「ナマエちゃんは紅茶とコーヒーと緑茶、どれがいいかな?」

「えっと・・・、お茶でお願いします。」

「ん、了解。」



お茶葉を手に取り、適量を急須に入れる。



「あの、何かお手伝いを、」

「簡単だから大丈夫だよ。」



手に持ってる急須にお湯を入れながら、笑って彼女の申し出に答える。
ナマエちゃんはソファーで小さくなって、すみません…、と呟いていた。(別にこんなこと気にしなくていいのに)

かちゃかちゃ、という陶器の音が少し響く。

緑茶の場合は沸騰したお湯を急須にいれて、そのまま約一分ほど待つとお茶の葉が開いたはずだ。
しっかりと葉が開いてるのを確認し、それをお湯を湯呑みに移して彼女のところへ持っていく。



「はい、どうぞ。」

「あ、ありがとうございます。」



その緑茶を前のテーブルにおき、僕はナマエちゃんの斜め前に座る。
まだ知り合ったばかりの僕らには、この距離がちょうどいい。


僕らは今、お茶をするためにある部屋を訪れていた。
一応は副社長室と銘打ってあるが、僕はまったくといって良いほどこの部屋を使ったことがない。
もともと会社にいること自体が好きじゃないしね。

今日だって、めざめいしがもらえなかったらたぶん来ていなかった。
“たぶん”という推測なのは、この前知り合ったナマエちゃんが来るという事実があったから。
それも僕が会社に来るプラスの要因であったことは確かであって、



「あれ?今日はアノプスと一緒じゃないのかい?」



この前は一緒にいた彼女のパートナーの姿を見ていないことに気づき、自分の分のコーヒーを一口飲んで聞いてみた。


「あ、今日は母と家で留守番してます。」

「そうなんだ。いつも一緒みたいな感じだったから少し意外だな。」

「そうですか?」

「うん。」



ナマエちゃんもお茶を手に取り一口。



・・・。

………。

さて、また沈黙になってしまった。
今度はどうしようか。


あ、そういえば。



「この包み、開けてもいいかな?」

「っ、はい。」



聞いたタイミングが、彼女がお茶を飲んでた時と同じになってしまったようだ。
そのことに少しだけ苦笑しながら、紙袋を手に取る。

ふむ。
重さ的にはクッキーの類だろうか。
しかし、それにしてはこの包装の紙は随分と和風だな。

そんな風に中身を考えながら、丁寧に包装を解いていく。



「えっ……、」



僕としたことが、やっと見えた中身を軽く凝視してしまった。



「あ、あの、母の微妙なチョイスですみません……」



きっと僕が目をぱちぱち、とさせながらお煎餅を見るものだから、変な誤解をさせてしまったのかもしれない。
(ちなみに中身は『おいしい!ポケモンも食べれる!フエンセンベイ!!』と書いてあった)



「そ、そんなことないと思うな!・・・ちょっとびっくりしちゃっただけだから。」



うん。
ただ驚いただけだ、大丈夫、大丈夫。



「ナマエちゃんの家ってフエンの近くだっけ?」

「いえ。ただ、母の実家が近くにあって、それで、」



なるほど。
それで『母のチョイス』なのか。


とりあえず、ものは試しということで、



「食べてみようか?」







* * * * *







フエンセンベイは思っていたよりもおいしかった。
しっかりと味も染みてるし、固さも申し分ない。

お煎餅だなんて、久しぶりに食べたな。

しかし、若い男女一組と一匹のポケモンがお煎餅を食べてる図ってのはなかなかシュールなんじゃないだろうか。(ちなみにポケモンってのは僕のアーマルドだったりする。沈黙を紛らわす意味もこめて出してあげた)


アーマルドは器用に手を使って、おいしそうにフエンセンベイを食べていた。
それをナマエちゃんはキラキラした目で見ていて。
さらにその様子を僕が観察する、という不思議な空間が出来つつあった。

さて、どうやって彼女をこちらに戻そうか。


コン、コン、


その方法を悩んでいたら、扉の叩かれる音がした。



「どうぞ。」



この部屋に今僕がいることを知ってる人は少ない。
きっと顔見知りだろう、と思っての言葉だ。



「ナマエ、いるか?」

「あ、お父さん。」



入ってきたのは彼女の父親だった。
親父たちの話し合いは珍しく横道に逸れないで終わったらしい。



「どうやらお迎えみたいだね。」

「はい。」



アーマルドは入ってきた人には興味がないようで、今だにフエンせんべいを食べ続けていた。

彼女はそんなアーマルドを最後に見て、



「お茶、おいしかったです。」



ペコリ、とお辞儀をしてくれた。
たぶんご馳走様、の意味をこめてだろう。

彼女の湯呑みの中身をちらり、と盗み見すると空のようで、たぶんお世辞ではないのだと思う。
彼女の味覚に合ったようで一安心だ。



「こっちこそあのお煎餅をありがとう。」



にっこりと笑って僕も返す。



「では、失礼します。」



またペコリ、と頭を下げて彼女は扉へ向かう。



「っ、ナマエちゃん!」

「はい?」



なんだかそのまま帰してはいけない気がしたので、彼女を呼び止めてしまった。

・・・えーっと、
こうなってしまった以上、何か言わなくては。



「また、ね。」



短い時間で頭をフル回転させたけど、ありきたりな言葉しか出てこなくて。
ナマエちゃんは僕のその言葉に最初は放心していたようだが、すぐに



「はい、また!」



と笑って返してくれた。

その顔を見て、なんだかもう少し彼女と居たかったな、と心の隅で思った。










また会いましょう!
(本日の収穫:彼女は意外と和菓子が好き?)





∵似非ダイゴさんになっていないか心配だ・・・。

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