デイドリーム



 こんな夢を見た。


 子どものような心許ない表情をした男が、床に座りこんでアルバムをめくっている。男の顔は綺麗な造作をしていて、もっと幼い頃ならば女子と間違われることもままあったであろう、そう思わせるものだった。自分はその男の荷物をかたわらに置いて、男の所作を目で追いながらベッドに腰かけている。

「テニスが好きなんだね」

 ふと、男が言った。小さく笑みを浮かべた横顔をしばし見つめてあぁと頷くと、男は見ていたページのフィルムを剥がし、一葉だけ写真を取り出す。
 少しばかり色の褪せたそれにはおそらく小学生であった男と自分が、二人共テニスラケットを手に持って写っていた。男は快活に笑い、自分は撮影されることを拒んでいるのか顔をしかめている。男がしっかりと腕を絡ませていなければ逃げていたに違いない。

「こんな頃から一緒なのか」

 ぽつりと呟いて男はこちらに視線をやる。写真を見て目を上げた自分と目が合うと、男は困ったようにまたアルバムに顔を向けた。剥がした写真は戻されることなく机の上へひらりと落とされ、男は再びページをめくり始める。
 歳が上がっていく毎に写真は減っていき、数葉の集合写真を最後にアルバムには白紙のページが広がるだけとなった。ゆうに5ページは残っているであろう、写真の貼られていない分を名残惜しそうにぱらぱらとめくり、男はぱたりとアルバムを閉じた。
 赤と黒の斜線で描かれた格子柄の表紙をじっと見つめ、拙い字で記された、少し削れている名前を指でなぞる。自分は手持ち無沙汰にそれを眺め、何かあったか、と問うた。漠然とした質問に男はかすかに眉を吊り上げ、やがてゆるりと笑う。

「楽しそうだったよ。」

 そう言って、今度は少しばかり柔らかく微笑んだ。アルバムを机に置き、呆然とする自分の隣に座って、男は訊ねる。

「──どうしてそんな顔をするんだい?」

 自分は、何でもない、と答えようとした。口を開いたものの思った言葉は出てくることがなく、代わりの問いが顔を出そうとする。求めた答えが返ってくるのだろうという確信があった。自分はぎゅうと口を引き絞り、初めの言葉でも出かかった問いでもない質問を口にする。

「……全てを取り戻しても、同じことを言うか?」

 男は意外そうに目を見開き、次いで息を吐き出すような笑みを漏らした。
 弧を描いた唇が言葉をつむぐ。


「その時には俺はいないよ、真田」


 幸村の顔をした男が、俺にそう言った。



20110603/デイドリーム(あとがき/解説



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