それはただの午後 1/2

※高校設定※





 もしも、明日世界が終わるとしたら。
「──君は何をしたい?」
 そんな問いを口にして、滝はにっこりと笑った。


「……笑顔で話すことじゃねぇだろ、それ」
 呆れてそう返して、俺はため息をつく。
「そんなこと想像つかねぇし」
「つまらないこと言うなぁ」

 呆れたような(呆れているのはこちらだ)表情にむっとしてお前は答えられるのかと訊ねるときょとん、と俺を見つめて、じきに気持ちの良い笑顔を見せる。「思いつかないけど?」

「……だろうな」
「いいんだよ、俺は人が答えるのが聞きたいだけなんだから。」
「………」

 正確には『答える前の言葉に詰まる様子が見たいだけ』なのだろう。こいつはしばしば、ひどく性格の悪い言動をする。
 げんなりしながら近くの自動販売機に寄り、少し迷って熱い緑茶を買った。
 4月とはいえ日が落ちれば寒い。こぶりなペットボトルを両手で交互にパスしていると、滝がポケットを探っているのが目に入った。どうやら財布を忘れたらしい。
 むう、と滝が唸る。もともと買うために歩いていたわけではないが、目の前で人が買ったら買いたくなるのは当然かもしれない。設備は他より整っていても、寒いときは寒いのだし。

「……。滝」
「ん?」
「ちょっと頼む」

 ペットボトルを投げる。左手でそれを受け取った滝は温かさに顔をほころばせ、ペットボトルを両手で包んだ。
 寒がりは昔からだ。

「まだ買うのかい?」
「……ちょっと、飲んでみたいのがあって」

 ふぅん、と、自分で聞いておいて興味も無さそうに頷く。
 それを背中で聞きながら小銭を入れ、ごとんと落ちてきた缶を手にとった。あったけー、と思わず言葉がついて出る。
 立ち上がって戻ると、滝は驚いたように俺の手元を見つめた。

「珍しいじゃないか、紅茶なんて」
「気が向いたんだよ」
「……ふーん?」

 こちらをうかがっているのはわかっているが、目は合わせられなかった。
 無言で片手を出す。滝は一瞬呆けた顔をして、あぁ、とペットボトルを差し出した。
 お茶の温度を吸いとって少し暖かくなっているその手に、そのまま紅茶を持たせる。滝は俺を見上げた。
 問いかけるような視線に、うまく合わせられない。口を開いたものの、あー、と微妙な音が出ただけだった。

 何を言おうとしていたっけ?


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