凍るゆび 1/2



 11月下旬、今冬初めて霜がおりた、寒い寒い日のことだ。
 目の前でアイスをむさぼる恋人をまじまじと眺めて、俺は一言、感想をのべてみた。


「アホちゃう?」


「あふぉとはなんや!」
 すかさず飛んでくるつっこみに顔をしかめる。食べながら口開けてしゃべらないでください汚いんで。思った通りに口にすればまだ何か言いたげにしつつも謙也さんは正直に咀嚼し始めた。
(……アイスで咀嚼て。ほおばりすぎやろ)
 買ったアイスは相応の大きさをしたものではあるものの、食べ方までそんなに急ぐ必要はないだろうに、と思う。さっきから顔を頭痛で青くしたり喉に詰まらせかけて赤くしたりと徹底的に落ち着きがない。いつものことでもあるけれど。──しかしこの寒い中突然遊びに行こうなんて言い出したかと思えばこれだ。よくよく無計画なものである。

「…財前? 早う食わんととけるで」

 言われて手元に視線を落とし、つられてつい買ってしまった、乳白色とあずきという妙にアンバランスな色彩にため息をついた。よりによってダブルだ。こんな人間に合わせるんじゃなかった。対して謙也さんのフレーバーは、何だか気持ちの悪い組み合わせの、緑。鮮やかなキャンディが混ざったミントグリーンのアイスは半分以上が消えていて、その下の抹茶アイスがまるで待ってでもいるかのように堂々とコーンにはまっていた。薄いキャラメル味のアイスを口に運びながら訊ねてみる。

「何でその二つなんすか、謙也さん」
「何でて、…何で?」
「え……食べ合わせ悪そうですやん」

 彼は少し思案するような表情をしたあと、そこまで考えへんかったなぁと納得したように呟いた。
 あほ。
 思うと同時にあっ、と指差される。「今アホや思ったやろ」。

「ええまぁ、ハイ」

 得意げに指摘するから、当然のようにうなずいておく。とけかけて少し柔らかいアイスをかじりながら、寒い、と当たり前のことを考えた。


「……寒くなってしもたなぁ」


 そう、呟くような言葉が聞こえて、謙也さんの顔を見る。

「……………当っ然、やろが。
 食う言い出したの誰や思ってんすか」
「こないだまであったかかったやん」
「謙也さんのこないだがわからへんっすわぁ」
「せやかて……」

 言い返すようにそう言いかけ──突然口をつぐんで、どこか茫然とした表情になる。何かに気づいたような、そのことに困ってしまったような。ぽたり、と右手にふかみどりの雫が垂れた。「……謙也さん?」

「…あ、や、何も…ぼーっとしとった、」

 小さく謝って、ようやく気づいたのか手にかかった抹茶に焦り出した謙也さんに首をひねった。


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