その日は朝から、私の相棒の様子がおかしかった。
雨は嫌いだからいつもならボールの中でおとなしくしてるはずなのに、今日は珍しく窓に近寄り外を眺めていた。
私が呼んでもそこから動こうとしなくて。
仕方なく私が近くに行ってブラッシングをしていた。(これは日課だしね!)
ブラッシングの間もこの子は外を眺めて動かなかった。
近づいてわかったことは、外と漠然と見ているわけではなく、空を眺めている、ということ。
私はいくら目を凝らしても雨雲と雨粒しか見えないんだけどさ。
この子は何を見ているんだろう。
「よし、終わり!」
考えてもわからないものはわからない、と割り切って集中してブラッシングを終わらせた。
毛並みはふわふわのキラキラで、かなり満足のいく出来になった。
そして私はブラッシングが終わったばかりの、相棒の自慢でありチャームポイントである尻尾に顔を埋める。
うん、すっごいふかふか。
猫バスってこんな感じなのかな?
「うおぅ!?」
しばらくもふもふを堪能していたら、まったく動かなかった相棒がいきなり行動を起こした。
座っていた状態から立ち上がって私の服の裾を掴み、どこかへ誘導しようとする。
「わかった、わかった。ついてくから!」
引っ張られるのは嫌だったので(だって今日の服はお気に入り)、あなたの後に着いていきますよ、と意志を示す。
すると相棒は玄関の方へ駆けていった。
言葉通り後をついて行くと前脚で玄関ドアをたしたし、と叩いてる姿が確認できた。
「えーっと、外に行きたいってこと?」
イマイチこの子の心理がわからないので、思ったことを聞いてみた。
するとこくん、と頷いた。
雨の日に外に行きたい、だなんて今日は本当にどうしたんだろう?
不思議に思いながらも着いてくと言ってしまったので、靴を履き扉を開ける。
外はやっぱり雨。
「え、ちょっ!」
だけど、相棒は外に出ていった。
何度も言うが、この子は雨が大大大嫌いなのである。
私は慌てて近くにあった傘を手に取り差して、後を追う。
ぱしゃぱしゃ、と二人の足音だけが聞こえる。
走ってるうちに雨はだんだんと止んできた。
でもやっぱりさぁさぁ、と少しだけ降っていて。
雲の隙間から太陽が少しだけ覗いたりもする。
こういう状態をお天気雨って呼ぶのだろうか?
「・・・あれ?」
曲がり角を先に曲がったはずの相棒が消えていた。
神隠しならぬ、ポケ隠しか!?
「ナマエちゃん?」
「へ?」
きょろきょろと、相棒の姿を探していたらどこからか名前を呼ばれた。
もしやこの声は、
「マツバ、さん……?」
「うん。」
やっぱり。
しかし声は聞こえるのだが、右を見ても左を見ても前を向いても後ろを向いても、金髪の彼の姿が見つからない。
あれ?
もしかして幸せな幻聴的な?
「こっちだよ。」
私がキョロキョロしているのをわかってか、声が聞こえて右にあった少し背の高い垣根の上からにゅ、っと手が出てきた。(口から心臓が出そうになったのは内緒である)
なるほど。
マツバさんはこの向こうにいるのか。
「こっちにさキュウコンがいるんだけど、やっぱりナマエちゃんの子みたいだね。」
「え!?そっちに!?」
この高い垣根、突き破っちゃったの!?
どんだけ元気なんだよ!!
「ついさっきに垣根を飛び越えて入ってきたのは驚きだったけど。」
あ、突き破ってじゃなくてよかった。
それにしても高いジャンプ力だったんだろうかなぁ……。
たぶんマツバさんは苦笑しているのんじゃないかな。
顔は見れないから、声の感じからなんだけど。
「ナマエちゃんに見せたいものがあるんだ。」
「見せたい、もの?」
「ゲン!」
「ぎゃっ!!」
それってなんだろう?、と考えていたら、マツバさんのいる向こうの垣根からゲンガーが元気よく飛び出してきた。
女の子らしからぬ声が出てしまったか、その辺はスルーしてほしい。
このゲンガーはおそらくマツバさんの子だろう。
ニタニタと笑いながら私の周りをぐるぐると回ると、ある一点を指さした。
え?なんで?
「ゲンガーに裏口まで案内させるからさ。」
だから、こっちまでおいでよ。そうマツバさんは言った。
私はきっと今、お洒落マフラーの彼は笑顔なんだろうなぁ、と的外れなことを思ってしまった。
雨と私と相棒と、
(時々マツバさんとゲンガー)
(「あの、ゲンガーさん、早くないですか!?」「ゲンゲン!!」「(何言いたいのかわかんない…)」)
∵マツバさん夢のつもりが、キュウコン夢まがいになってる・・・。
伏線を残しつつ、『特別な雨の日(仮題)』に続きます。わかる人にはわかるかもだけど・・・。