メーデー

旧サイト10000打フリーリクエストより
柊翠華さま:幸赤/嫉妬もの




 それ、の呼び方はたくさんある。可愛い言い方をするならば、ジェラシーとか、ヤキモチとか言われるだろう。
 あるいはスタンダードな名称ならば、嫉妬、だろうか。


 びり、なんてわかりやすいものではなかった。表現しがたい音が繰り返され、やがて柔らかく粉々に引き裂かれたものが紙吹雪となって幸村部長の足元を舞う。元の手紙≠ェ薄ピンクだったからか、桜が散った中に立っているように見えた。桜が咲いたらやってみよう、とぼんやり思う。まだ冬だけれど、春になったら──花びらを集めて、てのひらから零して。この人はきっと誰より似合うから。きっと笑ってくれるから。顔を上げると、部長は笑う。ひどく悲しそうに、深い青の目が歪められている。

「……すまない」

 言葉を発する前に引き寄せられて痛いほどの力で抱きしめられた。苦しくて部長の名前を呼んでみたけれど、部長はぎゅうっと力を込めたまま、すまないとまた繰り返す。何も言わせてくれないままに。
 答えなんて求めていないのだ。むしろそんなもの聞きたくもないのかもしれない。俺の馬鹿な頭はどうしようどうしようと思うばかりで幸村部長の求めることをちっとも導き出してくれないから、このまま、余計なことを言わないまま、幸村部長の与えてくれる「好き」に甘え続けていいのかもしれない。
 ……でも。

「幸村部長」
「………」
「ゆきむら、ぶちょう」

 返答はない。
 顔も見られたくないのかな。
 ブレザーの裾を、指先でそっと引いてみる。

 部長が破り捨てたのは、俺宛の、いわゆるラブレターというものにカテゴライズされる手紙だった。のだと思う。中身を見る前に、破られてしまった。別に貴重なものだとも思わないから(だって俺には幸村部長がいるんだし)いいのだけれど、部長自身は自分がやったことに毎回ダメージを受けるらしい。優しい人なのだ。俺みたいに何人もの女子に泣かれてきたような不真面目なヤツとは違う。
 そんな人に好かれるのは、とても居心地の良いことだった。
 ──床に散らばっている元手紙≠ノ目を落とす。足でくしゃりと混ぜると、ひらりと一かけらの紙切れが上履きに乗った。それに青いインクで書かれていた言葉に、顔がほころぶ。俺はその言葉の魅力を、たぶんだけど知っている。

「………赤也」
「はい」
「頼みがあるんだ」
「……何スか?」
「俺以外からの愛情なんて、受け取らないでほしい」

 あぁ、本音だ。
 ジェラシー。ヤキモチ。嫉妬。オソロシイ言葉かもしれない。けれど、俺はその言葉の強さを、たぶんだけど知っている。
 俺だって幸村部長がもし女子からの手紙を持っていたりしたら、取って、破って、捨ててしまうだろう。ダイスキの代償だと、思う。別に構いやしない。


「………ね、部長、俺幸村部長のコト、すっげぇ好きッスよ」


 だから、好きも嫉妬も部長から受け取るものなら俺には、心地いいものなんです。
(あなたがくれるものだけを、俺のすべてにしたいくらいに)




─────
 何度読み返してもリクエストに沿えている気がしない何か。柊さま、リクエストありがとうございました。
 ちなみにメーデーはフランス語の「M'aider(助けて)」救難信号のあれです。労働祭じゃないです。

20110727/メーデー



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