「今日って何曜日だっけ?」

「木曜日」

「じゃあもうすぐ休みかー」

休み時間特有の喧騒に満ちた教室で、椅子にもたれるようにして座りながらスケジュール帳をぱらぱらめくる。たった今教えてもらった今日から一日飛ばして土日の枠を見てみると空っぽだった。おや、これは。

「ねー赤司、明日か明後日空いてたりしない?」

ダメ元の質問だった。なにせ後ろの席に座るお相手の赤司征十郎という人物は七十二時間働けますかという昔なつかしのキャッチフレーズをさらっとこなしてしまいそうな超人だ。空いてるとか暇とかいう言葉がそもそも似合わない。んが。

「どっちも空いてる」

「あれ?」

「週末は体育館の改修工事が入っててね。その時間は休養なり勉学なりに回せってことになった」

「ほほう」

そんなこともあるのか、と半ば感心しながらスケジュール帳を鼻先にぱさっと被せる。予想外の返答に緩みそうな口元を隠すためだ。我ながらゆるゆるな脳みそのつくりをしてるなぁ。

「なにかに誘ってくれるの?」

「んん、どうしようね」

表面上は適当に誤魔化したものの、意思ではどうにもならない心臓は素直にばっこんばっこんいっている。だって赤司ったら穏やかに笑いかけてくるんだもの。しかも「誘って『くれる』」って、そうしてほしいみたいな言い方だし。期待しちゃうじゃないか。
とはいえ、本当に空いているとは思わなかったから具体的なプランなんて持ち合わせていない。それを取り繕うように週末、週末かぁ、という言葉を口内で繰り返し転がしていたんだけど。

「…あ」

「なに?」

「そういや『シュウマツ』って音には今言ってた『週末』と終わりの『終末』があるよね」

「ああ、そうだね」

だからなに、って訊かれなくて助かった。特に意味なんて込めてない言葉だったし。ただせっかく交わしている会話が途切れるのがいやだっただけで。
けど、赤司にとっては違ったみたいだ。なにかが引っかかったようで目を細めて思考する面持ちになっている。その様をきれいだなと見つめていると、大勢の生徒で賑わう教室内のざわめきがすうっと遠退いていくような感覚があった。多分私の視覚やら聴覚やらが赤司を捉えるために他は余計だと判断したんだろう。ああなんて現金な我が器官たち。
それは、赤司が口を開くとより一層冴え渡った。まるで私と赤司しか世界にいないかのような錯覚に陥る。

「君はシュウマツを僕と過ごしたいと思う?」

振り仰ぐようにして後ろに向けていた首がぎしっと軋んだ気がした。今、私はとても大事なことを問われた、ような。ていうか、シュウマツってどっちの?どっちも?いやでも『終末』の場合は何の終わりを指しているんだろう。そう考えると、世界の、という先行詞が浮かんできてまさかねと却下しようとした。でも出来なかった。それを許さない目を、赤司はしていた。なんだかぞくりとするような、初めて見る目。けれど逃げ出したいとはちっとも思わなくて。だからそう、質問の内容が何を示していたとしても答えなんてとっくに決まってるんだった。

「うん、思うよ」

頷いてみせると、赤司の虹彩の奥で背筋をなぞられるような心地にさせる色味が増す。けれどもそれは一瞬のことで、すぐにふっとかき消えた。あとに残るのは淡く和む見慣れたオッドアイ。

「そう、それは嬉しいね。じゃあどこに行こうか?」

どうやら休日に一緒に遊びに行くのは決定、らしい。元々それをあわよくばと目論んでたんだし万々歳なんだけど。

これで私は赤司の週末を手に入れた。それじゃあ赤司は?その答えは知りたいような知りたくないような微妙なところだった。さっき目にした鮮烈な瞳の色彩が蘇る。もしかしたら私はなにか取り返しのつかないことをしてしまったのかもしれない。
でもまぁ、それでもいいやと思うあたり溺れてるなと思う。なににって訊かれると困るけど。
ちらり、と机に伏せるような姿勢で赤司を伺ってみる。あっさり気付かれてなんだいと微笑を返された。なんでもないよ。自分の気持ちを再確認しただけだから。




(企画「慈愛とうつつ」様に提出させていただきました)

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