2/2 「………やるよ」 ぶっきらぼうに言って歩き出す。咄嗟に言ったその先から後悔と、何より恥ずかしさが押し寄せてきた。もっと巧い言い方を思いつけないのだろうか。もっと、何か、行動を説明出来るようなものを。そもそも飲みたいのがあると言って買ったというのに、……全く話が通っていない。 やがて、くす、と微かな声がした。振り向くと滝と目が合う。わかってるよと言わんばかりの、お得意の笑みだった。 「激ダサ」 「宍戸が、ね」 「………」 ひどく楽しげに滝は笑う。本当に君達って、と、言葉が漏れた。 顔だけがやけに熱く感じて、ごまかすように滝に訊ねた。 「『君達』って何だよ?」 「ん? ……ふふ、こっちの話」 ただ、優しい友人がいて楽しい限りだってだけだよ。 そう言って微笑む、顔だけは綺麗なのだから憎たらしい。言葉の意味は理解出来ないながらも、こちらとしてはありがたくないということだけは汲(く)み取れた。 俺以外を含んでいるのだとしたら、一体誰の話なのか。俺が知っている範囲で思い当たる人物は一人だけだ。 かつて滝に、よく似ていると言われた男。思い出せば眉が寄る。──滝は俺に言った。 「本当にお人好しだよ。 ……誰かさんのことなんて言えないくらい、君も。」 最後の言葉は、見透かすように目を細めて。「お人好し」とおうむ返しに言うと頷き、滝は手の中の缶をくるりと回した。 自分の手に持ったペットボトルに目をやる。すこし冷めた気のするそれを、ぎゅ、とほんのちょっと力をこめて握ってみた。 そういえば、とふと滝が口を開く。 「さっきの話だけど」 「さっきの?」 「もしも世界が、って」 思い出して、あぁと首肯する。 滝はどこを見るともなく宙に視線をさまよわせ、やがてまだ開けていない紅茶を見つめた。 しばらくして、俺はさ、とぼんやりとした声で言う。 「お人好しな誰かさん達とお茶でも飲みながら、のんびりしてたらそれでもいいかもなぁって思うんだけど。」 どう思うなんて訊かれても、答えようがない。 一緒にいられたらいい、って? 最期まで? 「……彼女でも作って言えよ、その台詞」 「宍戸に言いたいから言ったんじゃないか」 少しばかり不満そうに滝はそう言って、 やがて俺に振り返ると、「戻ろうか」とまた笑った。 20110516/それはただの午後(あとがき) ←[back]→ |