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※残虐表現注意?



 人は本当に驚いた時や本能的に身の危険を感じた時、とっさには悲鳴を上げたりだとかのテンプレートな反応はできないものなのだとどこかで聞いた。小学生のころの防犯教室では叫ぶ練習、なんてものをさせられたことがあるが、あれはそういうことを想定しての訓練だったのだろうか、……なんて。
 猫の死骸を抱えて突っ立っているクラスメートから目を離せずに考えた──高校二年の、もうすぐ七夕というころの話だ。


    ×


 状況を整理しよう。現在の時刻は午後五時十五分。私はいつも通り下校していた。クラスメートの名前は深瀬圭。背が高くて猫背気味で、無口だけれどよく笑う、最近少し気になっていたひと。帰り道にばったり出くわすなんて悪くない機会だと思って話しかけようと近づいたら、両腕に抱いた何かに気がついた。重そうな、くすんだ茶色の、布のように見えるもの。
 引き裂かれたようなそれの隙間には鮮やかな赤色。というか、肉、の色。
 つまり、紛うかた無き死骸。
 猫だと判断したのはこの辺りに野良が多いからだ。二ヶ月に一度くらいは道路にぶちまけられた内蔵やらを目にする。痛ましいとは思うけれど、どうしようもない。私には関係ないし。

「あ、白石さん」

 その、私にとっては健康サンダルのつぶつぶの数と負けず劣らずどうでもいい野生動物の死骸を抱いて、ようやく視線に気づいたらしい深瀬君は私に笑いかけた。なにその笑顔、と思った。どうしてそんなに平然としているんだ。何でそんなものが触れるんだ。
「……深瀬君、それ、何?」
 彼は──何に対しての反応なのか皆目わからないが──一瞬眉をひそめて、「猫だよ」と答える。「死んで、るよね」ゆっくりと問うとゆっくり首肯した。そうして悲しそうに笑う。そういえば、彼の携帯に付いていた銀色のストラップは猫の形をしていた気がする。猫好きだったのか。
「よく見かける子だったから、放っておきたくなかったんだ」
 たまに廊下の途中で立ち止まってぼんやりと窓の外を見ていたのは、ひょっとして学校に忍び込んだ野良猫を見ていたのだろうか。妙に合点がいった。これといった接点もなく必要に応じて言葉を交わし、すれ違えば目で追う程度だった私の中の彼が音を立てて姿を変えていく。良い方になのか悪い方になのか、というか彼の行動の分類の仕方すらさっぱりわからないけれど。
「…そうなの」
 とりあえずそう相槌を打って目をそらした。右手で前髪に触れる。言葉を、探す。


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