今日のデンジさんは、変だ。
うまく言い表わせないのだけど、とにかく変。


いつものようにナギサのジムに遊びに行くまで、私の日常は普通だった。

で、何がどうしてこうなった。



「あの、デンジさん……?」

「んー?」

「暑いんですが……。」

「んー。」



この不毛なやりとりをもう何回繰り返しただろう。
もう10を過ぎてから数えてないけど。


現在私はデンジさんに後ろから抱きしめられている。
ぐい、っとひっぱられたと思ったら既に私は彼の腕の中で。

ナギサのジムリーダーは私の肩あたりに顔を埋めたまま動かない。



最初はこの行動に驚いて、後ろからの体温にどきどきして。


この人は私をどきどきさせることに関しては天才だ。
ちょっとでも長い節ばった綺麗な手とか、肩で感じる吐息とか考えると、ほら。
どきどきして、胸がきゅー、っと苦しくなる。

少し慣れてきた(?)今でこそ、こうして色々考えて事ができるんだけど。


普段のデンジさんはこんなことしない。
だから変だ、と感じているのだろう。



「俺は、」

「…へ?」



小さくデンジさんが言葉を零した。



「俺は、俺は…、」





俺はどうしたというのだろう?


あっ、
そういえば昨日、デンジさんのライチュウと彼の取っておいたと思われるアイスを誘惑に負けて、内緒で食べてしまった。

…その事だろうか?



「あの、ごめんなさい、デンジさん。」

「は?」

「あなたのアイス食べたの、私とライチュウです。ごめんなさい。」

「・・・やっぱりお前らか。」



デンジさんの声を聞くと、なんだか驚いたような呆れたような感じで。(彼が驚くのも珍しい)

彼が変なのは、アイス食べたことを怒ってるワケじゃないのかな?

というか、この状態になって初めて会話が成立したよ!

この流れならこの体制をなんとか変えられるんじゃないかと(耳元あたりでしゃべんないでほしい!)、私に抱きついたままの彼に話し掛けようと思ったら、



「わりぃな、ナマエ。あと少しだけ・・・。」



と聞き取りずらかったけど、なんとか聞こえた。

こんなに弱々しい声のデンジさんって初めてかもしれない。


主語がないので、この体制をもう少しってことだと解釈しちゃいますよ?


所在なさげになっていた手を、デンジさんの手にそっと添えてみる。
一瞬、彼は小さくビクッ、としたけど、それっきりまた動かない。

拒絶されなくてよかった。


この状況はかなり恥ずかしいけれど、珍しい彼が見れたからプラマイゼロかなぁ、と能天気な頭の隅で考えていた。










ある日の昼下がり
(沈黙が心地よい、と素直に感じた)





∵落ち込むと人肌が恋しいよね
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