アオイハル 1/6

付き合っていないような




「謙也さーん遅いっすわー。スピードスターやろあんた」

 両肩にかかっている重みの比率が平坦な声と共に増した。
 ついでに後輪でげいんげいんという音がする。ぐらぐらと揺れる車体をどうにかこうにか立て直して謙也は声を張り上げた。

「タイヤ蹴んなや危ない──」
「聞こえへん」

 またがいん、と音。ぐらりと自転車が傾いた。

「危ないからやめぇ言うたんじゃアホぉおお!!」

 思いきり怒鳴り、ブレーキを全力で握る。再三せっつかれていたせいで結構なスピードを出していた謙也の愛車は、歩道の縁石を乗り越えるか乗り越えないか……というところでようやく止まった。

「………」
「スリル満点っすね。謙也さんスタントいけるんちゃう?」
「おまっ……」

 しれっと言う財前につっこみかけ(誰のせいやねん!)(ちゅーか何をそないに平然としとんねんおどれは!)、これ以上の体力の浪費を懸念したわずかな理性によってそれは阻止された。
 そしていつの間にやら腰に回されていた手に気づく。背中にもかたい感触があるということは、……止まるまでの間、まさかしがみついていたのだろうか。
 そういえばブレーキをかけている間胃に圧迫感があったような気も、と顔だけ振り返ってみる。だるそうな黒はやはり平然としていて、自分の顔が映っているのが見えた。
 ……近い。

「……財前、自分結構怖かったんちゃうか」
「アホ言わんでください」

 ぎりぎりと腕に力がこもる。内臓がひしゃげそうな新しい感覚を味わいながら上半身をよじって、謙也は財前の頭に手をのせた。

「何してはるんすか」
「や、別に……あだだ、少しは手加減せんかい!なんやっちゅーねん!」

 数秒謙也を見つめた後ぱらりと(それは非常にあっさり)腕をほどき、財前は今や謙也の足一本で支えられている彼の自転車から、ひどく緩慢な動作で降りた。

「?──もう降りるんか」
「謙也さん、あそこ寄りませんか」

 逆に違和感を覚える程の解放感に腹をさすりながら、謙也は財前の指す場所を見た。





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