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「………やるよ」

 ぶっきらぼうに言って歩き出す。咄嗟に言ったその先から後悔と、何より恥ずかしさが押し寄せてきた。もっと巧い言い方を思いつけないのだろうか。もっと、何か、行動を説明出来るようなものを。そもそも飲みたいのがあると言って買ったというのに、……全く話が通っていない。
 やがて、くす、と微かな声がした。振り向くと滝と目が合う。わかってるよと言わんばかりの、お得意の笑みだった。

「激ダサ」
「宍戸が、ね」
「………」

 ひどく楽しげに滝は笑う。本当に君達って、と、言葉が漏れた。
 顔だけがやけに熱く感じて、ごまかすように滝に訊ねた。

「『君達』って何だよ?」
「ん? ……ふふ、こっちの話」

 ただ、優しい友人がいて楽しい限りだってだけだよ。
 そう言って微笑む、顔だけは綺麗なのだから憎たらしい。言葉の意味は理解出来ないながらも、こちらとしてはありがたくないということだけは汲(く)み取れた。
 俺以外を含んでいるのだとしたら、一体誰の話なのか。俺が知っている範囲で思い当たる人物は一人だけだ。
 かつて滝に、よく似ていると言われた男。思い出せば眉が寄る。──滝は俺に言った。

「本当にお人好しだよ。
 ……誰かさんのことなんて言えないくらい、君も。」

 最後の言葉は、見透かすように目を細めて。「お人好し」とおうむ返しに言うと頷き、滝は手の中の缶をくるりと回した。
 自分の手に持ったペットボトルに目をやる。すこし冷めた気のするそれを、ぎゅ、とほんのちょっと力をこめて握ってみた。
 そういえば、とふと滝が口を開く。

「さっきの話だけど」
「さっきの?」
「もしも世界が、って」

 思い出して、あぁと首肯する。
 滝はどこを見るともなく宙に視線をさまよわせ、やがてまだ開けていない紅茶を見つめた。
 しばらくして、俺はさ、とぼんやりとした声で言う。

「お人好しな誰かさん達とお茶でも飲みながら、のんびりしてたらそれでもいいかもなぁって思うんだけど。」

 どう思うなんて訊かれても、答えようがない。
 一緒にいられたらいい、って?
 最期まで?

「……彼女でも作って言えよ、その台詞」
「宍戸に言いたいから言ったんじゃないか」

 少しばかり不満そうに滝はそう言って、
 やがて俺に振り返ると、「戻ろうか」とまた笑った。


20110516/それはただの午後(あとがき



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