知恵比べをするのが最近の趣味だ。別に揚げ足を取ろうってわけじゃあない。ただ私はどうしても、マツバさんに勝ちたかった。何につけても勝る彼に何かで勝ちたかったのだ。そこで提案した「甘えたら負け、負けた方は何でも一つ勝者が欲しがるものをあげる」、恋人らしからぬ勝負に快く乗った彼に作戦は浮かんでいるのだろうか。まあ表情にだされてもあれだけど。

とにもかくにも早速私は、彼を甘えさせるために試行錯誤を開始したのである。私が負けるとか思う奴は名乗り出れば良い。私の勝ち戦なのだから。



「ねえマツバさん今日さあ、」
「ごめんね、今日はミナキと約束が。」

「ナマエ今日暇だよね?」
「あー、ごめんなさい今日は約束が。」
「…夜は?」
「…眠い。」



あくまでも関係は崩さずに私達は騙し交わしのいたちごっこを繰り返していた。一週間、そして二週間過ぎた頃。変化が起きたのだ。それが、今日。仏滅の厄日である。



「いやだからさあ何度いったっけ。もうアレコレ考えて行動するのはいやなんだってば」
「だからって本能の赴くままに行動するのも良くないと思う私!」
「まあ、気にしないでよ」
「この状態で?無理だよ!」
「ああもう煩いよ黙って」



くそう私はあんたの抱き枕でも男汁を吸った布団でもないぞ。私はうら若き乙女。そう乙女なのだ。厳粛たる淑女がいち男性に後ろから抱き留められあわよくばにゃんにゃんな方向に等と考える訳がないだろうに!それなのにまだ彼は私のせいにするというのか。私がだきしめられているのに。被害者は専ら私である。


「何が目的ですか金ですか」
「君の端金なんか期待しないよ」
「辛辣性悪男め恥を知れ!」
「…は?」
「ああすみませんなんでもございません」
「いいから、ちょっと。動かないで」



私だって暇ではない。そんなことは私にとっては損な事である。この勝負にだって、不利である。だからといって解放されてもすることはないが、それとこれとはまた別件なのだ。大事なのは、人間は常に生きるということをしなければいけないから暇ではないということだ。生きるは動詞だ。そして無論、私も同じ原理である。
それ以上の突っ込みは大人として理解し、オジギソウよろしくソッとして触れないでおいてほしい。皆までいうなニートじゃない。深く溜息を吐くとまた揶揄の声が飛んだ。私だってじっとすることは出来ると反抗することも考えたが、これ以上の反論は鼻で笑われる事必至だった為に大人な私は受け止めるようにした。




「…」

「……」

まあ気まずいのは今に始まった事ではないが。私は彼を少しだけ振り向いて見上げようとしたが、直ぐに動くな自分を叱咤し小さな手で両頬を包みまっすぐ前に向くよう元あった位置に顔を戻した。だから記憶だけで、瞼に映ったまやかしだけで彼の容姿を辿ってみようと試みることにする。いつも誘惑に負けそうになったらこうしているのである。



金髪。マフラー。ゴースト使い。垂れ目。俺様。好きな食べ物は羊羹?いかりまんじゅう?それくらいしか出てこないのに、彼という存在が手にとって分かってしまう自分に賛美の言葉と肴に同情を添えてほしい。

悪戯好きで大人気なく、子供のような人なのにバトルの時本気の目に変わり余裕な表情を浮かべる。たまに見せる頼りない笑顔とかふわふわした髪とか、マフラーに顔を埋めるその動作とかが堪らなく胸を熱くさせる。魅力たっぷりの彼に私の心臓はいつも爆発してしまいそうだった。



(ああ、なんか)



考えはじめると物足りなくなってきた。どうせ抱きしめてくれるんなら、もっとがばっと正面から突き当たって欲しいと願うのはただの私のエゴでしか無いのだが。
もぞりとやって身体を彼の背に寄せると、やはり鼻で笑われて少しだけいらっとした。貴殿が悪いのではないか。焦らすような行為をして。堪らず音をあげてみる。



「後ろ向いてい?」
「なんで」
「なんでっても…」
「理由が無いなら駄目」
「あるよ、ありますって」
「何」
「だから、これ、やだ」
「分からないなあ」

くつくつと楽しげに笑いやがって。もう止めてほしい。私を虐めて楽しんでいるのだきっと。屈辱など受けて、おなごが悦ぶとでも思っているのかと問いたいがそれも憚られる。それ以上に焦らされている自分に、我慢の限界を見た。



「マツバさん、」
「なに」
「…」
「ナマエ」


「正面」

「ん」

「…正面からがいいんだって」



もうやだ、と呟いて、振り向く。当然彼は目の前にいる訳で。その表情が余りにも、余りにも。


「我慢出来ないんだね」
「あ…」
「じゃあ、」


降った愛の嵐を防ぐ、傘はどこにも無いというのだ!全くもって神は不親切である。そういう訳だから、今日は厄日。厄日に悪いことが起こるのは御愛敬。まあつまり私が言いたいことは、私は大人な対処所謂諦めという最善策を取ったということだ。



「ね」
「…ふ、あ。なに」
「知恵比べは僕の勝ちのようだね。」
「…あ、そうだったね」
「何でもくれるんだったね」
「え、あ、」


「二週間分と一生分の愛がほしいな」




走ラブイット


(にやけた顔を引っ込めるとか、無理)










Pd様のフリリク企画に参加して強だt(ky、了承の元、頂いてきたものです!^^*
なんというか、マツバさんが計算高過ぎて(色んな意味で)私がたぎった!!
これをニヤニヤしないで読め、ってあったら拷問だよ。
素敵な作品をありがとうございました!!!

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