*俺様(腹黒?)マツバ注意!







「ナマエさん、ナマエさん!」



マツバに頼まれていた本を届けようと町の中を歩いていたら、いきなり後ろから名前を呼ばれた。
誰だろう?と思って振り返ると、赤いリボンのついた白い帽子を被った女の子がこちらに近づいてきていた。



「あっ、コトネちゃんじゃない!」



よく見れば、その子は最近知り合ったワカバタウン出身のトレーナーであるコトネちゃんで。
(ミナキ君の話によれば、彼女はスイクンに認められているとか、いないとか)



「お久しぶりです!」

「本当に久しぶりね。どうしてエンジュに?」



確かコトネちゃんはポケモンリーグに挑戦するために各地のバッチを集めていたはずだ。
既にマツバは彼女に負けているので、もうエンジュには用なんてないと思うのだが・・・。



「チョウジタウンのジムに挑戦するので、ここが通り道なんですよ。」

「へぇ。」



ポケモンバトルとかの詳しいことは私にはわからないが、彼女の笑顔から推測するならばおそらく順調に勝ち進んでいるだろう。

純粋にすごいなぁ、と思う。



「そうそう、ナマエさん! 私、ミカンさんから聞いたんですよ!!」

「えっ?何を?」



ミカンさん、とはアザキシティのジムリーダーである鋼タイプ使いの彼女のことであろう。(ちなみにマツバ繋がりで知り合った)

で、彼女から何を聞いたというのだ?



「ナマエさんって、マツバさんと付き合っていたんですね!!!」

「・・・は?」

「私、まったく知らなかったです!」



目をキラキラとさせながら言葉を発するコトネちゃん。

女の子は恋バナが好きだもんなー、



「じゃなくて!!!」

「えっ?」

「うん、今のは忘れて。…えっと、ミカンさんは何だって?」



私も(一応女なので)恋バナは好きだ。
だが、聞くの限定で。
自分の話とか論外ですよ。


あと私は確かにマツバが好きだが、それは誰にも言っていない。
私の片想いなのに。

それがどうしてこうなった。



「確か・・・・・・、普通に『マツバさんとナマエさんは付き合ってるらしいですよ』と。」



マジですか。



「あんな優しそうな人が彼氏だなんて羨ましいです!!!」



うっとりとしたような表情で言うコトネちゃん。

マツバが優しいって?
あぁ、普段は猫かぶってるもんね。
アイツの本性は・・・、って猫被りな彼を知っている人には言っても信じてもらえないだろうな。(経験済み)


とりあえず付き合っていることは遠回りに否定しておこう。







* * * * *







「遅い。」



人に物を頼んどいて最初の一言がこれか。

でも彼のこんな態度には割と慣れているので、さらりと受け流す。



「ちょっと知り合いに捕まちゃってね。」

「ふーん。」

「はい。これ、頼まれてた本。」

「おっ、これこれ! ナマエにしては良く頑張ったな。」



不機嫌な顔をしていたのに私の持ってきた本を出した途端、笑顔になるマツバ。

なんて現金な野郎なんだ。
私の労働に対して「ありがとう」の一言くらいあってもいいじゃないのか。
なのに、私にしては、って・・・。



「で?」

「え?」

「知り合いって誰?」



さっきまで本にくぎ付けだったのに、いつの間にか彼は私を見ていて。

その真っ直ぐな視線に胸がどきり、と高鳴る。



「こ、コトネちゃんだよ。」

「・・・ふーん。」



それだけ聞くと、マツバはふい、と視線を本に戻す。

あっ、ちょっと惜しいことをしたかも。


よくわからないが、コトネちゃんの話に食いついた(?)ので、さっき彼女から聞いた情報をマツバにも言ってみる。



「彼女ね、私とマツバが付き合ってるって勘違いしてたみたいなの。」



焦ったマツバを見れるかなー、なんて淡い期待も抱きながら。



「あっ、それ俺が流した噂だ。」

「へぇー、あんたが流した噂なんだー、」



って、
・・・・・・・・・は?



「すみませんマツバ様、今、一体なんと?」

「・・・様扱いって結構気分いいな。」

「別にそこには反応しなくてもいいじゃん。」



マツバは本に視線を向けたまま、至って普通の表情だ。(若干、気分良さそうだけど)

あの発言は聞き間違いだったのだろうか?
なんだか一人で焦ってる私が馬鹿みたい。



「よ、用は済んだし、もう帰るね。」



あれは“聞き間違い”ということにしよう。
うん、聞き間違いだったんだよ!

変に焦ってるのを見られたくなくて、さっさと立ち去ろうと思ったのに、



「さっき言ったこと、もう一回聞きたかったんじゃないのかよ。」



マツバに引き止められた。

彼の方を振り向くと、目が合って。
心臓が、うるさい。

私がどう言葉を発しようか悩んでいたら、



「お前は俺が好き、俺はお前が好き、ならそれでいいだろ。」



と、まるで明日の天気について話しているようにさらり、と言われた。

ちょ、ちょっと!!
私がマツバを好きなことバレてる!?
というか、それ以前にマツバが私のこと、その、す、す、す、(だめだ言えないや)、だって!?

やばいよ、頭が混乱してきた!



「ここまで言ってもお前はわからないのか?」



私がフリーズした状態だったからか、呆れ顔のマツバが近づいてきた。

・・・これはうぬぼれてもいいのだろうか。



「わ、わかりません・・・!」

「なら態度で教えてやるよ。」



そう言ってニヒルに笑うマツバの顔は、意地悪そうにも、満足そうにも見えた。










全ては彼の思惑通り?
(彼の唇が降ってくるまであと数秒、)





∵最初はドSマツバ様が降臨なさって甘くならなかったので、書き直したらこうなった
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