言いながら姉のお妙がさり気なく切腹用の短刀を鞘から抜く。
綺麗な人だと思っていた第一印象が今では180度変わってしまった。
この人怖い。人って見かけによらないとは正にこのことだ。

「鎖国が解禁になって二十年……方々の星から天人が来るようになって江戸は見違える程発展したけど、一方で侍や剣……旧きに権勢を誇った者は今次々に滅んでいってる。ウチの道場もそう……廃刀令のあおりで門下生は全て去り、今では姉弟でバイトしてなんとか形だけ取り持ってる状態。それでも、父の残していったこの道場を護ろうと、今まで二人で必死に頑張ってきたのに……お前のせいで全部パーじゃボケェェ!!」
「おちつけェェ姉上!!」

しんみりしていたのに、一気に本性を現すお妙に銀時は後ずさりし、刹希は数歩遠い所からそれを傍観する。
触らぬ神に祟りなし。

「新八君!!君のお姉さんゴリラにでも育てられたの!!待て、待て待て、おちつけェェ!!」

抜き身の短刀で襲い掛かってくるお妙を新八はなんとか抑え込んでいる状況で、これはさすがに手を貸した方が良いのかなと考える。

「……銀時、たまには仕事すれば?」

その一言に銀時は思いだしたように懐から小さな紙を取り出して、お妙に見せた。

「切腹はできねーが、俺だって尻ぐらいもつってホラ」
「……なにコレ?名刺……万事屋、坂田銀時?」
「こんな時代だ、仕事なんて選んでる場合じゃねーだろ」
「というか、銀時は普通のお仕事できないでしょ」

話の腰折らないでくれる!?刹希ちゃん!と銀時が言うものだから、仕方なく口をつぐむことにした。
銀時は気を取り直して、話の続きをする。

「頼まれればなんでもやる商売やっててなァ。この俺、万事屋銀さんがなんか困った事あったらなんでも解決してや……」
「だーから、お前に困らされてんだろーが!!」
「仕事紹介しろや仕事!!」

今度は姉弟ともに銀時をぶちのめしにかかっている。
あぁ、こういう時に普段からダラけてる付けが回ってくるのかと、しみじみ思う刹希。

「おちつけェェ!!仕事は紹介できねーが!!バイトの面接の時、緊張しないお呪いなら教えてや……」
「いらんわァァ!!」
「あ、息の根止まった」

ボコボコになってピクリとも動かない銀時を揺さぶってみるも、当たり前だが反応は無い。
刹希はため息をついて新八とお妙に向き直った。

「……私のバイト先も紹介できるならしたいんだけど、生憎バイト二人もいらないって言ってるんだよね……ごめんなさい、役に立てなくて」

刹希のバイト先は正直、刹希がいなくても成り立って行ける程客の入りに困ってはいない。別段バイトを雇うほど急を要してはいないのだ。
彼女がそこでバイトができるようになったのも成り行きに近いのである。

「良いのよ。あなたはこんな男より優しい人だってわかるもの」
「そう?」
「こんな死んだ目をする人と比べれば、とっても誠実な人だって思うわ」
「はは……ありがとう」

今倒れている男に対して辛辣な言葉が聞こえたが、そこは聞こえなかったふりをしよう。

「でも姉上、やっぱりこんな時代に剣術道場やってくのなんて土台無理なんだよ。この先、剣が復興することなんてもうないよ。こんな道場、必死に護ったところで僕らなにも……」
「損得なんて関係ないわよ。親が大事にしてたものを子供が護るのに理由なんているの?」
「お姉さん……」
「でも姉上、父上が僕らに何をしてくれたって……」

新八の言葉は、道場の木戸が蹴破られたことによって遮られた。
突然の乱入者に一同入口を見遣った。

「くらァァァァ、今日という今日はキッチリ金返してもらうで〜!!」

現れたのは三人の天人だった。
なんか気持ち悪いの出てきたなと刹希は、鳥肌を和らげるように腕ををさすった。

「オーイ借金か、オメーらガキのくせにデンジャラスな世渡りしてんな」
「俺たちが作ったんじゃない……父上が」
「新ちゃん!!」

やはり道場復興と言っているだけあって、色々訳ありのようだ。

「銀時、面倒なことになってきたね」
「面倒も面倒だぜ。あの店入った時点でアウトだよ、もうあそこには入らねー」

何の決意表明だろうか、でも、言うことに対しては賛成した。
大体ああいう人を見下した人間がいる店は願い下げだ。

「何をゴチャゴチャぬかしとんねん!!早よ金もってこんかいボケェェ!!早よう帰ってドラマの再放送見なアカンねんワシ」
「ちょっと待って、今日は……」
「じゃかしーわ!!こっちはお前らのオトンの代からずっと待っとんねん!!もォーハゲるわ!!」
「いや大丈夫だよ、まだまだふっさふさだよ」

それともヅラなんですか?とツッコむ。

「金払えん時はこの道場売り飛ばすゆーて約束したよな!!あの約束守ってもらおうか!!」
「ちょっと!!待ってください!!」

とんとん拍子で話が進んでいく中、お妙も必死であった。
だが、借金を返さない方が劣勢になってしまうのは仕方のないことだ。

「もうエエやろこんなボロ道場、借金だけ残して死にさらしたバカ親父に義理なんて通さんでエエわ!!捨ててまえこんな道場……」

言い終わる前にお妙が天人を思いっきり殴った。

「この女ッ!!何さらしとんじゃ!!」
「姉上ェェ!!」

もう一人の天人が容赦なくお妙を床へと叩きつけた。

「このボケェ……女やと思って手ェ出さんとでも思っとんかァァ!!」

殴られた天人は頭に来たようで、立ち上がると容赦なくお妙めがけて拳を向けた。
刹希はそれを止めようと動くが、それよりも早く銀時が前へ出た。

「そのへんにしとけよ。ゴリラに育てられたとはいえ女だぞ」

殴りかかった腕を掴むその力は、骨が軋み始める程に強くなる。

「なっ……なんやワレェェ!!この道場にまだ門下生なんぞおったんかイ!!」

すぐさま銀時の手を払って、怒鳴り散らす。

「ホンマにどいつもコイツも、もうエエわ!!道場の件は……せやけどなァ姉さんよォ、その分アンタに働いて返してもらうで」

そう言って懐から取り出した紙をお妙たちに見せた。
そこにはもうなんというか、すごい気色悪いものが写っていた。

(いや、私なにも見てない。気のせいだ)
「コレ、わしなァ、こないだから新しい商売始めてん。ノーパンしゃぶしゃぶ天国ゆーねん」
「ノッ……ノーパンしゃぶしゃぶだとォ!!」
「最っ低だな全く」

新八のリアクションよりも、天人の発想に虫唾が走る刹希。
ボソリと呟いて自分だけ数歩後ろへ距離を取った。

「簡単にゆーたら空飛ぶ遊郭や。今の江戸じゃ、遊郭なんぞ禁止されとるやろ。だが空の上なら役人の目はとどかんやりたい放題や」

こういう事にだけは頭が回る馬鹿のようだ。
いっその事警察にチクッてやろうか、いや、それ以前に潰してしまおうかと考える。

「色んな星のべっぴんさん集めとったんやけどあんたやったら大歓迎やで。まァ、道場売るか体売るかゆー話や……どないする」
「ふざけるな、そんなの行くわけ……」
「わかりました、行きましょう」
「え゛え゛え゛え゛え゛!!」

新八の抗議も虚しく、あっさりと承諾したお妙に驚きの色を隠せない弟。

「こりゃたまげた孝行娘や」

そう言って、お妙の肩に手を置いてうんうんとうなずく。
そして最悪なことに、その天人と刹希は目が合ってしまったのだ。

「なんや、あんたもここの門下生かィ」
「へ? いや、違……」
「姉さんもべっぴんやけど、あんたも中々なもんやで。この道場と姉さんのため思うて一緒に来い」

この人何言ってんの!?人の話聞けよと全力で殴りたい衝動に駆られた。
話が変な方向言ってるから、絶対に見つかりたくなくて空気決め込んでいたのに……っ!

「いえ、私関係ないで――……」

そういったが、ちらりとこちらの盗み見たお妙の目が刹希の選択肢を一つだけにした。

「あ、いや、お姉さんの危機なので……行かせてください、はい」
「あんたも物わかりエエな!」

上機嫌で笑い出す天人だが、刹希は顔面蒼白である。
あのお妙の眼は確実に、「アナタたちのせいでこんな事になったんだもの、万事屋は何でもやってくれるんでしょう?……だから付いてこいや」としか聞こえなかった。
もういい、いざとなったら自分でどうにかしよう。あのバカそうな天人なら何とかなるだろう。
刹希は心に決めた。

「ちょっ……姉上ェ、なんでそこまで……もういいじゃないか、ねェ!!姉上!!」
「新ちゃん、あなたの言う通りよ。こんな道場護ったっていい事なんてなにもない、苦しいだけ……でもねェ私……捨てるのも苦しいの。もう取り戻せないものというのは、持っているのも捨てるのも苦しい。どうせどっちも苦しいなら、私はそれを護るために苦しみたいの」

それの言葉が新八にどう届いたかなんてわからない。
刹希は溜息をつきながら、銀時の前で立ち止まった。
言葉など必要ない、ただ刹希は笑顔で親指を立てたそれを首の前で横一文字に引いたのだった。
伊達に長い付き合いではない、彼ならばそれだけで通じるはず……そう信じて刹希はお妙と共に天人について行ったのだった。


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