書きかけ/オリジナル


2011/11/21 20:15



 彼女の名は棗(なつめ)といった。いつも退屈そうに本を読んではぼうっと宙を見つめている、笑ったところなどそれこそ誰も見たことがないであろうその子は大層綺麗な顔立ちをしていて、彼女の声もろくに知らないぼくは友人と話をしに棗のクラスに行って彼女を見つけたとき、この学年にあんなひとがいたのか、とひどく驚いたのだ。
 何、あいつ気になんの?──ぼくの視線に気づいた友人が言った。そういうわけじゃ、と言葉をにごすとにやにや笑う。ミーハーだな、ありゃ駄目だぜ。違うって。駄目って何が?……ありがちな応酬の後に彼は眉をつり上げる。話しかけてもろくな反応をせず二言三言で会話が終わってしまう、元々近寄りがたいのに今では誰も話しかけられない、顔は綺麗だがあれではまるで人形だ。というようなことを一息に言った彼はあきれた表情で彼女へ目をやる。相変わらず涼しい顔をして本のページを繰った棗は、不意に本を閉じると伸びをして机に伏せてしまった。間もなく規則正しい呼吸の様子が見えて、寝つきいいな、と呟いたぼくの声が素直な感嘆を示していることに気づいた友人は思い切り顔をしかめる。お前も大概変だよな、なんて言葉はあまり気にならない。何となく、声を聞いてみたいな、と思った。



 ぼくとなつめの物語。
 書きかけのまま放置していたのを掘り出してきました。




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