タオルケットと押し売り少女 デフォルメされた花が規則的にプリントされているピンクのタオルケットは、彼女のお気に入りなのだそうだ。毒々しいまでに鮮やかな色のそれから眼を逸らすと、白い天井に緑色の残像が映る。なんとなく不快で眼を閉じる、その瞬間に甘ったるい声が耳に絡みついた。 「もうおねむ? 夜は長いよー、エナちゃん」 「……寝ませんよ」 言いながら目を開くと、目の前には覆い被さるようにして私の顔を見つめる彼女がいた。逆光で少し陰になった顔は可愛らしく整っていて、私の頬をちらちらとくすぐる湿った髪の毛からは甘い匂いがしている。──ことが、わかる程度には顔が近い。 どいてください、と言おうか迷った。どうして迷うのかはよくわからない。……考えながら見つめ返すと、彼女の瞳──二重まぶたでまつげの長い、ガラス玉のような──がゆっくりと歪んだ。口の端がつり上がったのを視界の隅にとらえて、笑ったのだと気づく。彼女の瞳に映る私は、無感情に彼女を見つめたままようやく口を動かした。 「どいてくれませんか」 「ヤだ」 「……どいてください」 「せっかくかわいい先輩がおとまりに来てるのに寝ちゃうような後輩のお願いは聞かない」 「寝ないって言ってるでしょう」 瞳の中の私が眉間にしわを寄せると、彼女はくすくすと声を漏らして私の横に倒れ込み、タオルケットを胸元に引き寄せて体をこちらに向けた。赤らんだ目尻がわざとらしく色気を醸し出している。(そりゃ、男ならいい眺めだろうけど) 「……それ、好きですね」 タオルケットを指差すと嬉しそうに答える。 「わたしに似てるでしょ、これ」 「………………えぇ」 「わ、肯定された!」 「見てると吐き気がします」 そういう意味で、と続けるとけらけらと笑い声をたてた。エナちゃんのそういうところ好きだなー、と言って首に腕を絡ませる。 「はいはい、男相手と同じ接し方するのやめてくださいね」 「エナちゃんって精神的に男の子みたいだよねー」 「意味わからないんですけど」 「じゃあガールズトークしよう」 「意味わからないんですけど」 「女の子同士でおとまりと言ったらガールズトークなんだよ」 得意げにそう言った彼女に、何話すものなんですかそれ、と顔をしかめたままたずねた。 「知らないの? 友達いないの?」 「先輩にだけは言われたくありません」 だよねー、とまた彼女が笑う。夜のせいでテンションが上がっているのか、上機嫌に絡めた腕を縮めた。……またか、近い。 仕方なく視線を合わせて、瞳に映った私を見ながらなんとなく言った。 「先輩の目、ビー玉みたい」 「へぇ?」 「……なんか、……気持ち悪いです」 彼女は初めて、心から驚いた表情をした。──そして、息を吐くようにふ、と微笑んで、 「男の子はね、みんな褒めてくれるの、宝石みたいって言って」 私にそう答えた。 20110831/タオルケットと押し売り少女 ←[back]→ |